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隠しきれない想い2
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「俺は一体何してるんだ?」
長嶺の後ろ姿を見送りながら呟いた言葉は誰に聞かれることもなく消えていった。
長嶺の言う通りだ。自分には妻も子供も居る。独身の長嶺を咎める事も、美咲を独占する資格なんて自分には無い。だけど・・・。美咲の事を思うと胸の奥が軋んだ。
事務所に戻ると自分の席に座る。
隣に居た美咲が声を掛けた。
「久堂さん?あの、何かありましたか?」
「いや・・・。」
「?」
「今日の夜何か予定とかある?」
「今夜ですか?今の所何もないですけど?」
「じゃあ、ちょっと予定空けといてくれる?」
「はい・・。わかりました。」
その日は特に何もなく、相変わらずサービス部門の来客が多かった。
夕方になると、次の日は定休日なのもあり皆少しリラックスムードだ。
そんな中、久堂は変わらず忙しそうにしている。書類を書いては携帯に電話がかかってきたり。
(忙しそうだな。いつも朝早く来て夜も遅くまで残ってるし。何かお手伝い出来たら良いんだけどな、、、。)
自分に振分けられた顧客データを整理しながらそんな事を考えていた。
定時を過ぎると、中垣達メカニックは早々に帰っていき、他の営業のメンバーも『お客さんの所に行く』といって出掛けてしまった。
この『お客さんの所に行く』というのは方便で皆飲みに行ったりしているのだ。
「如月さん、後10分位で出れるけど大丈夫?」
「はい。私は大丈夫ですけど・・。」
「じゃあ、申し訳ないけどちょっと待ってて?」
そう言うと忙しそうにしていた。
美咲も溜まった書類や来週からの顧客対応の準備をした。
程なくして、久堂が美咲に声を掛けた。
「じゃあ、行こうか?」
「はい。」
美咲は久堂の後に続き駐車場に着いた。
「乗って?」
久堂の車に乗るように促され助手席に座った。
「何か、車の引取とかですか?」
「ううん。違うよ。」
そう言うと、車を出した。
久堂の車が着いたのは住宅街にある和食料亭だった。
車を降りると
「ここですか?」
「うん。さぁ、行こうか?」
「は、はい!」
慌てて久堂の後を追った。
店内に入ると久堂が大将に言う。
「大将こんばんは。席大丈夫かな?」
「いらっしゃいませ、久堂さん。はい、大丈夫ですよ。奥の個室にご案内して?」
近くにいた若い男性に指示を出した。
「はい。ご案内します。久堂様、こちらへどうぞ。」
「さぁ、座って?」
「お飲み物はどうされますか?」
「あぁ、じゃあ生ビールを2つ。如月さん呑めるよね?」
「はい、大丈夫です。」
席につくと部屋を見回す。
「如月さんの歓迎会してなかったから、俺と二人っきりで申し訳ないけど・・。」
「そんなっ、私なんかの為にわざわざありがとうございます。」
そこへ、ビールが運ばれて来た。
二人共グラスを持って乾杯をした。
「ようこそ!如月さんの上司になれて嬉しいよ。これから一緒に頑張ろうね?」
「はい。ありがとうございます。」
二人で、飲食を楽しんだ。
「凄いですね!こんな料亭来たの初めてですっ!」
興奮気味に言った美咲を暖かな目で見る。久堂の視線に気が付くと美咲はハッとしたように姿勢を正した。
「ごめんなさい。はしゃぎすぎですよね?」
「ふふっ。大丈夫だよ?喜んでもらえて良かった。」
「私なんかの為にありがとうございます。嬉しいです。」
本当に嬉しそうにしている美咲を見つめた。
「えっと・・。私変な事言いましたか?」
「いや。純粋に喜んでもらえて嬉しいなって思ってね?」
久堂の自分に向けられた笑顔にドキンと心臓が跳ねる。
料理が次々と運ばれてきて久堂との食事会は楽しかった。最後のデザートを食べていると不意に久堂が言った。
「不躾な質問で申し訳ないけど、長嶺さんと付き合うの?」
「えっ?」
「昨日も一緒だったん・・だよね?」
久堂の顔は真剣だった。
「・・・わかりません。ちょっと毛色の違う人間に興味を持っただけかもしれませんし。」
自嘲するように言う。
「・・・如月さんは随分自分の評価が低いんだね?」
「・・・・。」
久堂のその質問に、美咲はただ笑うだけだった。
食事も終わり二人で楽しい時間を過ごせた。
店の外に出ると少し冷たい空気が心地よかった。
「久堂さんご馳走様でした。」
笑顔でお礼を言う美咲に久堂の心が痛んだ。
「如月さん、君はどうして・・?」
手を伸ばし美咲の頬に触れる。
「えっ?」
二人暫く見つめ合うが美咲が身体を引いた。
「本当にありがとうございます。」
「あ、あぁ。」
何とか返事をする。
「じゃあ、帰ろうか?」
「はい。」
二人で料亭を後にした。
長嶺の後ろ姿を見送りながら呟いた言葉は誰に聞かれることもなく消えていった。
長嶺の言う通りだ。自分には妻も子供も居る。独身の長嶺を咎める事も、美咲を独占する資格なんて自分には無い。だけど・・・。美咲の事を思うと胸の奥が軋んだ。
事務所に戻ると自分の席に座る。
隣に居た美咲が声を掛けた。
「久堂さん?あの、何かありましたか?」
「いや・・・。」
「?」
「今日の夜何か予定とかある?」
「今夜ですか?今の所何もないですけど?」
「じゃあ、ちょっと予定空けといてくれる?」
「はい・・。わかりました。」
その日は特に何もなく、相変わらずサービス部門の来客が多かった。
夕方になると、次の日は定休日なのもあり皆少しリラックスムードだ。
そんな中、久堂は変わらず忙しそうにしている。書類を書いては携帯に電話がかかってきたり。
(忙しそうだな。いつも朝早く来て夜も遅くまで残ってるし。何かお手伝い出来たら良いんだけどな、、、。)
自分に振分けられた顧客データを整理しながらそんな事を考えていた。
定時を過ぎると、中垣達メカニックは早々に帰っていき、他の営業のメンバーも『お客さんの所に行く』といって出掛けてしまった。
この『お客さんの所に行く』というのは方便で皆飲みに行ったりしているのだ。
「如月さん、後10分位で出れるけど大丈夫?」
「はい。私は大丈夫ですけど・・。」
「じゃあ、申し訳ないけどちょっと待ってて?」
そう言うと忙しそうにしていた。
美咲も溜まった書類や来週からの顧客対応の準備をした。
程なくして、久堂が美咲に声を掛けた。
「じゃあ、行こうか?」
「はい。」
美咲は久堂の後に続き駐車場に着いた。
「乗って?」
久堂の車に乗るように促され助手席に座った。
「何か、車の引取とかですか?」
「ううん。違うよ。」
そう言うと、車を出した。
久堂の車が着いたのは住宅街にある和食料亭だった。
車を降りると
「ここですか?」
「うん。さぁ、行こうか?」
「は、はい!」
慌てて久堂の後を追った。
店内に入ると久堂が大将に言う。
「大将こんばんは。席大丈夫かな?」
「いらっしゃいませ、久堂さん。はい、大丈夫ですよ。奥の個室にご案内して?」
近くにいた若い男性に指示を出した。
「はい。ご案内します。久堂様、こちらへどうぞ。」
「さぁ、座って?」
「お飲み物はどうされますか?」
「あぁ、じゃあ生ビールを2つ。如月さん呑めるよね?」
「はい、大丈夫です。」
席につくと部屋を見回す。
「如月さんの歓迎会してなかったから、俺と二人っきりで申し訳ないけど・・。」
「そんなっ、私なんかの為にわざわざありがとうございます。」
そこへ、ビールが運ばれて来た。
二人共グラスを持って乾杯をした。
「ようこそ!如月さんの上司になれて嬉しいよ。これから一緒に頑張ろうね?」
「はい。ありがとうございます。」
二人で、飲食を楽しんだ。
「凄いですね!こんな料亭来たの初めてですっ!」
興奮気味に言った美咲を暖かな目で見る。久堂の視線に気が付くと美咲はハッとしたように姿勢を正した。
「ごめんなさい。はしゃぎすぎですよね?」
「ふふっ。大丈夫だよ?喜んでもらえて良かった。」
「私なんかの為にありがとうございます。嬉しいです。」
本当に嬉しそうにしている美咲を見つめた。
「えっと・・。私変な事言いましたか?」
「いや。純粋に喜んでもらえて嬉しいなって思ってね?」
久堂の自分に向けられた笑顔にドキンと心臓が跳ねる。
料理が次々と運ばれてきて久堂との食事会は楽しかった。最後のデザートを食べていると不意に久堂が言った。
「不躾な質問で申し訳ないけど、長嶺さんと付き合うの?」
「えっ?」
「昨日も一緒だったん・・だよね?」
久堂の顔は真剣だった。
「・・・わかりません。ちょっと毛色の違う人間に興味を持っただけかもしれませんし。」
自嘲するように言う。
「・・・如月さんは随分自分の評価が低いんだね?」
「・・・・。」
久堂のその質問に、美咲はただ笑うだけだった。
食事も終わり二人で楽しい時間を過ごせた。
店の外に出ると少し冷たい空気が心地よかった。
「久堂さんご馳走様でした。」
笑顔でお礼を言う美咲に久堂の心が痛んだ。
「如月さん、君はどうして・・?」
手を伸ばし美咲の頬に触れる。
「えっ?」
二人暫く見つめ合うが美咲が身体を引いた。
「本当にありがとうございます。」
「あ、あぁ。」
何とか返事をする。
「じゃあ、帰ろうか?」
「はい。」
二人で料亭を後にした。
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