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#06・死神の手紙
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※Rafaello side
診察室を後にしたラファエロは、すっかり憩いの場となったラボに来ていた。
「ねぇ、死神事件って知ってるかい?」
作業を終えたオズワルドがおもむろに尋ねた。
「何、それ」
ラファエロがそう言うと、オズワルドは得意気に笑みを浮かべた。
性格に難ありなため、中々人に構ってもらえないオズワルドにとって、自分の話をちゃんと聞いてくれるラファエロはとても貴重な存在である。
そんなラファエロに話を聞いてもらえるのがオズワルドにとっては至福のひとときなのだ。
――イグナシオに比べたら、まだ素直だと思うけど。
「今、巷を騒がせてる、不可解な事件の事だよ。なんでも、何もない所からいきなり手紙が降ってきて、その手紙を拾った人は24時間以内に死んじゃうんだって」
「なんか聞いた事ある気がするんだけど……、気のせいかな?」
「気のせいだよ。落ちてきたの、ノートじゃないし。第一、死ぬのは名前書かれた人だしね」
オズワルドは愉快そうに笑った。
「さっき、警察から協力要請が来たらしいから、君達も呼ばれるかも知れないよ?」
「……まぁ、考えるまでもなく、神威絡みだもんね。その事件」
――この間の汚名返上しないと。
「あ、そういえば、受付嬢のアナスタシア……だっけ?あの子が君宛ての荷物を預かってるって言ってたよ」
「忘れる前に言えてよかった」っとオズワルドは満足そうだ。
「じゃあ、僕、ちょっと取りに行って来る」
ラファエロは椅子から立ち上がると、「すぐ戻って来るよ」っとオズワルドに言い残し、アナスタシアのいる受付に向かった。
―――――――――――――
「察するに遺伝子をイジリすぎたせいで、男になるはずの遺伝子が女に変わったって所ですか?」
イグナシオがロベルトを見上げ、言った。
「お前、初めてまともな事言ったな」
「一言多いっすよ?」
「イグナシオ、落ち着け」
リヒトが青筋を立てているイグナシオを止めに入る。
――本当、仲悪ぃな……。
「遺伝子操作を繰り返しやってたせいで、お袋の体にも異変が起こったのは、ラファエロを産む2ヶ月前だった。体力はみるみる落ちていって、医者からはラファエロを産むのは難しいとまで言われた」
まるで漫画のような、非現実めいた話にリヒトとイグナシオは信じられないという心境でロベルトの話を聞いていた。
「下ろす事も、産む事も出来ねぇお袋は、それでも産みたいと親父に言ってな。結局、ラファエロを産む事にした。が、その結果、お袋は出産後に死んじまった……」
ロベルトの声が少しだけ切なく聞こえた。
「だから、親父はラファエロの事が嫌いなんだ。ラファエロの顔を見る度にお袋の事を思い出しちまうみたいでよ」
「……その事、ラファエロは…?」
リヒトが恐る恐る、ロベルトに尋ねると、ロベルトは「全部知ってる。俺達が話したからな」っと返した。
「そん時からだ。ラファエロが泣かなくなっちまったのは。自分のせいだとか思ってんのか、分かんねぇけど」
ロベルトはうーんと大きく伸びをすると、勢いよく椅子から立ち上がった。
「車椅子野郎」
「何ですか」
「あいつを嫌いなら、指導係、辞めてくれねぇか?」
「……は?」
ロベルトの言葉にイグナシオが目を丸くする。
が、それは一瞬でイグナシオはキッと表情を引き締めると、ロベルトと向き合った。
「過去話しといて、今更辞めてくれないかって何なんですか?訳分かんないんですけど。普通、こういう話した時は相手の同情誘って、これからは仲良くしてくれとかじゃないんですか?」
「あいつを嫌いな奴に無理して好きになってもらう必要なんかねぇよ」
まくしたてようとするイグナシオをロベルトがピシャリと制す。
「あいつは親父みたいに自分を嫌ってる奴に好かれようとする奴だ。だから、これ以上あいつに関わるな」
「……何だよ、結局自分の妹が可愛いだけじゃないですか。お美しい兄弟愛です事……」
「あいつが壊れたら、お前、責任取れんのかよ」
ドスの効いた、低い声にイグナシオはビクリと肩を揺らした。
「男として扱われて…、存在まで否定され続けて……、それでも自分を好きでいてくれる人のために自分を好きになろうと頑張ってるあいつを……これ以上、傷つけないでくれ」
「ロベルトさん……」
悲痛なロベルトの声にリヒトの胸に鈍い痛みが走った。
―――――――――――――――
※Rafaello side
「荷物って、前に通販で頼んだやつか……」
ラファエロは受付で受け取ったダンボールを抱えながら、苦笑いした。
「自室に届くようにしてたんだけどなぁ……」
――にしても、重い……。
「あれ?ラファエロ!」
不意に誰かが声をかけてきた。
聞き覚えのある声にラファエロが後ろを振り返ると、そこにはブンブンと元気よく手を振っているミレイユの姿が見えた。
「おっきい荷物だね」
「でしょ?我ながらに衝動買いしちゃったって後悔してるよ」
「ラファエロも衝動買いとかするんだね、なんか意外」
「中身は何なの?」っとミレイユは興味ありげにダンボールを見ている。
「クマさんだよ」
「へぇ~、クマさんなんだ~……って、クマさん!?」
ラファエロの口から"クマさん"と言う言葉を聞くとは、思っていなかったという表情のミレイユにラファエロは「よくそういう反応されるよ」っと言った。
「家に何体かいるんだけど、寂しそうだから仲間追加しようと思って」
「何体もいるの!?クマのぬいぐるみが!?」
ミレイユが信じられないと言いたげにラファエロを見る。
が、そんな視線など痛くも痒くもないラファエロは、ミレイユを尻目に話を続ける。
「"おいでよ!癒しの森 -ふわふわキュートなクマさんシリーズ-"は色違い含め、全部コンプ済みだよ。自室にあるのは厳選した子達なんだ」
「……ラファエロ、ギャップ萌え死にそうなんだけど」
ミレイユは両手で自身の口元を押さえ、ラファエロに言った。
心なしか、ミレイユの頬が赤く見える。
「それ、いい意味なのかなって毎回思うんだけど、どっちかな?」
ダンボールを抱え直しながら、ラファエロはミレイユに黒い笑みを浮かべた。
「……ん?ラファエロ、何か落ちてるよ?」
ミレイユはそう言うと、ラファエロの傍にしゃがみこみ、ラファエロに1枚の手紙を手渡した。
――手紙?
手紙を落とした記憶はないし、ましてや手紙を受け取った記憶もない。
しかし、手紙の宛名書きには達筆な字で"Rafaello=Savarese"と記されている。
――どこから出てきたの?
手紙を受け取ったラファエロは、一旦ダンボールを床に置くと、手紙の封を切った。
『ラファエロ=サヴァレーゼ
貴方はこの手紙を受け取ってから、24時間以内に死にます。』
「これって……」
横から手紙を覗いていたミレイユが目を見開く。
「……やっぱりか」
ラファエロは「何で僕かなぁ」っと呟きながら、手紙をポケットに仕舞った。
「ど、どうするの?これって、今話題の死神事件の………」
「ミレイユ、声大きいよ」
1人焦り出すミレイユをラファエロが冷静に制す。
人が行き交う廊下でこんな話をすれば、悪目立ちするのは目に見えている。
「能力者を捕まえれば済む話でしょ?なら、焦る必要ないよ」
「でもっ……!」
「あと、リヒト達には言わないでね。変な心配とかさせたくないし」
「あくまで、これは僕個人の問題だからね」っとラファエロが念を押す。
「にしても、NOAHにまで手紙送りつけるなんて、どんだけ自信あるのかなぁ」
ラファエロはそう言うと、床に置いていたダンボールを再び抱えた。
「ラファエロ……」
「大丈夫だよ。死んだりしないから」
ラファエロはミレイユに笑って見せた。
すると、ミレイユもぎこちなくではあるが、笑い返してくれた。
――僕は、まだ死ねない。
死神からの手紙を携え、ラファエロは足早に自室へと向かった。
診察室を後にしたラファエロは、すっかり憩いの場となったラボに来ていた。
「ねぇ、死神事件って知ってるかい?」
作業を終えたオズワルドがおもむろに尋ねた。
「何、それ」
ラファエロがそう言うと、オズワルドは得意気に笑みを浮かべた。
性格に難ありなため、中々人に構ってもらえないオズワルドにとって、自分の話をちゃんと聞いてくれるラファエロはとても貴重な存在である。
そんなラファエロに話を聞いてもらえるのがオズワルドにとっては至福のひとときなのだ。
――イグナシオに比べたら、まだ素直だと思うけど。
「今、巷を騒がせてる、不可解な事件の事だよ。なんでも、何もない所からいきなり手紙が降ってきて、その手紙を拾った人は24時間以内に死んじゃうんだって」
「なんか聞いた事ある気がするんだけど……、気のせいかな?」
「気のせいだよ。落ちてきたの、ノートじゃないし。第一、死ぬのは名前書かれた人だしね」
オズワルドは愉快そうに笑った。
「さっき、警察から協力要請が来たらしいから、君達も呼ばれるかも知れないよ?」
「……まぁ、考えるまでもなく、神威絡みだもんね。その事件」
――この間の汚名返上しないと。
「あ、そういえば、受付嬢のアナスタシア……だっけ?あの子が君宛ての荷物を預かってるって言ってたよ」
「忘れる前に言えてよかった」っとオズワルドは満足そうだ。
「じゃあ、僕、ちょっと取りに行って来る」
ラファエロは椅子から立ち上がると、「すぐ戻って来るよ」っとオズワルドに言い残し、アナスタシアのいる受付に向かった。
―――――――――――――
「察するに遺伝子をイジリすぎたせいで、男になるはずの遺伝子が女に変わったって所ですか?」
イグナシオがロベルトを見上げ、言った。
「お前、初めてまともな事言ったな」
「一言多いっすよ?」
「イグナシオ、落ち着け」
リヒトが青筋を立てているイグナシオを止めに入る。
――本当、仲悪ぃな……。
「遺伝子操作を繰り返しやってたせいで、お袋の体にも異変が起こったのは、ラファエロを産む2ヶ月前だった。体力はみるみる落ちていって、医者からはラファエロを産むのは難しいとまで言われた」
まるで漫画のような、非現実めいた話にリヒトとイグナシオは信じられないという心境でロベルトの話を聞いていた。
「下ろす事も、産む事も出来ねぇお袋は、それでも産みたいと親父に言ってな。結局、ラファエロを産む事にした。が、その結果、お袋は出産後に死んじまった……」
ロベルトの声が少しだけ切なく聞こえた。
「だから、親父はラファエロの事が嫌いなんだ。ラファエロの顔を見る度にお袋の事を思い出しちまうみたいでよ」
「……その事、ラファエロは…?」
リヒトが恐る恐る、ロベルトに尋ねると、ロベルトは「全部知ってる。俺達が話したからな」っと返した。
「そん時からだ。ラファエロが泣かなくなっちまったのは。自分のせいだとか思ってんのか、分かんねぇけど」
ロベルトはうーんと大きく伸びをすると、勢いよく椅子から立ち上がった。
「車椅子野郎」
「何ですか」
「あいつを嫌いなら、指導係、辞めてくれねぇか?」
「……は?」
ロベルトの言葉にイグナシオが目を丸くする。
が、それは一瞬でイグナシオはキッと表情を引き締めると、ロベルトと向き合った。
「過去話しといて、今更辞めてくれないかって何なんですか?訳分かんないんですけど。普通、こういう話した時は相手の同情誘って、これからは仲良くしてくれとかじゃないんですか?」
「あいつを嫌いな奴に無理して好きになってもらう必要なんかねぇよ」
まくしたてようとするイグナシオをロベルトがピシャリと制す。
「あいつは親父みたいに自分を嫌ってる奴に好かれようとする奴だ。だから、これ以上あいつに関わるな」
「……何だよ、結局自分の妹が可愛いだけじゃないですか。お美しい兄弟愛です事……」
「あいつが壊れたら、お前、責任取れんのかよ」
ドスの効いた、低い声にイグナシオはビクリと肩を揺らした。
「男として扱われて…、存在まで否定され続けて……、それでも自分を好きでいてくれる人のために自分を好きになろうと頑張ってるあいつを……これ以上、傷つけないでくれ」
「ロベルトさん……」
悲痛なロベルトの声にリヒトの胸に鈍い痛みが走った。
―――――――――――――――
※Rafaello side
「荷物って、前に通販で頼んだやつか……」
ラファエロは受付で受け取ったダンボールを抱えながら、苦笑いした。
「自室に届くようにしてたんだけどなぁ……」
――にしても、重い……。
「あれ?ラファエロ!」
不意に誰かが声をかけてきた。
聞き覚えのある声にラファエロが後ろを振り返ると、そこにはブンブンと元気よく手を振っているミレイユの姿が見えた。
「おっきい荷物だね」
「でしょ?我ながらに衝動買いしちゃったって後悔してるよ」
「ラファエロも衝動買いとかするんだね、なんか意外」
「中身は何なの?」っとミレイユは興味ありげにダンボールを見ている。
「クマさんだよ」
「へぇ~、クマさんなんだ~……って、クマさん!?」
ラファエロの口から"クマさん"と言う言葉を聞くとは、思っていなかったという表情のミレイユにラファエロは「よくそういう反応されるよ」っと言った。
「家に何体かいるんだけど、寂しそうだから仲間追加しようと思って」
「何体もいるの!?クマのぬいぐるみが!?」
ミレイユが信じられないと言いたげにラファエロを見る。
が、そんな視線など痛くも痒くもないラファエロは、ミレイユを尻目に話を続ける。
「"おいでよ!癒しの森 -ふわふわキュートなクマさんシリーズ-"は色違い含め、全部コンプ済みだよ。自室にあるのは厳選した子達なんだ」
「……ラファエロ、ギャップ萌え死にそうなんだけど」
ミレイユは両手で自身の口元を押さえ、ラファエロに言った。
心なしか、ミレイユの頬が赤く見える。
「それ、いい意味なのかなって毎回思うんだけど、どっちかな?」
ダンボールを抱え直しながら、ラファエロはミレイユに黒い笑みを浮かべた。
「……ん?ラファエロ、何か落ちてるよ?」
ミレイユはそう言うと、ラファエロの傍にしゃがみこみ、ラファエロに1枚の手紙を手渡した。
――手紙?
手紙を落とした記憶はないし、ましてや手紙を受け取った記憶もない。
しかし、手紙の宛名書きには達筆な字で"Rafaello=Savarese"と記されている。
――どこから出てきたの?
手紙を受け取ったラファエロは、一旦ダンボールを床に置くと、手紙の封を切った。
『ラファエロ=サヴァレーゼ
貴方はこの手紙を受け取ってから、24時間以内に死にます。』
「これって……」
横から手紙を覗いていたミレイユが目を見開く。
「……やっぱりか」
ラファエロは「何で僕かなぁ」っと呟きながら、手紙をポケットに仕舞った。
「ど、どうするの?これって、今話題の死神事件の………」
「ミレイユ、声大きいよ」
1人焦り出すミレイユをラファエロが冷静に制す。
人が行き交う廊下でこんな話をすれば、悪目立ちするのは目に見えている。
「能力者を捕まえれば済む話でしょ?なら、焦る必要ないよ」
「でもっ……!」
「あと、リヒト達には言わないでね。変な心配とかさせたくないし」
「あくまで、これは僕個人の問題だからね」っとラファエロが念を押す。
「にしても、NOAHにまで手紙送りつけるなんて、どんだけ自信あるのかなぁ」
ラファエロはそう言うと、床に置いていたダンボールを再び抱えた。
「ラファエロ……」
「大丈夫だよ。死んだりしないから」
ラファエロはミレイユに笑って見せた。
すると、ミレイユもぎこちなくではあるが、笑い返してくれた。
――僕は、まだ死ねない。
死神からの手紙を携え、ラファエロは足早に自室へと向かった。
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