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時間にして数秒…だと思う。
でもそれはとても長く感じた。
そして、次第にゆっくり外していく唇に少し寂しさを覚えたのも事実だった。
「……」
小野さんは自分の唇にそっと右手の人差し指と中指を触れ、伏し目がちになっていた。
「ありがとう」
俺はそんな風にする小野さんにお礼を言った。
「そんな……私……」
スッと俺は立ち、頭を包み込むように抱いた。
身長差がある俺の胸あたりに小野さんの顔が当たる。
多分いま俺の心臓はすごい早いと思う。
自分でさえ早いなと思っているのだから、それが伝わらないはずは無い。
「嬉しかった、ですか……?」
なんだ、その質問って思った。
「当たり前だろ。今のが嫌な奴いたらそいつは絶対におかしい」
「……でも、昔、浩二さんは私に『おかしい』って言ってましたよね?」
「……いつだよ?」
「初めて会った日」
「……あれは、あんたがあんな所で勉強なんか」
何故か昔話に変わっていた。
「でもあの時はマジでそう思った。こんな奴が世の中にいるのか!って」
「……そんな人、好きになってますよ」
「ははっ、それを言ったらあんたもどうなんだ?中卒のクズ野郎だぞ、俺は」
「……そんな事ないです。もし、学歴に負い目があるなら私が教えます」
「教えるったって、あんた、これから医者になる為に勉強しまくらないといけねぇだろ」
「それは、そうですけど……」
「いいって、俺は勉強とか苦手だし。……それに、今の生活にそこまで不満は」
すると、小野さんが俺の胸を押し、距離をとっていった。
「どうした?」
「……浩二さん、私はあなたがいたから頑張れた。支えになってくれた。
今度は私があなたを支えたい」
「でも、俺は」
「……高校行かなくても卒業と同じ資格取れる制度があります」
「聞いた事あるけどよ……」
「私が教えます、受かるまで」
真っ直ぐ見つめる目はさっきまで泣いていて真っ赤だったのに、いつの間にかそれは収まっていた。
「……敵わなねぇな、あんたには」
頭を掻き、フッと笑う。
「わぁったよ、あんたが教えてくれるんだろ?」
「はい、受かるまでスパルタですよ」
「おいおい、そんなにか?」
すると小野さんは俺から離れゲートの方へと歩いて行った。
「何処に行くんだよ?」
慌てて追いかけていくと、クルッと振り返った。
「絶対に諦めないでくださいね」
照明に照らされ笑った顔はとても可愛かった。
デートは終わり、駅へと着くと本当に今日の『終わり』を迎えた。
「送ってくれてありがとうございます」
「当たり前だろ?……親から、連絡とかあったか?」
首を横に振る。
「有っても気にしません。邪魔されたくないから」
バックに置いた手をキュッと握る様は決意とも見てとれた。
だから俺は…。
「浩二さん……」
日が沈んだ美園駅のロータリーには多くの人が行き交っている。
でもそんな中、俺は小野さんの肩に手を回し、自身へと引き寄せてキスをした。
ーーーーーー
あれから日が経ち…。
「浩二さん、ここの式はこれを使うってさっき言いましたよ」
「そうだっけ……?」
「もぉ、何回目ですか?」
「いや、数えてねぇ」
「そういう問題じゃないです!……良いですか、ここは」
俺は小野さんが大学の授業の空いた時間に勉強を教えてもらうことにした。
勉強の時間を取るため、それに教えてもらう小野さんに合わせるために俺はバイトを辞めた。
「なに笑ってるんですか!?」
「いや、なんだかあんた可愛いなと思って」
「……」
照れて顔を赤くし、黙る姿も見慣れたものだ。
「浩二さん」
「なんだ?」
「……恭子」
「はぁ?」
「まだ、名前で呼んでもらった事ないですよ」
「あぁ……そうだったか?」
「いつなら呼んでくれるんです?……私、浩二さんの彼女、ですよね?」
黙りながらチラリと見てくる目はちょっとだけ鋭そうだ。
「……恭子」
照れくさそうに頭を掻き名を呼んでみた。
「聞こえません!」
「はぁ?!」
「全然聞こえません!?」
「いやいや、この距離だぞ」
俺と小野さんの距離は肩がぶつかっている。
それなのに、この物言いは…。
「ふぅ。……やっぱ、あんたには叶わねぇな」
「恭子!?」
「わぁったよ。……恭子」
その後、俺は恭子の必死のサポートにより、高卒認定を受かったのはいうまでもない…。
- end -
でもそれはとても長く感じた。
そして、次第にゆっくり外していく唇に少し寂しさを覚えたのも事実だった。
「……」
小野さんは自分の唇にそっと右手の人差し指と中指を触れ、伏し目がちになっていた。
「ありがとう」
俺はそんな風にする小野さんにお礼を言った。
「そんな……私……」
スッと俺は立ち、頭を包み込むように抱いた。
身長差がある俺の胸あたりに小野さんの顔が当たる。
多分いま俺の心臓はすごい早いと思う。
自分でさえ早いなと思っているのだから、それが伝わらないはずは無い。
「嬉しかった、ですか……?」
なんだ、その質問って思った。
「当たり前だろ。今のが嫌な奴いたらそいつは絶対におかしい」
「……でも、昔、浩二さんは私に『おかしい』って言ってましたよね?」
「……いつだよ?」
「初めて会った日」
「……あれは、あんたがあんな所で勉強なんか」
何故か昔話に変わっていた。
「でもあの時はマジでそう思った。こんな奴が世の中にいるのか!って」
「……そんな人、好きになってますよ」
「ははっ、それを言ったらあんたもどうなんだ?中卒のクズ野郎だぞ、俺は」
「……そんな事ないです。もし、学歴に負い目があるなら私が教えます」
「教えるったって、あんた、これから医者になる為に勉強しまくらないといけねぇだろ」
「それは、そうですけど……」
「いいって、俺は勉強とか苦手だし。……それに、今の生活にそこまで不満は」
すると、小野さんが俺の胸を押し、距離をとっていった。
「どうした?」
「……浩二さん、私はあなたがいたから頑張れた。支えになってくれた。
今度は私があなたを支えたい」
「でも、俺は」
「……高校行かなくても卒業と同じ資格取れる制度があります」
「聞いた事あるけどよ……」
「私が教えます、受かるまで」
真っ直ぐ見つめる目はさっきまで泣いていて真っ赤だったのに、いつの間にかそれは収まっていた。
「……敵わなねぇな、あんたには」
頭を掻き、フッと笑う。
「わぁったよ、あんたが教えてくれるんだろ?」
「はい、受かるまでスパルタですよ」
「おいおい、そんなにか?」
すると小野さんは俺から離れゲートの方へと歩いて行った。
「何処に行くんだよ?」
慌てて追いかけていくと、クルッと振り返った。
「絶対に諦めないでくださいね」
照明に照らされ笑った顔はとても可愛かった。
デートは終わり、駅へと着くと本当に今日の『終わり』を迎えた。
「送ってくれてありがとうございます」
「当たり前だろ?……親から、連絡とかあったか?」
首を横に振る。
「有っても気にしません。邪魔されたくないから」
バックに置いた手をキュッと握る様は決意とも見てとれた。
だから俺は…。
「浩二さん……」
日が沈んだ美園駅のロータリーには多くの人が行き交っている。
でもそんな中、俺は小野さんの肩に手を回し、自身へと引き寄せてキスをした。
ーーーーーー
あれから日が経ち…。
「浩二さん、ここの式はこれを使うってさっき言いましたよ」
「そうだっけ……?」
「もぉ、何回目ですか?」
「いや、数えてねぇ」
「そういう問題じゃないです!……良いですか、ここは」
俺は小野さんが大学の授業の空いた時間に勉強を教えてもらうことにした。
勉強の時間を取るため、それに教えてもらう小野さんに合わせるために俺はバイトを辞めた。
「なに笑ってるんですか!?」
「いや、なんだかあんた可愛いなと思って」
「……」
照れて顔を赤くし、黙る姿も見慣れたものだ。
「浩二さん」
「なんだ?」
「……恭子」
「はぁ?」
「まだ、名前で呼んでもらった事ないですよ」
「あぁ……そうだったか?」
「いつなら呼んでくれるんです?……私、浩二さんの彼女、ですよね?」
黙りながらチラリと見てくる目はちょっとだけ鋭そうだ。
「……恭子」
照れくさそうに頭を掻き名を呼んでみた。
「聞こえません!」
「はぁ?!」
「全然聞こえません!?」
「いやいや、この距離だぞ」
俺と小野さんの距離は肩がぶつかっている。
それなのに、この物言いは…。
「ふぅ。……やっぱ、あんたには叶わねぇな」
「恭子!?」
「わぁったよ。……恭子」
その後、俺は恭子の必死のサポートにより、高卒認定を受かったのはいうまでもない…。
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