上 下
33 / 50

33

しおりを挟む
十日後……

「じゃあ」

私はアドルフに馬車を借り、アーデルハイト家へと向かうことにした。
髪を束ね三つ編みに結い、あの赤いドレスを纏う。

「あぁ、気をつけろ」

アドルフはこの婚姻に関しては何も言ってこなかった。
それはこの問題は私達、家族の問題だからだと思う。
乗り込み、ゆっくりと馬車は進みだし、次第にルーベルト家の本宅は小さくなっていった。


「早過ぎませんか?婚姻の儀をするのは」
「……そうね」

メリッサが驚くのも仕方ない。
あの日、婚約をしてからまだ一年も経ってないのにこのスピード感。
だけど、私にはなんとなく分かった。
父が焦り進言したとか、リスティアが物言いを言ったから……そんな感じだと。

馬車は森を抜け、施設を通り過ぎると次第にアーデルハイト家の屋敷が目に映ってきた。


(……またここにくるなんて)


ニコラスと婚約していた時は何回も訪れていた場所。
でも今回は破棄され、妹の婚姻のために訪れる。
立場が全く違う中で踏み入れる空気に私は少しブルっと体を震わせた。


バロック様式の大きな屋敷。
領地内での権力の強さを表すかのような豪華な造りで周りを大きな塀で囲み、入り口には重厚な門を構え、その前で一旦馬車は止まった。

召使いが門番と会話を交わすと、ゆっくりとその門は開き、中への入門を許された。



「……やっぱり豪華ですね」
「……えぇ」


久しぶりに中へと踏み入れた屋敷内は入ってすぐに大きな木が立ち並び、それを抜けると今度は鮮やかな花が出迎える。
近くには水をやる使用人がおり、現れた黒い馬車を見て少し驚きの表情を見せていた。

(そうよね……この馬車、争ってる人の物だし)

馬車はゆっくりと進み、屋敷前にあるロータリーを回ると、扉の前で止まった。

「……メリー」

メリッサがいち早く出迎えた人物の名を呼ぶ。
止まった馬車の扉を開くとリスティアの侍従、メリーがいた。

「どうもご機嫌よう。フェリス様、そして、メリッサ」

ゆるふわに巻いた桃色の長髪に優しく微笑みを浮かべるエメラルドの瞳、メリッサと同じ侍従の格好を纏い、細く白い腕を差し出してくる。

「あなたが出迎えるなんて……」
「あら、意外だったかしら?ニコラス様とリスティア様は手が離せないの。分かるでしょ、今日がどんな日かを」
「え、えぇ」
「それと、フェリス様も……」

メリーは私が纏うドレスをじっくり見ているようだ。

「まだ、ニコラス様の事好きなんですか??」
「なんで……?」
「だって、そのドレス」

ふふっと笑いを入れ、口元を隠していく。

「ちょっとお嬢様に失礼でしょ。あなた、私と同じ侍従のはず。立場をわきまえなさい」
「おぉ、怖い怖い」
「……行きましょう、お嬢様」

メリーの出迎えを無視し、私達は馬車を降りた。



「場所は何処で……?」

「もちろん、貴賓の間ですよ。うんと豪勢な式なんですから。……でも、良かったですね」
「なにが??」
「リスティア様はあなたを呼ぶ事を最初は猛反対してましたよ。別に出て行った人間だし、ましてやあの冷酷な殺人者イレイザーの元へ行ったんですから。
それでもニコラス様がどうしても、と言ったので仕方なく手紙を」
「どうしてニコラスが……」
「あらあら、フェリス様。あなたがもうニコラス様を呼び捨てで呼んだらいけないのでは??とても高貴な方ですよ」
「ちょっとメリー!あなた、さっきからその物言い可笑しいわ!??」
「……メリッサ、あなたも少し私に口を慎んだほうがいいのでは??」
「なぜ……?」

すると、先を歩いていたメリーが足をピタッと止め、振り返ってきた。

「私はハーベスト家の奥様と、そしてこれからアーデルハイト家に嫁ぐリスティア様の侍従になる。『位』が比べ物にならないくらい違うはずよ。そんな……」

ちらっと私を見てきた。

「いずれ、な最後を迎える者に仕えるなんて無駄よ」
「メリー!??」

メリッサがメリーへと詰め寄って行った。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

辺境の獣医令嬢〜婚約者を妹に奪われた伯爵令嬢ですが、辺境で獣医になって可愛い神獣たちと楽しくやってます〜

津ヶ谷
恋愛
 ラース・ナイゲールはローラン王国の伯爵令嬢である。 次期公爵との婚約も決まっていた。  しかし、突然に婚約破棄を言い渡される。 次期公爵の新たな婚約者は妹のミーシャだった。  そう、妹に婚約者を奪われたのである。  そんなラースだったが、気持ちを新たに次期辺境伯様との婚約が決まった。 そして、王国の辺境の地でラースは持ち前の医学知識と治癒魔法を活かし、獣医となるのだった。  次々と魔獣や神獣を治していくラースは、魔物たちに気に入られて楽しく過ごすこととなる。  これは、辺境の獣医令嬢と呼ばれるラースが新たな幸せを掴む物語。

最愛の亡き母に父そっくりな子息と婚約させられ、実は嫌われていたのかも知れないと思うだけで気が変になりそうです

珠宮さくら
恋愛
留学生に選ばれることを目標にして頑張っていたヨランダ・アポリネール。それを知っているはずで、応援してくれていたはずなのにヨランダのために父にそっくりな子息と婚約させた母。 そんな母が亡くなり、義母と義姉のよって、使用人の仕事まですることになり、婚約者まで奪われることになって、母が何をしたいのかをヨランダが突き詰めたら、嫌われていた気がし始めてしまうのだが……。

虐げられ令嬢、辺境の色ボケ老人の後妻になるはずが、美貌の辺境伯さまに溺愛されるなんて聞いていません!

葵 すみれ
恋愛
成り上がりの男爵家に生まれた姉妹、ヘスティアとデボラ。 美しく貴族らしい金髪の妹デボラは愛されたが、姉のヘスティアはみっともない赤毛の上に火傷の痕があり、使用人のような扱いを受けていた。 デボラは自己中心的で傲慢な性格であり、ヘスティアに対して嫌味や攻撃を繰り返す。 火傷も、デボラが負わせたものだった。 ある日、父親と元婚約者が、ヘスティアに結婚の話を持ちかける。 辺境伯家の老人が、おぼつかないくせに色ボケで、後妻を探しているのだという。 こうしてヘスティアは本人の意思など関係なく、辺境の老人の慰み者として差し出されることになった。 ところが、出荷先でヘスティアを迎えた若き美貌の辺境伯レイモンドは、後妻など必要ないと言い出す。 そう言われても、ヘスティアにもう帰る場所などない。 泣きつくと、レイモンドの叔母の提案で、侍女として働かせてもらえることになる。 いじめられるのには慣れている。 それでもしっかり働けば追い出されないだろうと、役に立とうと決意するヘスティア。 しかし、辺境伯家の人たちは親切で優しく、ヘスティアを大切にしてくれた。 戸惑うヘスティアに、さらに辺境伯レイモンドまでが、甘い言葉をかけてくる。 信じられない思いながらも、ヘスティアは少しずつレイモンドに惹かれていく。 そして、元家族には、破滅の足音が近づいていた――。 ※小説家になろうにも掲載しています

【完結】月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編完結しました。お付き合いいただいた皆様、有難うございました!※ 両親を事故で亡くしたティナは、膨大な量の光の魔力を持つ為に聖女にされてしまう。 多忙なティナが学院を休んでいる間に、男爵令嬢のマリーから悪い噂を吹き込まれた王子はティナに婚約破棄を告げる。 大喜びで婚約破棄を受け入れたティナは憧れの冒険者になるが、両親が残した幻の花の種を育てる為に、栽培場所を探す旅に出る事を決意する。 そんなティナに、何故か同級生だったトールが同行を申し出て……? *HOTランキング1位、エールに感想有難うございます!とても励みになっています!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

処理中です...