上 下
38 / 50

38

しおりを挟む
「ちょっと待って!?」

声を上げる私にニコラスは少し足を止めると振り返ってくる。

「なんだ?もう話など無い。……いや、忘れていた。一つだけあったな」
「ニコラス様??」

再度こちらへと戻ってきた。

「なに?忘れていた事って……」
「近々、アドルフへの攻撃を開始する。リスティアとの婚姻も済んだ事だしな。
それに以前より作っていた物が完成し、それを使って勝利しようと思う。驚く顔が早く見たいものだな!」
「……あなた、自分から休戦を申し出たのにそれを破る気?」
「なんだ、知っていたのか。アドルフから聞いたのか?」
「えぇ、聞いたわ」
「ふっ、まぁいい。聞いた所でお前に何かできる訳じゃないからな、そこで大人しくくたばってくれ。……すまないな、リスティア、長々と」
「いいえ。……それじゃあ、お姉様、さようなら」
「リスティア!?」

それ以上何も言わずに二人は階段を登っていってしまった。
登る二人へ向けた悲痛な叫びなどもう聞こうともせず…。


誰も居なくなった牢屋。

(このまま私は死ぬの……?)

薄暗い空間の中、蹲る私は些細な音に過敏になり、寝ることすら出来なかった。




ーーーーーーー




その後、時間だけが過ぎていき、今が何時であるかもわからなかった。
ただ、喉が渇き、お腹が鳴るのでぶち込まれてから長い時間が経っているのだけは分かった。

私はもう座るのも疲れ、体を横にし冷たい床をボォッと見るだけになっていた。
だけど、誰もこの牢屋に来る事もなくさらに時間だけが経過していく…。




空腹から爪をつい噛んでしまった。
その際触れる唇がとてもカサカサしており、爪が引っかかると痛さを感じた。
多分、血が出たのだろう。

(……頭も痛い)

空腹すぎて頭痛も発生し、さらには生あくびも頻発するようになってきた。

(このまま死んだ方が、楽、かな……)

次第に諦め、目を瞑っていく。


すると、今まで誰も来なかった階段を降りる足音がしてきた。
その足音は普通に降りる感じではなく、まるで何かを探すようにゆっくりと慎重に降りてくる感じがした。

そして階段を降り姿を見せたのはあの騎士だった。
どうやら一人のようだ。

(一人?……前は複数いたはず)

声をかける力はほとんどなく、来た騎士を見ていた。
そうしていると騎士は牢屋にいる私の鍵をいきなり叩き始めた。

「えっ」

思わず声が漏れ、倒していた体を起こし、隅へと逃げた。
一心不乱に掛かってる南京錠を何度も右腕に付けた甲冑で叩いてくる。

「……あなた、誰なの?」

一瞬、動きが止まるも、すぐに叩くのを再開する。
そして、バキっと音を鳴らし南京錠を壊すとゆっくりと入ってきた。

「こ、来ないで!?」

ぬっと入ってきた騎士は大きくすぐに隅にいる私を追い込んでくる。
私は開けられた鍵の方を見て逃げる算段を考えた。
しかし、そんなことを考えた私との距離を一気に詰めてきてあっという間に捕まってしまった。

「やめてっ!?」

覆い被さるように捕まえてきた騎士に対し、抵抗する力はほとんどなく手足をバタつかせるだけだった。

「静かにしろ。騒ぐと、殺す」

その言葉に私はもうダメだと思った。
その真意はんだ、と。

動かしていた手足の抵抗をピタリと止め、大人しくなった。
歯をガチガチと鳴らし、その瞬間が来てしまうのを恐れた。

「……するかよ」

意外な言葉だった。
騎士がゆっくり体を離すとその顔を見せてきた。

「帰ってこねぇと思ったら、こんなことになってるとはな。まぁ、ニコラスがやりかねん事だな」

「……あ、アドルフ?」

「声を上げるな、今は夜だ。今のうちに出るぞ」

来た人物がアドルフである事に驚くと共に私は大粒の涙が自然と出てきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています

矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜 ――『偽聖女を処刑しろっ!』 民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。 何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。 人々の歓声に包まれながら私は処刑された。 そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。 ――持たなければ、失うこともない。 だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。 『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』 基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。 ※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)

天才令嬢の憂鬱

Giovenassi
恋愛
この話は完全にフィクションです。

自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!

ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。 ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。 そしていつも去り際に一言。 「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」 ティアナは思う。 別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか… そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

(完結)婚約解消は当然でした

青空一夏
恋愛
エヴァリン・シャー子爵令嬢とイライジャ・メソン伯爵は婚約者同士。レイテ・イラ伯爵令嬢とは従姉妹。 シャー子爵家は大富豪でエヴァリンのお母様は他界。 お父様に溺愛されたエヴァリンの恋の物語。 エヴァリンは婚約者が従姉妹とキスをしているのを見てしまいますが、それは・・・・・・

【BL】こいつのせいで狂いっぱなし。溺愛してるケモ耳少年がゆうこと聞かなくて困ってます。

あっ ふーこ賦夘
BL
仕事放棄で引きこもった月詠神の代行を務める天慶さまが拾ったのは狼少年・颯太。 天真爛漫な颯太にご執心の天慶さまですが・・・。 コミチでマンガを描いている「満月と銀の狼」を小説にしてみました。 天慶さまと颯太を中心に、複雑な恋模様を書いています。 よろしくお願いします。

処理中です...