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優しい体温1

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外を眺めながらぼんやりとする。

(私、何してるんだろ・・。皆に迷惑掛けて、仕事だってちゃんと出来てないし何を言われたって仕方がないんだ・・・。)

シートに身を預けると目を閉じた。
シンとした静けさが今は何だか心地良い。
その時、ドアが開く音がして長嶺が付けている香水の柑橘系の爽やかな香りが広がる。

「ごめんね?お待たせ。」

「お疲れ様です。」

「良かったよちゃんと居てくれて。」

「・・長嶺さん。本当に大した事じゃないんです。心配掛けてごめんなさい。だから・・。」

「心配位させて?俺は違う会社の人間だけど同じ営業としてだったら話を聞けるから。あんなに何時も一生懸命で笑顔も絶やさない美咲ちゃんが泣くなんて何も無いわけ無いでしょ?」

「・・・そんな、よく言い過ぎですよ?私はそんなに出来た人間じゃないですから。」

視線を伏せて思わず手を握り締めた。

「美咲ちゃん?」

長嶺は美咲の手を取ると両手で包んだ。

「力抜いて?」

ユックリと力を抜く。

「うん。美咲ちゃん?人間はロボットじゃない。ちゃんと心があるんだ、辛いことが有れば泣くし嬉しいことが有れば笑うでしょ?そうやって心に溜まった物を吐き出さなきゃ駄目なんだ。」

「でも・・・。」

言葉に詰まると、長嶺が車のエンジンをかけた。

「とりあえず、お客さんの所に行っちゃおうか?」

「・・・。」

「大丈夫。何処なの?」

「スカイマンション。」

「ああ、あそこか。あのマンションには俺のお客さんも居るから場所はわかるよ。行こうか?」

「・・はい。」




スカイマンション前の路上に静かに長嶺の車が停まる。

「はい。着いたよ?俺はここで待ってるから行っておいで?」

「・・・はい。じゃあ、ちょっと行ってきますね?」

美咲は車を降りるとマンションの中に消えていく。
その後ろ姿を長嶺は優しい顔で見送った。
10分程すると美咲が帰ってきて助手席のドアを開ける。

「ごめんなさい、お待たせしました。」

「うん。大丈夫だよ?じゃあ乗って?」

「・・・はい。」

「もう行く所はない?」

「大丈夫です。」

「そっか。じゃここからは俺に付き合ってね?」

「は、はい。」

長嶺が車を走らせると近くの海岸の駐車場に車を停めた。

「ちょっと歩くけど行こうか?」

「はい。」

二人で車を降りると浜辺に向かい歩いていく。
浜辺に着くと、人気は少なく海岸線沿いの向こう側には工業地帯の夜景が見える。

「うわー!!綺麗!こんなに綺麗に見れるなんて知らなかったですっ!」

少し興奮気味に長嶺に言った。
心地の良い浜風が頬を掠める。

「良かった・・。喜んでもらえて。」

「・・・。」

目を細めて夜景を見つめる。波の音だけが二人を包み込む。

「寒くない?」

「大丈夫です。」

とはいえ、夜はやはり少し肌寒かった。ブルリと身体を震わせた。

「フフッ。ちょっと寒いよね?」

長嶺は美咲の肩を抱いた。

「ながみね・・さん?」

「こうしてれば温かいでしょ?」

「・・・はい。」

近くにあったベンチに二人で座る。
波の音に遠くに車の走行音が聴こえるだけだった。
目の前に見える夜景に波の規則正しい音が、美咲の心を解きほぐしていった。
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