十年愛 〜私が愛した人はズルイ人でした。それでも愛するのを止められないのは私の罪ですか？〜

初めてのデート３

二人で夜景を見てると、長嶺が美咲の髪を一房取りその髪に口づけて耳元で囁いた。

「美咲は今までどんな生活してたの？どうしてあの会社の営業をしようと思ったの？」

「っつ・・。」

その問いに思わず俯いてしまう。そんな美咲をみて長嶺が言う。

「ごめん・・。ちょっと焦りすぎたね？美咲の事少しでも知りたくて。だけど、色々事情があるから？話せるようになったら話してくれると嬉しいな？」

「はい・・。」

短い返事だが、その言葉にはとても重い想いがつまっていた。
夜景を見る美咲の瞳には困惑の色が滲んでいた。
気が付くと既に午前０時を過ぎていた。

「ごめん。こんな時間になっちゃった・・。本当は帰したくないけど、明日もあるし送っていくよ？」

「・・・。はい、ありがとうございます。」

タクシーで美咲のマンションまで送ってくれる。
車を降りると、長嶺に言った。

「長嶺さん、今日はありがとうございました。・・・また。」

「うん。またね？」

長嶺と別れると、タクシーが見えなくなるまで見送った。
自分の部屋に入り冷蔵庫から水を取り出すと一気に飲んだ。
先程、長嶺に言われた言葉を思い出し頬がまた熱くなる。

「長嶺さんが、私を好き？そんな・・ことっ！」

一気に涙が溢れそうになる。それを我慢すると鼻の奥がツーンと痛くなった。

「私なんかっ、彼に似合わない・・よ。」

手に持つミネラルウォーターをテーブルに置くと身体をベッドに預け今日の出来事を思い返す。

長嶺に声を掛けてきた女性達の美咲を見下した視線。
久々にあの類の視線を向けられた。

そして一緒に料理して一緒に食べる。普通の人には当たり前にあることだろうが美咲にとっては特別な事だった。

長嶺の言葉を思い出す。

『付き合ってほしい、大切にする。』

（きっと本当の私を知らないからだ・・。今まで期待しても散々裏切られてきた。何時からだろう、期待するのも他人を信用するのも諦めた。そうすれば裏切られる事はない。自分の身を心を守るためにそうするしかなかった。）

「きっと珍しいだけだ。女の営業なんて、本当の私を知ればきっと・・。それに少し距離を置けばきっと私にちょっかいかけることも無くなるでしょ・・。」

ベランダに出ると心地良い風が頬を撫でた。
月がいつもと変わらず浮いていた。
長嶺と一緒に見た夜景は本当に綺麗だった。でも、今一人で見る空は悲しかった。
見上げた月がぼやける。いつ以来だろうか、他人にこんなにも感情を動かされたのは。
心がこんなにも暖かくなったのは？

「・・・。」

もう一度、空を見上げる。月が優しく自分を照らしてくれていた。