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第107回『盲点 真っ黒 掛け軸』

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YouTubeで行った
ライブ配信にて三題噺を即興で書きました 第107回『盲点 真っ黒 掛け軸』
の完成テキストです。
お題はガチャで決めました。
お題には傍点を振ってあります。
所要時間は約1時間でした。
詳しくは動画もご覧いただけたら幸いです。↓
https://www.youtube.com/watch?v=U685p9hH2TQ

↓使用させていただいたサイト↓
ランダム単語ガチャ
https://tango-gacha.com/

~・~・~・~・~

私は出張に行くと、必ず現地の骨董品店を尋ねることにしている。
骨董品の収集こそが私の最大の趣味であった。
入社して20年、会社の人との交流は極力たって収入は全て骨董品につぎ込んできた。
結婚もしてないどころか、女性との交際もしてこなかった。
あんなことはお金を浪費するだけだと認識していた。
そんなことにお金を遣うなら、一つでも素晴らしい骨董品を入手することの方がよっぽどいい。
もちろん偽物をつかまされることもあったが、その悔しさが逆に勉強となり、今となっては目も相当肥えてきた。

今日も仕事終わりに骨董品店へ行くことにした。
出張が決まってからすでに店の場所は調べてあったので、知らない町と言えど道に迷うこともなかった。
古い建物ながら良い店構えで、店先もきれいに掃かれている。
店主が誠実に営業しているというのが一目でわかったので、あとは掘り出し物が見つかるかだ。
引き戸をガラガラと音を立てて店に入ると、おじいさんのいらっしゃいというしわがれた声が聞こえた。
年齢は80歳を超えているようにみえるが、後を継いでくれる人はいないのだろうか。
店内はざっと見ただけで相当な品揃えだった。
財布さえ許せばどれもこれも買いたいくらいだった。
だが、それだけにこれだけのものを置いている店をおじいさん一人でやっていてセキュリティは大丈夫なのだろうかと心配にもなった。
狭い店内だからこっそりと万引きはできないにしても、強盗のように持っていかれたらおじいさんに抵抗する術はないだろう。
いかんせん店構えと品揃え、そしておじいさんの人柄がよさそうだったために、私はよそ様の余計な心配までしてしまった。
気を取り直して改めて骨董品を見ていると、壁にかかった一枚のが気になった。
遠景にそびえる山を描いた美しい日本画だったからではない。
確かに美しいことは美しいが、私が気になった理由は絵の真ん中に3センチほどのい円がべったりと描かれているからだ。
「これ、なんですか? 描いてる最中に墨が垂れてしまったんですか?」
店主に聞いてみた。
「これはね、ですよ。」
?」
といえば網膜の中の視神経が入ってくる部分で、ここには視細胞がないので光覚を起こさないというものだと教わった。
「これはね、江戸時代のある絵師が描いたものです。その絵師は目に見えるままを追い求め、とうとうまで入れたという話です。」
私はその話を聞いて驚いた。
「すごいですねっ。マリオットがを発見したのは17世紀ですよ。江戸時代は日本は鎖国していたから、その絵師は自力でを発見したことになりますよっ。」
「ぐ、偶然でしょう。」
店主はそっぽを向いた。
「買いますっ。これ、いくらですかっ。」
好奇心をくすぐる掘り出し物を発見した私の興奮をよそに店主の態度は先ほどとは打って変わってそっけなかった。
「これは売り物じゃないんですよ。」
何度お願いしてもその一点張りだった。
だがこういう店は信頼が大事だ。
何度もお店に訪問して自分という人間を知ってもらえたとき、初めて売ってもらえることがあるのは骨董の世界の常識だ。
私は比較的安い値札を付けられた江戸時代の手紙を購入すると、また来ますと言って店をあとにした。

お客は去った。
骨董品の店主は汗を拭いた。
「今度からはこの絵は明治時代に描かれたと言おう。」
すると店の奥から髪をぼさぼさにし服が機械油で汚れている少年が出てきた。
「あの客をレーザービームで殺しちゃえばよかったのに。」
少年は掛け軸の円形の部分を指した。
「ばか言うんじゃないよ。それはこの店から商品を盗もうとするやつを撃つためのものなんだから。」
この骨董品店のセキュリティは、墨の後かと思われたな円が実はレーザービームの発射口になっているという、人間のを突いたものであった。

~・~・~・~・~

~感想~
とりあえず盲点が描かれた掛け軸があって、そこが穴になっているというのを考えたのですが、そこからどういう話にしようか悩みました。
当初はのぞき穴の予定で書いていたのですが(だから語り手の女性関係についても冒頭に書いた)、店のセキュリティの話題になったときレーザービームの発射口にしようと思いました。

語り口が一人称から三人称に変わるのは混乱を覚悟の上でやったのですが、もうちょっとうまくやる努力をするべきだったと反省してます。
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