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置き手紙 (その後 ②)
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「す、すみません…」
店にいる常連客に対し、私は頭を下げ謝った後、落としたお盆を拾おうとしゃがみ込んだ。
すると、私がしゃがむのとほぼ同時にラークさんもしゃがみ込み私と同じ目線になり、こちらを向いてきた。
「…なんだ、僕の子を宿していないのか。残念だなぁ」
その言葉に私はすぐお盆を拾い上げると立ち、その場から逃げようとした。
でも、ラークさんは続けて話してくる。
「ブライスやユーリさんの事、知りたいんじゃない?
そんな顔してるよ」
「…私はもうあなた達と関わる気はないです。
だから、もう帰ってください」
キッパリと拒絶したが、それでもラークさんは店に留まり続けている。
私の安息の場所を壊されたくない…その思いから近づき頭を下げお願いをした。
「…今はお客なんだけどなぁ」
「いいえ、あなたはお客ではないです。ただ冷やかしに来ただけでしょ?
だから、もう帰って!?」
普段食堂で大声を上げることなどない私に周りは驚いている。
そして、騒ぎを聞いていたカイルさんが厨房から出てきてラークさんと対峙し始めた。
「あんた、リーネに何か用か?
こんな風に声を荒げる事なんてなかったから親しい仲ではないんだろう?
悪いが出てってくれるか?」
カイルさんの言葉が私は嬉しかった。
この場所、いや、カイルさんやレニーさんは私の唯一の『味方』であると実感する。
「…さっきも言ったけど、僕はお客だけど?
ここは何?一見さんは来たらダメな場所なのかい?
紹介が必要なら探してくるよ」
ラークさんの言葉を聞き、カイルさんは舌打ちをすると、食ったらさっさと帰れ!と吐き捨て、また厨房へと戻っていった。
「なんだ?あいつ、ムカつくな。僕を怒らしたらどんな目に遭うか教えてやらないといけないね、ククク…」
「やめて!お願いだから、早く食べて帰って!」
私の悲痛なお願いを聞くや、近くの椅子に座り注文を取る様に要求してきた。
「ねぇ、オススメは?」
「…なんでも美味しいです」
「それじゃあつまらないでしょ?早く教えてよ。
いいの?お客にそんな態度で?」
ラークさんの近くにいるだけで動悸がする…それだけじゃない、頭痛もだ。
早くこの場を離れたい…その一心でオススメを指差し教えた。
「へぇ、これ、か。じゃあこれでいいよ」
「…すみませんが、その紙に書いてもらえますか?
そういうシステムなので」
私はテーブルに備え付けられた紙とペンが入った容器を指し、書いてもらう様にお願いした。
そうすると、ラークさんはサラサラ…と書き、私に手渡してくる。
「…かしこまりました」
すぐに受け取り逃げる様に厨房の方へ駆けて行った。
でも後ろからはラークさんの視線が痛いくらいに刺さってくる。
「あ、あの、これ、お願いします」
ブルブルと震える手。そして同じように震えながら喋る声。
今すぐ座り込みたい…と思える程、私は憔悴しきっていた。
「リーネ、少し休んでろ」
「でも…」
休みたい、でも、もしカイルさんがラークさんと何かあってからでは取り返しがつかなくなる。
そう思うと、出て行くまでは私が二人の間にいるべきだと感じた。
私が渡した紙には注文が書かれており、それを確認すると素早く料理を作り出していった。
トン…っと私の前に差し出すと、そこには私がよく食べていたチャーハンがあった。
でも、私が食べていたのとは明らかに違う。
全体的に少し赤みがかってるような感じだった。
「あの、これ…」
「あんな奴にはこれでも食わしとけ。
思いっきり辛くしてある、舌を巻いて出ていって貰えば良い。
早く持っていけ」
正直、運ぶのを躊躇った。
これを差し出し、喧嘩でも始まったら…と思うと足が進まなかった。
「リーネ、いいから持ってけ!」
ハッパを掛けられ、私はラークさんへとそれを差し出した。
「へぇ、これがオススメ、ね。赤いけど、こういうもの?」
「…はい」
疑念を持ちつつも、口に運んでいく。
だが、一口食べた後、急に立ち上がりテーブルの脚を蹴っ飛ばしだした。
その衝撃で皿は床に落ち、辺りに散乱した。
「なんだ、コレ」
私に詰め寄ってくるラークさんは床に落ちた料理に唾を吐き捨て、更に私に寄ってくる。
「あ、あの…」
「おい、にぃちゃん。せっかくの料理をぶち撒けるとは何事だ?要らんならさっさと帰りな」
カイルさんがすぐに助けに来てくれたが、今にも手が出そうな雰囲気だった…。
そして、私をチラッと見るなりテーブルにお金を置き、そのまま去って行った。
静まり返る食堂。
「カイルさん…あの…」
「怪我は無いか?」
「はい…」
「なら、いい」
そう言うとまた厨房へと戻っていった。
私は床に散らばった料理を片付け、立ち上がるとテーブルに置かれたお金の他に一枚の紙に気付いた。
小さく二つ折りになっている紙には『リーネさんへ』と書かれていた。
その紙がより私を苦しめる事になっていく…。
店にいる常連客に対し、私は頭を下げ謝った後、落としたお盆を拾おうとしゃがみ込んだ。
すると、私がしゃがむのとほぼ同時にラークさんもしゃがみ込み私と同じ目線になり、こちらを向いてきた。
「…なんだ、僕の子を宿していないのか。残念だなぁ」
その言葉に私はすぐお盆を拾い上げると立ち、その場から逃げようとした。
でも、ラークさんは続けて話してくる。
「ブライスやユーリさんの事、知りたいんじゃない?
そんな顔してるよ」
「…私はもうあなた達と関わる気はないです。
だから、もう帰ってください」
キッパリと拒絶したが、それでもラークさんは店に留まり続けている。
私の安息の場所を壊されたくない…その思いから近づき頭を下げお願いをした。
「…今はお客なんだけどなぁ」
「いいえ、あなたはお客ではないです。ただ冷やかしに来ただけでしょ?
だから、もう帰って!?」
普段食堂で大声を上げることなどない私に周りは驚いている。
そして、騒ぎを聞いていたカイルさんが厨房から出てきてラークさんと対峙し始めた。
「あんた、リーネに何か用か?
こんな風に声を荒げる事なんてなかったから親しい仲ではないんだろう?
悪いが出てってくれるか?」
カイルさんの言葉が私は嬉しかった。
この場所、いや、カイルさんやレニーさんは私の唯一の『味方』であると実感する。
「…さっきも言ったけど、僕はお客だけど?
ここは何?一見さんは来たらダメな場所なのかい?
紹介が必要なら探してくるよ」
ラークさんの言葉を聞き、カイルさんは舌打ちをすると、食ったらさっさと帰れ!と吐き捨て、また厨房へと戻っていった。
「なんだ?あいつ、ムカつくな。僕を怒らしたらどんな目に遭うか教えてやらないといけないね、ククク…」
「やめて!お願いだから、早く食べて帰って!」
私の悲痛なお願いを聞くや、近くの椅子に座り注文を取る様に要求してきた。
「ねぇ、オススメは?」
「…なんでも美味しいです」
「それじゃあつまらないでしょ?早く教えてよ。
いいの?お客にそんな態度で?」
ラークさんの近くにいるだけで動悸がする…それだけじゃない、頭痛もだ。
早くこの場を離れたい…その一心でオススメを指差し教えた。
「へぇ、これ、か。じゃあこれでいいよ」
「…すみませんが、その紙に書いてもらえますか?
そういうシステムなので」
私はテーブルに備え付けられた紙とペンが入った容器を指し、書いてもらう様にお願いした。
そうすると、ラークさんはサラサラ…と書き、私に手渡してくる。
「…かしこまりました」
すぐに受け取り逃げる様に厨房の方へ駆けて行った。
でも後ろからはラークさんの視線が痛いくらいに刺さってくる。
「あ、あの、これ、お願いします」
ブルブルと震える手。そして同じように震えながら喋る声。
今すぐ座り込みたい…と思える程、私は憔悴しきっていた。
「リーネ、少し休んでろ」
「でも…」
休みたい、でも、もしカイルさんがラークさんと何かあってからでは取り返しがつかなくなる。
そう思うと、出て行くまでは私が二人の間にいるべきだと感じた。
私が渡した紙には注文が書かれており、それを確認すると素早く料理を作り出していった。
トン…っと私の前に差し出すと、そこには私がよく食べていたチャーハンがあった。
でも、私が食べていたのとは明らかに違う。
全体的に少し赤みがかってるような感じだった。
「あの、これ…」
「あんな奴にはこれでも食わしとけ。
思いっきり辛くしてある、舌を巻いて出ていって貰えば良い。
早く持っていけ」
正直、運ぶのを躊躇った。
これを差し出し、喧嘩でも始まったら…と思うと足が進まなかった。
「リーネ、いいから持ってけ!」
ハッパを掛けられ、私はラークさんへとそれを差し出した。
「へぇ、これがオススメ、ね。赤いけど、こういうもの?」
「…はい」
疑念を持ちつつも、口に運んでいく。
だが、一口食べた後、急に立ち上がりテーブルの脚を蹴っ飛ばしだした。
その衝撃で皿は床に落ち、辺りに散乱した。
「なんだ、コレ」
私に詰め寄ってくるラークさんは床に落ちた料理に唾を吐き捨て、更に私に寄ってくる。
「あ、あの…」
「おい、にぃちゃん。せっかくの料理をぶち撒けるとは何事だ?要らんならさっさと帰りな」
カイルさんがすぐに助けに来てくれたが、今にも手が出そうな雰囲気だった…。
そして、私をチラッと見るなりテーブルにお金を置き、そのまま去って行った。
静まり返る食堂。
「カイルさん…あの…」
「怪我は無いか?」
「はい…」
「なら、いい」
そう言うとまた厨房へと戻っていった。
私は床に散らばった料理を片付け、立ち上がるとテーブルに置かれたお金の他に一枚の紙に気付いた。
小さく二つ折りになっている紙には『リーネさんへ』と書かれていた。
その紙がより私を苦しめる事になっていく…。
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