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後少し

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ガクッと止まった小野さんの膝からバックがポロッと落ちた。

「あの」
「……俺、あんたが好きだ」

自分にとって初めて告白した。
今まで誰かと群れたりする事を嫌っていたし、ましてや女性と一緒にいるなんて疲れるだけだと思っていた自分がハッキリと言っていた。
そこに照れなど一切無かった。

「……私を、ですか?」
「あぁ。あんたしかいないだろ、ここに」

俺は落ちてしまったバックを拾い、小野さんの膝へと戻すと、道を塞ぐようにブランコの前に立ち、チェーンを握った。

「……聞こえなかったならもう一度言おうか?」

月を背にして立つ俺の顔は影になっているようだ。
だけど、俺は小野さんの顔はハッキリと見えている。
首を上げ、少し上目遣いで見るその目は怯えている様子はなく、困惑が勝ってる。
仕方ないよな、だって、いきなりなんだから…。

何度も俺を見ては鞄へと目を上下させるが、言葉は一切無い。
が、持つチェーンは少しカチャカチャと音を鳴らす。

「あんたが受験生なのは分かった。勉強が1番なのも分かる。だからそれの邪魔をするつもりはない。
毎週会えとか、メールしろ、電話しろなんて言わねぇ。
だけど……もう会えなくなるのだけは嫌だ。耐えられねぇ」

「浩二、さん……」

「……すまねぇ、急に」

俺は掴んでいたチェーンを離し、小野さんの前から距離を取った。
時刻はもう9時を回ろうとしていた…。




ブランコに座ったままの小野さんからはしばらく何も言葉はなかった。
俺も同じように背を向け黙ってしまった。
時間だけが無情にも去っていく…。

そんな時だった。
スマホのバイブレーションの音が鳴り響いた。

「あっ……」

どうやら小野さんかららしい。
慌てた様子で座っていたブランコから立ち、少し俺から遠ざかると話し始めた。

(くそっ。親か……)

「………………………い、……せん」

完全には聞き取れなかったが、謝っているようだ。
そして、電話を終えると俺に近づいてきた。

「すみません、親から早く帰れと……」
「だよな、こんな時間だ。……すまねぇ」
「いえ、……ごめんなさい」

俺達は駅へと向かい、階段近くまで俺は小野さんを送った。

「……それじゃあ」
「あぁ……気をつけて帰れよ」
「はい」

くるりと背を向け、階段を登りゆく小野さんの姿を俺は見続けた。
本当は背を向けた瞬間、抱きしめたかった。
でも、返事を貰ってない俺がそんな事出来るはずもなく、段々小さくなっていく姿を見ながら俺は両手をギュゥゥっと強く握り込んだ。


帰り、俺はかぁちゃんの電池を買ってこいという約束を忘れ、こっ酷く怒られたが、どうでも良かった…。
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