107 / 174
第107回『盲点 真っ黒 掛け軸』
しおりを挟む
YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第107回『盲点 真っ黒 掛け軸』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約1時間でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=U685p9hH2TQ
↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/
~・~・~・~・~
私は出張に行くと、必ず現地の骨董品店を尋ねることにしている。
骨董品の収集こそが私の最大の趣味であった。
入社して20年、会社の人との交流は極力たって収入は全て骨董品につぎ込んできた。
結婚もしてないどころか、女性との交際もしてこなかった。
あんなことはお金を浪費するだけだと認識していた。
そんなことにお金を遣うなら、一つでも素晴らしい骨董品を入手することの方がよっぽどいい。
もちろん偽物をつかまされることもあったが、その悔しさが逆に勉強となり、今となっては目も相当肥えてきた。
今日も仕事終わりに骨董品店へ行くことにした。
出張が決まってからすでに店の場所は調べてあったので、知らない町と言えど道に迷うこともなかった。
古い建物ながら良い店構えで、店先もきれいに掃かれている。
店主が誠実に営業しているというのが一目でわかったので、あとは掘り出し物が見つかるかだ。
引き戸をガラガラと音を立てて店に入ると、おじいさんのいらっしゃいというしわがれた声が聞こえた。
年齢は80歳を超えているようにみえるが、後を継いでくれる人はいないのだろうか。
店内はざっと見ただけで相当な品揃えだった。
財布さえ許せばどれもこれも買いたいくらいだった。
だが、それだけにこれだけのものを置いている店をおじいさん一人でやっていてセキュリティは大丈夫なのだろうかと心配にもなった。
狭い店内だからこっそりと万引きはできないにしても、強盗のように持っていかれたらおじいさんに抵抗する術はないだろう。
いかんせん店構えと品揃え、そしておじいさんの人柄がよさそうだったために、私はよそ様の余計な心配までしてしまった。
気を取り直して改めて骨董品を見ていると、壁にかかった一枚の掛け軸が気になった。
遠景にそびえる山を描いた美しい日本画だったからではない。
確かに美しいことは美しいが、私が気になった理由は絵の真ん中に3センチほどの真っ黒い円がべったりと描かれているからだ。
「これ、なんですか? 描いてる最中に墨が垂れてしまったんですか?」
店主に聞いてみた。
「これはね、盲点ですよ。」
「盲点?」
盲点といえば網膜の中の視神経が入ってくる部分で、ここには視細胞がないので光覚を起こさないというものだと教わった。
「これはね、江戸時代のある絵師が描いたものです。その絵師は目に見えるままを追い求め、とうとう盲点まで入れたという話です。」
私はその話を聞いて驚いた。
「すごいですねっ。マリオットが盲点を発見したのは17世紀ですよ。江戸時代は日本は鎖国していたから、その絵師は自力で盲点を発見したことになりますよっ。」
「ぐ、偶然でしょう。」
店主はそっぽを向いた。
「買いますっ。これ、いくらですかっ。」
好奇心をくすぐる掘り出し物を発見した私の興奮をよそに店主の態度は先ほどとは打って変わってそっけなかった。
「これは売り物じゃないんですよ。」
何度お願いしてもその一点張りだった。
だがこういう店は信頼が大事だ。
何度もお店に訪問して自分という人間を知ってもらえたとき、初めて売ってもらえることがあるのは骨董の世界の常識だ。
私は比較的安い値札を付けられた江戸時代の手紙を購入すると、また来ますと言って店をあとにした。
お客は去った。
骨董品の店主は汗を拭いた。
「今度からはこの絵は明治時代に描かれたと言おう。」
すると店の奥から髪をぼさぼさにし服が機械油で汚れている少年が出てきた。
「あの客をレーザービームで殺しちゃえばよかったのに。」
少年は掛け軸の円形の部分を指した。
「ばか言うんじゃないよ。それはこの店から商品を盗もうとするやつを撃つためのものなんだから。」
この骨董品店のセキュリティは、墨の後かと思われた掛け軸の真っ黒な円が実はレーザービームの発射口になっているという、人間の盲点を突いたものであった。
~・~・~・~・~
~感想~
とりあえず盲点が描かれた掛け軸があって、そこが穴になっているというのを考えたのですが、そこからどういう話にしようか悩みました。
当初はのぞき穴の予定で書いていたのですが(だから語り手の女性関係についても冒頭に書いた)、店のセキュリティの話題になったときレーザービームの発射口にしようと思いました。
語り口が一人称から三人称に変わるのは混乱を覚悟の上でやったのですが、もうちょっとうまくやる努力をするべきだったと反省してます。
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第107回『盲点 真っ黒 掛け軸』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約1時間でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=U685p9hH2TQ
↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/
~・~・~・~・~
私は出張に行くと、必ず現地の骨董品店を尋ねることにしている。
骨董品の収集こそが私の最大の趣味であった。
入社して20年、会社の人との交流は極力たって収入は全て骨董品につぎ込んできた。
結婚もしてないどころか、女性との交際もしてこなかった。
あんなことはお金を浪費するだけだと認識していた。
そんなことにお金を遣うなら、一つでも素晴らしい骨董品を入手することの方がよっぽどいい。
もちろん偽物をつかまされることもあったが、その悔しさが逆に勉強となり、今となっては目も相当肥えてきた。
今日も仕事終わりに骨董品店へ行くことにした。
出張が決まってからすでに店の場所は調べてあったので、知らない町と言えど道に迷うこともなかった。
古い建物ながら良い店構えで、店先もきれいに掃かれている。
店主が誠実に営業しているというのが一目でわかったので、あとは掘り出し物が見つかるかだ。
引き戸をガラガラと音を立てて店に入ると、おじいさんのいらっしゃいというしわがれた声が聞こえた。
年齢は80歳を超えているようにみえるが、後を継いでくれる人はいないのだろうか。
店内はざっと見ただけで相当な品揃えだった。
財布さえ許せばどれもこれも買いたいくらいだった。
だが、それだけにこれだけのものを置いている店をおじいさん一人でやっていてセキュリティは大丈夫なのだろうかと心配にもなった。
狭い店内だからこっそりと万引きはできないにしても、強盗のように持っていかれたらおじいさんに抵抗する術はないだろう。
いかんせん店構えと品揃え、そしておじいさんの人柄がよさそうだったために、私はよそ様の余計な心配までしてしまった。
気を取り直して改めて骨董品を見ていると、壁にかかった一枚の掛け軸が気になった。
遠景にそびえる山を描いた美しい日本画だったからではない。
確かに美しいことは美しいが、私が気になった理由は絵の真ん中に3センチほどの真っ黒い円がべったりと描かれているからだ。
「これ、なんですか? 描いてる最中に墨が垂れてしまったんですか?」
店主に聞いてみた。
「これはね、盲点ですよ。」
「盲点?」
盲点といえば網膜の中の視神経が入ってくる部分で、ここには視細胞がないので光覚を起こさないというものだと教わった。
「これはね、江戸時代のある絵師が描いたものです。その絵師は目に見えるままを追い求め、とうとう盲点まで入れたという話です。」
私はその話を聞いて驚いた。
「すごいですねっ。マリオットが盲点を発見したのは17世紀ですよ。江戸時代は日本は鎖国していたから、その絵師は自力で盲点を発見したことになりますよっ。」
「ぐ、偶然でしょう。」
店主はそっぽを向いた。
「買いますっ。これ、いくらですかっ。」
好奇心をくすぐる掘り出し物を発見した私の興奮をよそに店主の態度は先ほどとは打って変わってそっけなかった。
「これは売り物じゃないんですよ。」
何度お願いしてもその一点張りだった。
だがこういう店は信頼が大事だ。
何度もお店に訪問して自分という人間を知ってもらえたとき、初めて売ってもらえることがあるのは骨董の世界の常識だ。
私は比較的安い値札を付けられた江戸時代の手紙を購入すると、また来ますと言って店をあとにした。
お客は去った。
骨董品の店主は汗を拭いた。
「今度からはこの絵は明治時代に描かれたと言おう。」
すると店の奥から髪をぼさぼさにし服が機械油で汚れている少年が出てきた。
「あの客をレーザービームで殺しちゃえばよかったのに。」
少年は掛け軸の円形の部分を指した。
「ばか言うんじゃないよ。それはこの店から商品を盗もうとするやつを撃つためのものなんだから。」
この骨董品店のセキュリティは、墨の後かと思われた掛け軸の真っ黒な円が実はレーザービームの発射口になっているという、人間の盲点を突いたものであった。
~・~・~・~・~
~感想~
とりあえず盲点が描かれた掛け軸があって、そこが穴になっているというのを考えたのですが、そこからどういう話にしようか悩みました。
当初はのぞき穴の予定で書いていたのですが(だから語り手の女性関係についても冒頭に書いた)、店のセキュリティの話題になったときレーザービームの発射口にしようと思いました。
語り口が一人称から三人称に変わるのは混乱を覚悟の上でやったのですが、もうちょっとうまくやる努力をするべきだったと反省してます。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
スケートリンクでバイトしてたら大惨事を目撃した件
フルーツパフェ
大衆娯楽
比較的気温の高い今年もようやく冬らしい気候になりました。
寒くなって本格的になるのがスケートリンク場。
プロもアマチュアも関係なしに氷上を滑る女の子達ですが、なぜかスカートを履いた女の子が多い?
そんな格好していたら転んだ時に大変・・・・・・ほら、言わんこっちゃない!
スケートリンクでアルバイトをする男性の些細な日常コメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる