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長嶺の正体

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ある日、長嶺は結城に事務所に来るように言われていた。
美咲が悪意の視線に苛まされている時の事だった。

約束の19時に結城の弁護士事務所を訪れる。
事務所には数人の人が残っているだけだった。若い男性に案内され結城の執務室に入る。

「ああ、長嶺さん呼び出して悪かったね?もう少し待ってくれるかな?悪いけどお客様にお茶出して貰える?」

若い男性に声を掛ける。

「いえ、お構いなく。」

ソファーに座ると執務室を見回した。
本棚には法律関係や企業の資料がたくさん並んでいた。
名だたる大企業の顧問弁護士や大きな刑事事件の弁護をしているだけのことはある。

「お待たせしました。呼び出しておいて申し訳ないね?長嶺さん?」

「いえ。大丈夫です。・・それで?話というのは?」

結城に疑問を投げ掛けるが、話があると言うことは恐らく美咲の事に関してだろうと考えていた。

「うん。私は、回りくどいのは好きではないので率直に言わせてもらう。君は『白鳳グループ』会長、長嶺柊一ながみねしゅういち氏のご子息・・だよね?」

「なっ・・・・どうして?それを?」

「病院で君から名刺を貰った時にね?」

「名前・・だけで?」

「いいや、君の父上主催のパーティの時に一度顔を合わせてるんだよ?」

「そんな・・。たった一度で・・?」

「ふふっ。まぁ、顔を覚えるのも仕事のうちだからね?」

「でも、俺が親父主催のパーティに出てたのなんて随分昔のはず・・。」

「・・・・・。」

「愚問・・だったようですね?確かに、俺は長嶺柊一の息子です。ですが10年程前に縁を切り長嶺家を出た人間です。いまさら・・。」

「美咲がね、ここ最近誰かに監視されてる感じがすると私に相談してきたんだ。この意味、わかるよね?」

「まさか!」

「美咲はだいぶ焦燥していて。でも、君には心配掛けたくないと私に相談してきたんだ。」

「っつ・・・・・。」

長嶺は拳を握り締めた。

「長嶺家からは接触がありました。でも・・そこまでするなんて・・・。」

「柊一氏を侮ってはいけないよ?日本最大の企業体の創業者だけあるからね?」

「でも、何故今更?兄達が父の会社は継いでるはずです。今、俺に執着する意味がわからないっ!?」

「それは、私に聞かれても・・。ただ、君の家の事柄に美咲を巻き込んで欲しくはないな?」

結城の言う通りだ。美咲には何の関係もない。自分の事情に巻き込んでしまった。

「申し訳・・ありません。」

「今、美咲は私の知り合いの所に身を置いている。その間にそちらの問題を解決してもらえないだろうか?」

「はい。それは勿論。それで今美咲は何処に?」

「悪いがそれは言えない。ただ、安全な場所に居ると言う事だけは理解してくれ?」

「くっ・・。解りました。今はこの問題を解決するのが先決・・という事ですね?」

「えぇ。」

そこには、美咲の前で見せる笑顔は無かった。




✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻




「キミコママ?送り迎えは大丈夫だよ?」

「そんな事言ってもね?昴先生のお願いだからさぁ~?」

「ふふっ。キミコママは本当に昴おじさんが好きなんですね?」

「やだぁ~!!当たり前の事聞かないでぇ~?」

美咲の顔にも笑顔が浮かぶ。

「じゃあ、キミコママの為にも頑張って手伝わないとねっ!?」

「何言ってるの!?貴女は朝からちゃんとお仕事してるんだから夜は早く寝なさい!!」

「もー、何言ってるの?私だって子供じゃないんだから、これ位はさせて?」

「んまぁ~。ほんと、何ていい娘なのかしらっ!もう、昼の仕事なんて辞めてウチで働きなさいな?」

「あはははっ。キミコママそれは無理だよ?私、今の仕事好きだから・・。」

「そうね。貴方の父親のみやびが好きだった車ですもんねぇ~。」

「うん・・。」

美咲は遠い記憶を辿るように過去を思い出した。




「パパ!ママ!早く行こう!」

「はいはい。美咲は本当にこの車が好きね?」

「違うよ?この車じゃなくて、パパとママが好きなのっ!!」

「はははっ!美咲は甘えん坊だなっ?」

小さい身体を抱き上げて雅が言った。

「パーパっ!大好きっ!」

美咲は雅の首に抱きついた。

「パパも美咲のこと大好きだよ?産まれてきてくれてありがとな?」

幼い美咲は両親の幸せそうな笑顔を見て心が温かくなった。

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