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act11:I LOVE YOUの訳し方
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ルチアーノとの攻防の末、無事ペアチケットを手に入れたヴェルディアナだったが、その表情は打って変わって、暗く、吐き出されるため息は重い。
「おーい、ヴェル」
心配になったフェルディナントが声をかけると、ヴェルディアナは面白いくらいに肩を震わせ、「な……何?」と更に表情を曇らせる。
「あんた、大丈夫か?この間からずっとそんなんだぞ」
「うぅ……、ごめんなさい」
「謝らないで。面倒臭い」
「おい、リナト」
言い過ぎだとフェルディナントに注意されたリナトは、不服そうに眉を顰める。一方のヴェルディアナはそんなリナトを見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
「……どうせ、エリアスの事でしょ?」
「………はい、おっしゃる通りで」
おずおずとヴェルディアナがペアチケットを取り出すと、フェルディナントは理解したとばかりに額に手を当てた。
「あ~……、まだ誘えてねぇのな」
「……そうなの」
チケットを手に入れたまではよかった。しかし、相手を誘うという事を失念していたヴェルディアナは、エリアスを見る度にオドオドするばかりで結局、今日までチケットを渡せずにいるのだ。
「そんなの、さっさと渡せばいいのに」
「そうはいかねぇもんなんだよ。こういうのは」
「……ふーん」
「どうでもいいけど、ルキアに迷惑はかけないで」。そう言い残すと、リナトはキッチンから出て行く。相変わらず、自分には当たりが強いものの、ルキアには優しいリナトにやはりいい子だなと思う。
「しゃーねぇな、乗り掛かった船だ。手伝ってやんよ」
「フェルディナントくん……!」
あぁ、なんていい子なんだろうか。嬉しさからフェルディナントを撫で回したくなるヴェルディアナだが、そんな事をしては失礼だと出そうになる手を引っ込める。
「ありがとう、フェルディナントくん」
「気にすんなって。んじゃ、さっさと仕事終わらせるぞ」
ヴェルディアナはこくんと強く頷くと、残った仕事をテキパキと片付けていった。
_____________
休憩時間、屋敷の庭の人気のないベンチに移動したヴェルディアナとフェルディナントは早速、作戦を練る。
「まぁ、作戦つってもヴェルが勇気出さなきゃ始まらねぇのは変わんないがな」
「そ……そうね」
ペアチケットを両手に握り締め、緊張しまくりのヴェルディアナにフェルディナントは「今から緊張してどうすんだよ」とその背を擦る。
「フェルディナントくん、尻尾触っても……?」
「それで落ち着くんなら、どうぞ」
ふわっと現れた尻尾にヴェルディアナの頬は緩む。アニマルセラピーはどんな時にも万能のようだ。
「落ち着いたか?」
「えぇ、ありがとう」
フェルディナントは柔らかく微笑むと、ヴェルディアナが握り締めているペアチケットに目線を落とす。落ち着いたとはいえ、問題はまだ山積みだ。
――頑張らないと………。
「やっぱ、直接渡すのが1番だと思うぞ。執事長、案外ストレートなのに弱いらしいぜ?」
「な、なるほど……」
ヴェルディアナは頭の中で想像してみる。2人きりの廊下で何か用かとこちらに目を向けるエリアス。真っ直ぐに見つめてくる、切れ長の目は初対面の時こそ、怖かったが今はむしろ綺麗だと感じる。
――ダメだ、見惚れて話が出来ない。
「ヴェル~?」
「ハッ……!」
フェルディナントに呼ばれ、我に返るヴェルディアナ。その様子にフェルディナントはやれやれと肩を竦める。
「申し訳ない……」
「そんな落ち込むなって。な?」
よしよしとフェルディナントがヴェルディアナの頭を撫でる。年上なのに、本当情けない。
「………ん?誰か来るな」
不意にフェルディナントの耳がピクリと反応する。こんな人気のない場所に誰が何の用だろうか。気になった2人はその場から、その人物の姿を伺う。
「あれは……」
「ルキアちゃん?」
ヨロヨロと庭を歩いているルキアは、今にも倒れそうでその目は焦点が定まっていない。恐らく、部屋に戻ろうとして、こんな所まで来てしまったのだろう。
「おい、馬鹿!」
傾いたルキアの体を後ろから走って来たルチアーノが受け止める。屋敷から追いかけて来たのか、顔からは汗が滴り落ちている。
「あっぶね……」
空いた手で汗を拭い、ルチアーノが呟く。一方のルキアはルチアーノの腕の中で眠っている。よっぽど疲れていたのだろう。
「ったく……。どうやったら、こんなとこまで来れんだよ」
誰もいないと思っているらしい、ルチアーノは普段よりも歳相応の喋り方で1人ごちる。完全に出るタイミングを失ってしまった2人は、気付かれないようにベンチから距離を取る。
「このまま戻る訳にもいかないよな……」
キョロキョロと辺りを見渡すルチアーノ。目に止まったのは、先程2人が座っていたベンチだ。ベンチの後ろに移動していたヴェルディアナとフェルディナントは、バレないように息を潜める。
「よっと……!」
ベンチへやって来たルチアーノは、ルキアを座らせると倒れないように隣に腰掛ける。前に相容れないと言っていたが、何だかんだ面倒見がいいようだ。
「5分経ったら、叩き起すからな」
ルチアーノはそう言うと、どこからか取り出した本を読み始める。傍から見れば、恋人同士のような絵面にフェルディナントは妬ましそうにルチアーノを睨み付ける。
「大体、無理しすぎなんだよ。……お前がそんなんじゃ調子狂うだろ、馬鹿」
――エリアスさんの言う通りだ。
本心からルキアを嫌ってはいない――。以前、エリアスがそう言っていたのをふと思い出す。顔を合わせれば、口喧嘩は絶えないが今のルチアーノから紡がれる言葉は、不器用ながらも優しさで溢れている。
――普段からそうなら、仲良しだろうに。
「フェルディナントくん、今の内に」
「あぁ」
ヴェルディアナとフェルディナントは、音を立てないようにベンチから離れると屋敷に向かって、走り出した。
________________
「あの野郎、ルキアにベタベタしやがって……!」
屋敷に戻った途端、フェルディナントは牙を剥き出し、唸り声を上げる。余程、悔しかったのだろう。地団駄まで踏んでいる。
「まぁまぁ……、落ち着いて」
「落ち着けるかよ!好きな奴が他の奴とイチャついてたんだぞ!?」
「一方的とはいえ、腹立つだろ!」。フェルディナントの言葉にヴェルディアナは小さく息をのむ。
――そっか……。好きだから、か。
もしも、エリアスが女の人と楽しげにしている所を目撃してしまったら、ヴェルディアナも心中穏やかではないだろう。それが好意を向けている相手なら尚更だ。
――本気、なんだよね。
「……ありがとう、フェルディナントくん」
「あ?何が?」
「私、エリアスさん誘ってみる!」
ヴェルディアナが柔らかく笑ってみせると、イライラしていたフェルディナントは一瞬キョトンとしたものの、何かを察したのか、ニカッと不敵な笑みを浮かべる。
「おう、行って来い!」
トンっと押された背中にヴェルディアナは、勢いそのままに走り出す。相変わらず、長いスカートは走りづらいが、今はそんな事に構っている暇などない。会って、言わなければならない事がある。
――エリアスさん……!
見えない恐怖に怯えるのは止めよう。当たって砕けてもいないのに、怖がっていては前に進めない。それ所か、知らない間に遠くへ行ってしまう事だってある。
――そんなの、嫌だ。
廊下を走っていると、目の前に見覚えのある背中が見える。乱れる息を整える余裕もなく、ヴェルディアナは声の限り叫ぶ。
「エリアスさん!」
名前を呼ばれたエリアスがゆっくりとこちらに振り返る。それに合わせて、ヴェルディアナは足を止め、何とか呼吸を整えようと息を吸い込む。
「ヴェルディアナ、そんなに急いで一体……」
「エリアスさん!」
「あ、あぁ………」
ヴェルディアナの気迫にエリアスがたじろぐ。きっと、すごい顔をしているんだろう。本当なら、もっと大人らしく誘いたかったのだが、生憎ヴェルディアナにそんな知識はない。今出来るのは、精一杯想いの丈をぶつけるのみだ。
「これ!よ……よかったら、一緒に行きませんか!!」
頭を下げると同時にずいっとペアチケットを前に突き出す。言えた達成感からその頬は緩みっぱなしだ。例え、結果がダメだったとしても、これで後悔はしないだろう。
「……くく、ふははは……!!」
聞いた事のない笑い声にそろりと顔を上げると、そこには愉快とばかりに笑っているエリアスがいた。いつもの静かな笑みとは違い、少し子供っぽい笑い声にヴェルディアナの胸はキュンとなる。
「そんなデートの誘いは初めてだぞ?」
「デデデ、デート!?」
「ん?違うのか?」
目に溜まった涙を拭いながら、ヴェルディアナに近付いて来るエリアス。先程とは違い、普段通りの余裕たっぷりの表情にヴェルディアナは顔が熱くなるのを感じる。
「違……わなくはないですけど………」
歯切れの悪い言葉に我ながら恥ずかしくなってくる。ダメだ、先程のアレで勇気が尽きた。
――本当、情けない……。
「ヴェルディアナ」
「は、はい……!」
勢い任せに顔を上げると、すぐそこにエリアスの顔があり、恥ずかしさからヴェルディアナは素早く距離を取ろうとする。が、エリアスにがっしりと掴まれた手のせいでそれは適わない。
「ありがとう。私でよければ、喜んで」
返って来た言葉にヴェルディアナの目頭が熱くなる。泣いてはダメだ。エリアスの前でこれ以上、情けない姿を晒す訳にはいかない。
――まぁ、いつもドジやってるから今更だけど。
「……出来れば、顔を見せてほしいのだが?」
「い、今は無理です~~!!!」
ヴェルディアナはエリアスの手を振り払うと、逃げるようにその場から走り出した。今日だけでどれだけ走っただろう。明日は筋肉痛かも知れない。なんて事を考えながら、ヴェルディアナは幸せを噛み締めていた。
「おーい、ヴェル」
心配になったフェルディナントが声をかけると、ヴェルディアナは面白いくらいに肩を震わせ、「な……何?」と更に表情を曇らせる。
「あんた、大丈夫か?この間からずっとそんなんだぞ」
「うぅ……、ごめんなさい」
「謝らないで。面倒臭い」
「おい、リナト」
言い過ぎだとフェルディナントに注意されたリナトは、不服そうに眉を顰める。一方のヴェルディアナはそんなリナトを見て、申し訳ない気持ちでいっぱいになっていた。
「……どうせ、エリアスの事でしょ?」
「………はい、おっしゃる通りで」
おずおずとヴェルディアナがペアチケットを取り出すと、フェルディナントは理解したとばかりに額に手を当てた。
「あ~……、まだ誘えてねぇのな」
「……そうなの」
チケットを手に入れたまではよかった。しかし、相手を誘うという事を失念していたヴェルディアナは、エリアスを見る度にオドオドするばかりで結局、今日までチケットを渡せずにいるのだ。
「そんなの、さっさと渡せばいいのに」
「そうはいかねぇもんなんだよ。こういうのは」
「……ふーん」
「どうでもいいけど、ルキアに迷惑はかけないで」。そう言い残すと、リナトはキッチンから出て行く。相変わらず、自分には当たりが強いものの、ルキアには優しいリナトにやはりいい子だなと思う。
「しゃーねぇな、乗り掛かった船だ。手伝ってやんよ」
「フェルディナントくん……!」
あぁ、なんていい子なんだろうか。嬉しさからフェルディナントを撫で回したくなるヴェルディアナだが、そんな事をしては失礼だと出そうになる手を引っ込める。
「ありがとう、フェルディナントくん」
「気にすんなって。んじゃ、さっさと仕事終わらせるぞ」
ヴェルディアナはこくんと強く頷くと、残った仕事をテキパキと片付けていった。
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休憩時間、屋敷の庭の人気のないベンチに移動したヴェルディアナとフェルディナントは早速、作戦を練る。
「まぁ、作戦つってもヴェルが勇気出さなきゃ始まらねぇのは変わんないがな」
「そ……そうね」
ペアチケットを両手に握り締め、緊張しまくりのヴェルディアナにフェルディナントは「今から緊張してどうすんだよ」とその背を擦る。
「フェルディナントくん、尻尾触っても……?」
「それで落ち着くんなら、どうぞ」
ふわっと現れた尻尾にヴェルディアナの頬は緩む。アニマルセラピーはどんな時にも万能のようだ。
「落ち着いたか?」
「えぇ、ありがとう」
フェルディナントは柔らかく微笑むと、ヴェルディアナが握り締めているペアチケットに目線を落とす。落ち着いたとはいえ、問題はまだ山積みだ。
――頑張らないと………。
「やっぱ、直接渡すのが1番だと思うぞ。執事長、案外ストレートなのに弱いらしいぜ?」
「な、なるほど……」
ヴェルディアナは頭の中で想像してみる。2人きりの廊下で何か用かとこちらに目を向けるエリアス。真っ直ぐに見つめてくる、切れ長の目は初対面の時こそ、怖かったが今はむしろ綺麗だと感じる。
――ダメだ、見惚れて話が出来ない。
「ヴェル~?」
「ハッ……!」
フェルディナントに呼ばれ、我に返るヴェルディアナ。その様子にフェルディナントはやれやれと肩を竦める。
「申し訳ない……」
「そんな落ち込むなって。な?」
よしよしとフェルディナントがヴェルディアナの頭を撫でる。年上なのに、本当情けない。
「………ん?誰か来るな」
不意にフェルディナントの耳がピクリと反応する。こんな人気のない場所に誰が何の用だろうか。気になった2人はその場から、その人物の姿を伺う。
「あれは……」
「ルキアちゃん?」
ヨロヨロと庭を歩いているルキアは、今にも倒れそうでその目は焦点が定まっていない。恐らく、部屋に戻ろうとして、こんな所まで来てしまったのだろう。
「おい、馬鹿!」
傾いたルキアの体を後ろから走って来たルチアーノが受け止める。屋敷から追いかけて来たのか、顔からは汗が滴り落ちている。
「あっぶね……」
空いた手で汗を拭い、ルチアーノが呟く。一方のルキアはルチアーノの腕の中で眠っている。よっぽど疲れていたのだろう。
「ったく……。どうやったら、こんなとこまで来れんだよ」
誰もいないと思っているらしい、ルチアーノは普段よりも歳相応の喋り方で1人ごちる。完全に出るタイミングを失ってしまった2人は、気付かれないようにベンチから距離を取る。
「このまま戻る訳にもいかないよな……」
キョロキョロと辺りを見渡すルチアーノ。目に止まったのは、先程2人が座っていたベンチだ。ベンチの後ろに移動していたヴェルディアナとフェルディナントは、バレないように息を潜める。
「よっと……!」
ベンチへやって来たルチアーノは、ルキアを座らせると倒れないように隣に腰掛ける。前に相容れないと言っていたが、何だかんだ面倒見がいいようだ。
「5分経ったら、叩き起すからな」
ルチアーノはそう言うと、どこからか取り出した本を読み始める。傍から見れば、恋人同士のような絵面にフェルディナントは妬ましそうにルチアーノを睨み付ける。
「大体、無理しすぎなんだよ。……お前がそんなんじゃ調子狂うだろ、馬鹿」
――エリアスさんの言う通りだ。
本心からルキアを嫌ってはいない――。以前、エリアスがそう言っていたのをふと思い出す。顔を合わせれば、口喧嘩は絶えないが今のルチアーノから紡がれる言葉は、不器用ながらも優しさで溢れている。
――普段からそうなら、仲良しだろうに。
「フェルディナントくん、今の内に」
「あぁ」
ヴェルディアナとフェルディナントは、音を立てないようにベンチから離れると屋敷に向かって、走り出した。
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「あの野郎、ルキアにベタベタしやがって……!」
屋敷に戻った途端、フェルディナントは牙を剥き出し、唸り声を上げる。余程、悔しかったのだろう。地団駄まで踏んでいる。
「まぁまぁ……、落ち着いて」
「落ち着けるかよ!好きな奴が他の奴とイチャついてたんだぞ!?」
「一方的とはいえ、腹立つだろ!」。フェルディナントの言葉にヴェルディアナは小さく息をのむ。
――そっか……。好きだから、か。
もしも、エリアスが女の人と楽しげにしている所を目撃してしまったら、ヴェルディアナも心中穏やかではないだろう。それが好意を向けている相手なら尚更だ。
――本気、なんだよね。
「……ありがとう、フェルディナントくん」
「あ?何が?」
「私、エリアスさん誘ってみる!」
ヴェルディアナが柔らかく笑ってみせると、イライラしていたフェルディナントは一瞬キョトンとしたものの、何かを察したのか、ニカッと不敵な笑みを浮かべる。
「おう、行って来い!」
トンっと押された背中にヴェルディアナは、勢いそのままに走り出す。相変わらず、長いスカートは走りづらいが、今はそんな事に構っている暇などない。会って、言わなければならない事がある。
――エリアスさん……!
見えない恐怖に怯えるのは止めよう。当たって砕けてもいないのに、怖がっていては前に進めない。それ所か、知らない間に遠くへ行ってしまう事だってある。
――そんなの、嫌だ。
廊下を走っていると、目の前に見覚えのある背中が見える。乱れる息を整える余裕もなく、ヴェルディアナは声の限り叫ぶ。
「エリアスさん!」
名前を呼ばれたエリアスがゆっくりとこちらに振り返る。それに合わせて、ヴェルディアナは足を止め、何とか呼吸を整えようと息を吸い込む。
「ヴェルディアナ、そんなに急いで一体……」
「エリアスさん!」
「あ、あぁ………」
ヴェルディアナの気迫にエリアスがたじろぐ。きっと、すごい顔をしているんだろう。本当なら、もっと大人らしく誘いたかったのだが、生憎ヴェルディアナにそんな知識はない。今出来るのは、精一杯想いの丈をぶつけるのみだ。
「これ!よ……よかったら、一緒に行きませんか!!」
頭を下げると同時にずいっとペアチケットを前に突き出す。言えた達成感からその頬は緩みっぱなしだ。例え、結果がダメだったとしても、これで後悔はしないだろう。
「……くく、ふははは……!!」
聞いた事のない笑い声にそろりと顔を上げると、そこには愉快とばかりに笑っているエリアスがいた。いつもの静かな笑みとは違い、少し子供っぽい笑い声にヴェルディアナの胸はキュンとなる。
「そんなデートの誘いは初めてだぞ?」
「デデデ、デート!?」
「ん?違うのか?」
目に溜まった涙を拭いながら、ヴェルディアナに近付いて来るエリアス。先程とは違い、普段通りの余裕たっぷりの表情にヴェルディアナは顔が熱くなるのを感じる。
「違……わなくはないですけど………」
歯切れの悪い言葉に我ながら恥ずかしくなってくる。ダメだ、先程のアレで勇気が尽きた。
――本当、情けない……。
「ヴェルディアナ」
「は、はい……!」
勢い任せに顔を上げると、すぐそこにエリアスの顔があり、恥ずかしさからヴェルディアナは素早く距離を取ろうとする。が、エリアスにがっしりと掴まれた手のせいでそれは適わない。
「ありがとう。私でよければ、喜んで」
返って来た言葉にヴェルディアナの目頭が熱くなる。泣いてはダメだ。エリアスの前でこれ以上、情けない姿を晒す訳にはいかない。
――まぁ、いつもドジやってるから今更だけど。
「……出来れば、顔を見せてほしいのだが?」
「い、今は無理です~~!!!」
ヴェルディアナはエリアスの手を振り払うと、逃げるようにその場から走り出した。今日だけでどれだけ走っただろう。明日は筋肉痛かも知れない。なんて事を考えながら、ヴェルディアナは幸せを噛み締めていた。
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