上 下
97 / 106

祝宴の始まり

しおりを挟む
「あの…」

「なんだ?」

「暗くて何も見えないです。あなたは蝋燭はお持ちでは無いですか?」

「悪いが持ってない、ただ様子を見に来ただけだからな」

「それなのに灯りも持たず何故ここにいるんですか?
ただ様子を見に来ただけなんて思えないのですが?」

私の的確な問いにその人は、ふっ、っと笑ったかと思ったら、『ハハハ!』と大きく笑い出した。

「なかなか鋭いじゃないか。
そう、俺はあんたに伝言を伝え、様子を見に来ただけじゃない」

「…やっぱり」

「なぁ…あんた、別れたなら独り身だろう?
俺も同じ独り身だ。今お互いに相手がいないなら誰も困らないはず」

「結局、そういう事をしたいのですね…」

「フフフ、あぁ。その通りだ。あの時はブライス様が来て止めになったが、今日はブライス様達は大事な日だからな。邪魔しにくるなんて事はない。
めでたい日を俺達も祝おうじゃないか!」

そういうとおもむろにポケットから蝋燭を出し、灯りに火を灯し始めた。
持ってない、なんて嘘だった。

ぼんやりと揺らめく蝋燭の火が牢屋内を照らし出す。
たった一本の蝋燭が私とその人を映し、暗い地下に二人の影が伸びていた。

「さて…」

牢屋の鍵に近づき、腰元に付けていた鍵を取り、カチャカチャと鍵を開けようとしてくる。

「…意外だな。もっと騒ぐと思ったのだが。
それとも諦めがついて受け入れる事にでもしたか?」

私は何も言わず、ただ開ける様子をずっと見ていた。

そして、カチャリ…と鍵を開け中へと入ってくる。
鍵は取られる心配が無い、と思ったのだろう。
そのまま鍵穴につけたままだった。

「ククク…さぁてどうしようか」

まるで品定めをするかのように私の頭から足までを見てくる。
その見方はとても気持ち悪く対峙する私は気分が悪くなるのが分かった。

「…早くしたらどうですか?もしブライス以外の人が来たらどうするんですか?」

「来るはずない、この階段を登っても要るのは俺の部下達だけだ。
さっきも言ったが今日ほど都合が良い日はないんだよ。
だから諦めて俺に捧げ」

そう言いながら私の元へと一歩、また一歩と近づいてくる。
そして、私の両肩を掴み出してくる。
ビクッと反応を見せる私にその人は呼吸を荒くしていった。

「なんだ、あんたも本当はそういう気持ちだったんじゃないか。じゃあ…」

その人は私にキスを迫り顔を近づけてきた。
目を瞑りゆっくりと私の方へと来る。
でも、私はこの人にそんな事を絶対にさせるつもりはない。

ガンッ

目を瞑るその人の鼻に思いっきり頭突きを喰らわし、怯んだ隙に私は牢屋を出て鍵を閉めた。

「お、お前!?」

鼻を押さえ痛がる人をそのまま置き去りにして私は階段を登り始めた。

(確か、階段の外には警備員がいるって)

登りながらどうやって振り切るかを考えた。
幸いこの屋敷の事はこの牢屋以外はなんとか分かる。

(捕まらない、絶対…)

捕まったらもう二度と出れない、それにさっき以上の事をされてもおかしくない。
たった一度のチャンス…。

階段を出て一気に廊下に出ると警備員達はいきなり出てきた私に驚き目を見開いているだけで、動かず立ち止まっていた。

(今しか…)

すぐに私は警備員がいる方とは逆の方へと走り出し逃げた。
ポカンとした警備員達だったが、すぐに『待て!!?」と私を追いかけてくる。

右に折れ、そして次は左と私は振り切るように逃げているとメイドが多く出入りしている場所にたどり着いた。

「まさか…ここで…」

そこはブライスの部屋から少し離れた場所。
一際大きな扉が立ちはだかりいかにも何かをするには、って場所だった。

後ろからは警備員達の怒号と足音。
迷ってる暇はない。
私はすぐにその大きな扉を開き、中へと入るとそこはブライスとユーリの祝宴が執り行われていた最中だった…。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

根暗令嬢の華麗なる転身

しろねこ。
恋愛
「来なきゃよかったな」 ミューズは茶会が嫌いだった。 茶会デビューを果たしたものの、人から不細工と言われたショックから笑顔になれず、しまいには根暗令嬢と陰で呼ばれるようになった。 公爵家の次女に産まれ、キレイな母と実直な父、優しい姉に囲まれ幸せに暮らしていた。 何不自由なく、暮らしていた。 家族からも愛されて育った。 それを壊したのは悪意ある言葉。 「あんな不細工な令嬢見たことない」 それなのに今回の茶会だけは断れなかった。 父から絶対に参加してほしいという言われた茶会は特別で、第一王子と第二王子が来るものだ。 婚約者選びのものとして。 国王直々の声掛けに娘思いの父も断れず… 応援して頂けると嬉しいです(*´ω`*) ハピエン大好き、完全自己満、ご都合主義の作者による作品です。 同名主人公にてアナザーワールド的に別な作品も書いています。 立場や環境が違えども、幸せになって欲しいという思いで作品を書いています。 一部リンクしてるところもあり、他作品を見て頂ければよりキャラへの理解が深まって楽しいかと思います。 描写的なものに不安があるため、お気をつけ下さい。 ゆるりとお楽しみください。 こちら小説家になろうさん、カクヨムさんにも投稿させてもらっています。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

覆面姫と溺愛陛下

ao_narou
恋愛
幼少の頃に行われた茶会で、容姿を貶されたニアミュール・シュゼ・ヴィルフィーナ公爵令嬢。 その後熱を出し、別の異世界に転移した事を思い出した彼女は、今回で二度目の人生、三回目の世界を体験していた。  ニアと呼ばれる彼女は、近代的な(日本的な)知識と鋼の思考を持っていた。  彼女の婚約者は、この国の国王陛下であるグレン・フォン・ティルタ・リュニュウスだ。  彼女の隠された容姿と性格にベタ惚れのはグレンは、どうにか自分に興味を持って貰うため、日々研鑽を積む――が、ニアには一切通じない。  陛下には似合わない容姿だからと婚約破棄を望むニアと溺愛しまくるグレン。そんな二人に迫る魔女の影……上手く噛みあわない二人の異世界恋愛物語。

好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?

【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。

海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】 クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。 しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。 失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが―― これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。 ※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました! ※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

処理中です...