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第170回『お腹いっぱい 貧富の差 ボサノヴァ』
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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第170回『お腹いっぱい 貧富の差 ボサノヴァ』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約54分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=PLzc2WGesIc
↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/
~・~・~・~・~
文化祭が近づくにつれて、僕たちボサノヴァ部の練習もいっそう気合が入ってきた。
ロックやポップスに押されてあまり注目されることのないボサノヴァにとって、体育館のステージを借りることができたのはチャンスだった。
軽音楽部や吹奏楽部だけでなく、演劇部やダンス部などどの部もステージの使用許可はのどから手が出るほど欲しかった。
そんな中で部員の少ないうちが当日1時間借りられたのも部長の頑張りのおかげだ。
みんなにボサノヴァの良さを知ってもらおう、ボサノヴァを楽しんでもらおう、その一心で僕たちは練習に励んだ。
だから僕たちは見に来てもらうために、ポスターを刷って各部に負けじと校内中の壁に貼った。
チラシも刷って練習の合間に部員たちはチラシ配りもした。
しかし、部員たちはみな、あまり反応は良くなかったと感想を漏らした。
高校生にボサノヴァはまだ早かったのかもしれない。
不安な気持ちのまま文化祭当日を迎えた。
今体育館のステージでは軽音楽部のバンドが演奏している。
客席は大盛り上がりだ。
彼らが終われば、次は僕たちの番だ。
部員たちは、楽器の調整をしながらもお客さんの様子が気になって仕方ない様子だった。
演奏の技術だけで言えば彼らよりも遥かに良い演奏をする自信はあった。
派手な音ともに軽音楽部の演奏が終わった。
客席は拍手と叫び声であふれていた。
このお客さんたちのうちいったい何人がそのまま残ってくれるだろうか。
軽音楽部の面々が頭上で手を振りながらステージをはけると、お客さんも次々にパイプ椅子から立ち上がり、しおりに目を落としながら体育館を出始めた。
楽器を抱えてステージから見た客席はガラガラだった。
いるのはせいぜい部員の家族や、仲のいい友達くらいだった。
「まあ、こんなもんか。」
「いつもどおりだよ。」
「いつもよりマシなぐらい?」
僕たちは互いを見合わせて、小さく笑い合った。
ところが部長が挨拶と部の紹介を始めると、なにやら外からガヤガヤと声が聞こえてきた。
その声は体育館へと近づいてくるようだ。
しかし、感じからして生徒の声ではなかった。
10代の、学校行事にはしゃいでいる声ではなかった。
扉から現れたのは大人たちだった。
20代くらいの若そうな人から、腰を曲げたかなり歳をとった人もいた。
もちろん先生ではない。
生徒たちの親が自分の子供の出し物を見るついでに寄ったのだろうか。
しかしだからと言ってわざわざボサノヴァを選ぶとは思えなかった。
プログラムに書かれた演奏曲目を目で追っている人もいた。
そして好きな曲を見つけたのか、ときどき顔をぱっと明るくさせた。
「どういうことだろう。」
部長の挨拶が終わり、僕たちは演奏の準備に入っていたとき小声で話し合った。
「ありゃあ、近所のボサノヴァ好きが集まったって感じだな。」
「だからってなんで高校生の文化祭に見に来るんだろう。」
「うんうん。バーとかコンサートに行けばいいのにな。」
部員は沈黙した。
みな同じことを考えたのだ。
「貧富の差ってやつかなあ。」
「バーやコンサートに行くお金がないから、ただで聴ける高校生の文化祭に来たってわけか。」
僕たちは苦笑した。
しかしさっきとは打って変わって、表情は晴れやかだ。
お客さんがいる前で演奏できる喜びでいっぱいだからだ。
部長が言った。
「お金がないとか失礼なことは考えるな。お客さんは俺たちと同じくボサノヴァを愛する仲間だ。俺たちはいい演奏をして、みんなを耳からお腹いっぱいにさせてやろう。」
部員はまっすぐ部長を見てうなずいた。
練習はいやというほどした。
チューニングは完璧。
1曲目は定番の『イパネマの娘』だ。
僕たちボサノヴァ部の演奏が始まった。
今日はお客さんにとっては何も変わらない普通の一日なのかもしれないが、僕たちにとっては間違いなく革命的な日だった。
~・~・~・~・~
~感想~
他の音楽ジャンルではなく、ボサノヴァである必要があるため、ボサノヴァから話を考えていきました。
貧富の差をそのものを描くと生々しくなるので、それを和らげるために、演奏される場を文化祭にして高校生の視点にしました。
お題のお腹いっぱいは、食べ物の出し物に関連させて使うこともできましたが、長くなりそうなので多少強引な使い方にしました。
僕たちとか部員たちとか、人称や視点があやふやな文章を反省しています。
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第170回『お腹いっぱい 貧富の差 ボサノヴァ』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約54分でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=PLzc2WGesIc
↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/
~・~・~・~・~
文化祭が近づくにつれて、僕たちボサノヴァ部の練習もいっそう気合が入ってきた。
ロックやポップスに押されてあまり注目されることのないボサノヴァにとって、体育館のステージを借りることができたのはチャンスだった。
軽音楽部や吹奏楽部だけでなく、演劇部やダンス部などどの部もステージの使用許可はのどから手が出るほど欲しかった。
そんな中で部員の少ないうちが当日1時間借りられたのも部長の頑張りのおかげだ。
みんなにボサノヴァの良さを知ってもらおう、ボサノヴァを楽しんでもらおう、その一心で僕たちは練習に励んだ。
だから僕たちは見に来てもらうために、ポスターを刷って各部に負けじと校内中の壁に貼った。
チラシも刷って練習の合間に部員たちはチラシ配りもした。
しかし、部員たちはみな、あまり反応は良くなかったと感想を漏らした。
高校生にボサノヴァはまだ早かったのかもしれない。
不安な気持ちのまま文化祭当日を迎えた。
今体育館のステージでは軽音楽部のバンドが演奏している。
客席は大盛り上がりだ。
彼らが終われば、次は僕たちの番だ。
部員たちは、楽器の調整をしながらもお客さんの様子が気になって仕方ない様子だった。
演奏の技術だけで言えば彼らよりも遥かに良い演奏をする自信はあった。
派手な音ともに軽音楽部の演奏が終わった。
客席は拍手と叫び声であふれていた。
このお客さんたちのうちいったい何人がそのまま残ってくれるだろうか。
軽音楽部の面々が頭上で手を振りながらステージをはけると、お客さんも次々にパイプ椅子から立ち上がり、しおりに目を落としながら体育館を出始めた。
楽器を抱えてステージから見た客席はガラガラだった。
いるのはせいぜい部員の家族や、仲のいい友達くらいだった。
「まあ、こんなもんか。」
「いつもどおりだよ。」
「いつもよりマシなぐらい?」
僕たちは互いを見合わせて、小さく笑い合った。
ところが部長が挨拶と部の紹介を始めると、なにやら外からガヤガヤと声が聞こえてきた。
その声は体育館へと近づいてくるようだ。
しかし、感じからして生徒の声ではなかった。
10代の、学校行事にはしゃいでいる声ではなかった。
扉から現れたのは大人たちだった。
20代くらいの若そうな人から、腰を曲げたかなり歳をとった人もいた。
もちろん先生ではない。
生徒たちの親が自分の子供の出し物を見るついでに寄ったのだろうか。
しかしだからと言ってわざわざボサノヴァを選ぶとは思えなかった。
プログラムに書かれた演奏曲目を目で追っている人もいた。
そして好きな曲を見つけたのか、ときどき顔をぱっと明るくさせた。
「どういうことだろう。」
部長の挨拶が終わり、僕たちは演奏の準備に入っていたとき小声で話し合った。
「ありゃあ、近所のボサノヴァ好きが集まったって感じだな。」
「だからってなんで高校生の文化祭に見に来るんだろう。」
「うんうん。バーとかコンサートに行けばいいのにな。」
部員は沈黙した。
みな同じことを考えたのだ。
「貧富の差ってやつかなあ。」
「バーやコンサートに行くお金がないから、ただで聴ける高校生の文化祭に来たってわけか。」
僕たちは苦笑した。
しかしさっきとは打って変わって、表情は晴れやかだ。
お客さんがいる前で演奏できる喜びでいっぱいだからだ。
部長が言った。
「お金がないとか失礼なことは考えるな。お客さんは俺たちと同じくボサノヴァを愛する仲間だ。俺たちはいい演奏をして、みんなを耳からお腹いっぱいにさせてやろう。」
部員はまっすぐ部長を見てうなずいた。
練習はいやというほどした。
チューニングは完璧。
1曲目は定番の『イパネマの娘』だ。
僕たちボサノヴァ部の演奏が始まった。
今日はお客さんにとっては何も変わらない普通の一日なのかもしれないが、僕たちにとっては間違いなく革命的な日だった。
~・~・~・~・~
~感想~
他の音楽ジャンルではなく、ボサノヴァである必要があるため、ボサノヴァから話を考えていきました。
貧富の差をそのものを描くと生々しくなるので、それを和らげるために、演奏される場を文化祭にして高校生の視点にしました。
お題のお腹いっぱいは、食べ物の出し物に関連させて使うこともできましたが、長くなりそうなので多少強引な使い方にしました。
僕たちとか部員たちとか、人称や視点があやふやな文章を反省しています。
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