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初出社

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今日からいよいよ年明けの仕事が始まる。
まだ雪の残る駐車場を出る。
何時もの様に会社に着くと既に久堂が出勤していた。

「久堂さん、おはようございます。」

「如月さん。おはよう。」

何となく気不味くて、美咲は荷物を置くと給湯室へ行った。
コーヒーを作ったり、砂糖やミルクの補充をしていたが内心ではドキドキしていた。
ハワイでの出来事がいまだに信じられず夢だったのではないかと思ってしまう。

洗い物をしながら、ぼんやりとそんな事を考えていると背後から手が伸びてきて蛇口を締めた。

「如月さん?どうしたの?ぼんやりして。」

耳元で囁かれるとビクリと身体が反応してしまう。

「く、久堂さんっ?ぼんやりなんかしてないですっ。」

「そう?」

美咲の後ろに立ち、流しの縁に両手をつくと、美咲の逃げ場がなくなる。

「久堂さん?も、もうそろそろ皆来ますよ?」

必死な思いで切り返す。

「大丈夫だよ?誰か来たらすぐわかるから。」

後から抱きしめる様にお腹に手を回した。

「で、でも」

「こっち。向いて?」

「あっ・・。だめで・・んっ。」

抵抗する間もなくあっという間に唇を掠め取られる。
美咲は洗い物をしていたので久堂のなすがままだった。下手に動けば久堂のワイシャツを汚してしまうからだ。

「んっ・・。」

美咲の口から甘い吐息が漏れる。
久堂は薄く開いた唇から器用に舌を入れてくる。

「はっ・・。く、どうさんっ。」

その時、裏の従業員入口のドアが開く音がした。久堂は、サッと離れると美咲の唇を親指で撫でた。
そのまま自分の席に戻るといつも通り仕事を始めた。
美咲も急いで蛇口をひねり水を出した。

「おはようございますっ。」

中垣や他のメカニック達が事務所に顔を出した。
久堂は何事も無かったように挨拶をする。給湯室に美咲が居るのに気が付いた中垣が声をかけた。

「如月?おはよう。」

「あっ、うん。おはよ。」

何時もの様に振る舞いたがったがどうしても声が上ずってしまった。

「どうかした?」

「何でもないよっ?あっ、じゃ私ショールームの掃除があるから。」

さっと雑巾を持つと中垣のわきをすり抜けた。

「どうしたんだ?」

何か違和感を感じたのか首を傾げた。





朝の掃除も終わり朝礼も終わるといつもの日常だった。
ただ、長期休暇明けということもあり整備関係の来客や電話がいつもより多かった。

(今年も忙しくなりそうだな。)

心の中でそんな事を考えていると久堂が声を掛けてきた。

「如月さん?今日何かある?」

「アポは無いので、挨拶回りをしようかと思ってます。」

「ごめん、ちょっと手伝ってくれない?車の引取があるんだ。」

「良いですよ?じゃあ、準備出来たら声を掛けてください。」

「悪いね。ありがとう。」

そんな話をしていると、久堂の携帯が鳴る。

(相変わらず忙しそうだな。)

本当に社員旅行が夢だったのではないかと思う程、いつも通りの日常が始まった。
久堂と美咲の関係が変わった事を除けば。
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