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第134回『置物 スキンシップ 震える手』

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敷地内に侵入すると、俺は草のこすれる音をわずかに立てながら壁際へと忍び寄った。
下調べが確かならこのルートは監視カメラに映らないはずだ。
大きい邸宅の割にはセキュリティシステムがザルと言ってもよかった。
それが俺がこの家を今夜の盗みのターゲットにした理由だった。
この家の住人はQ社の社長をやっている。
業績は悪くないながら、妻がいたこともなかった。
そして美術品のオークションにたびたび姿を現すと聞いている。
お宝の匂いはぷんぷんだ。

雨どいをつたって2階へと登った。
どの部屋も灯りが消えている。
きっと社長はすでに眠りについているのだろう。
壁にへばりついて窓をのぞいてみた。
俺は思わずやったと小声を上げそうになってしまった。
部屋の中は暗いしカーテンの隙間からなので詳しくはわからないが、寝室ではないことは確かだった。
それどころかがそこら中に置いてあったり、壁一面に絵がかけられてあることがわかった。
奴が買いあさっている美術品置き場に間違いない。
俺は高鳴る鼓動を抑えて、窓のガラスをそっと割った。
部屋に足を踏み入れても灯りをつけていないし月も出ていないのでよく見えず、手探りで一歩ずつ進むほかなかった。
うっかり美術品を蹴飛ばして物音を立てるわけにはいかない。
慎重に、慎重にだ。
盗むならやはり持ち運びやすい絵だろうと思った俺は、壁に向って進んでいくことにした。
そのとき俺ははっとした。
人がいる?
大きな黒い人影が部屋の中央に浮かんでいる。
だが動く気配がないのでこれは彫刻だとすぐにわかったが、念のため確かめてみることにした。
片手にはいざというときのためにナイフを持ち、でその人影に向ってそっと手を伸ばしてみた。
硬い。
そして冷たい。
やはりこれは大理石か何かでできた彫刻だった。
筋肉の盛り上がりなども感じられたので、古代ギリシアの彫像のようなものなのだろう。
ほっと一息をついたとき、不意に部屋のドアが勢いよく開いた。
「誰だっ?」
部屋の明かりがつけられた。
まぶしくて目をやられた俺でも、そのドアを開けたのが社長本人だとわかった。
「お前、ここで何をしているっ。」
真夜中に窓から部屋に侵入し、彫像に手を伸ばしている俺は誰がどう見ても泥棒だとわかるはずだ。
社長も俺の姿を見て察したらしく、ひげが斜めに上がりにやりとしたのがわかった。
そして社長は俺から目を離さないまま、後ろ手にドアを閉め鍵をかけた。
俺は歯ぎしりをした。
こうなると俺の逃げ道は窓しかない。
体を旋回させて逃げようと思ったとき、社長が口を開いた。
「君もわかるかね、その彫刻のすばらしさが。」
予想外の言葉に俺は足を止めてしまった。
社長はそのままなんの警戒もなく大股で俺に近づいてきた。
「私もね、君のように夜中一人でこの彫刻にをするのが一番の癒しなんだ。同じ趣味の人間に会えてうれしいよ。」
社長はほほを紅潮させ、鼻息が荒かった。
彫刻を見上げると、確かにそれはギリシア彫刻のような筋骨隆々とした勇ましい男性の像だった。
部屋の中を見回してみると、壁に飾られた絵はどれもこの彫刻のようにたくましい筋肉をさらした男性を大きく描いたものばかりだった。
逃げる決心をして体を旋回させたとき、俺の右手は社長の手に捕まった。
ナイフは床にぽとりと落ちた。
「私はね、素敵な男性が描かれた絵や彫刻を買い集め、それらをこの部屋で夜な夜な愛でてきたけど、たまには本物の男性も愛でたいと思っていたんだよ。」
俺は自分よりもはるかに体重の勝る社長の手を振りほどくことができなかった。
アッーーーーーーーーー!
俺の中に社長が侵入してきた。
硬い。
そして熱い。

~・~・~・~・~

~感想~
寝不足でぼーっとしながら書いていました。
お題のスキンシップと震える手の二つはとても相性がいいと思うのですが、ネットスラングに頼った話となってしまいました。
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