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「さて、話は終わったので……リスティア、行こうか」
「えぇ、ニコラス様!」

二人は腕を組みながら私達の立つ扉へとやってくる。

「終わったんだぞ、話は。さっさと退いてくれ」
「……そんな言い方しなくても退くけど」

私は一歩下がり扉の前を開けた。

「ニコラス様、相手なんてしなくて良いですよ。もう何でも無い人ですから」
「確かにな。あはははっ!?」

大声で笑いながら二人は部屋を後にしていった。

(……リスティア、絶対に許さないから)




ーーーーーー




婚約破棄から数日…。



「……それじゃあ行ってきます」

私はアドルフの元へと行く日を迎えていた。

屋敷の前には2頭の青鹿毛の馬と私とメリッサが乗る白い客車が用意され、見送る父と母、そしてリスティアがいた。

「フェリス、ちゃんと嫁ぐんだぞ」
「……はい」

(追い出したくせに……)

「もう会えなくなるなんて寂しいですわ、お姉様。
これから毎日手紙を送りますから!」

(送らないくせに……それに、その顔)

リスティアの顔は悲しそうな表情など一切なく、左頬に不気味にえくぼを作り、ほくそ笑むような感じだ、

「……フェリス」

ニコラスとの婚約破棄の際は一切口を開かなった母だが、私の事を心配しているようだ。
リスティアとは違い、目に涙を浮かべつつ、ゆっくりと私の両手を握ってきた。

(……強く言えなかったんだろう、父の前でもあったし)

「お母様、そんなことしなくて良いですよ。今生の別れじゃあるまいし~」

握られた手を私はピクッと反応させた。

「……リスティア、少し言葉が悪いわ」
「ごめんなさい~」

母に注意され、クルッと後ろを向き反省の態度を見せているが、多分顔は違うだろう…。

「お嬢様……そろそろ」
「えぇ」

メリッサが客車の扉を開け、乗るのを促してくる。

「それじゃあ」

母の手を離し、私は客車へと向かった。

客車の中は真っ赤なシートが向かい合わせに設置され、窓には薄いレースのカーテンがある。
私とメリッサ、向かい合わせに座り込み、合図をするとゆっくりとアドルフの元へと走り出して行った。


ハーベスト家からルーベルト家までは馬車で半日位で着く距離だ。
途中、アーデルハイト家の領地を通らないといけない。

「お嬢様」
「なに?」
「……どんな方でしょうか」
「私にも分からない……噂くらいしか聞いた事ないし」
「そ、そうですよね。でも本当なんでしょうか?その噂は」
「……」
「もし、本当にそうなら私が身を挺して守りますから!?」
「ありがとう、メリッサ。……でもあなたに何かあったら私も耐えられないから」
「お嬢様……」


ゴトゴト…と馬車は進み、昼過ぎを迎える頃にはアーデルハイト家の領地が迫ってきた。

(……ニコラス)

私は開けていたカーテンをシャッと閉め、なるべく外を見ないようにし、顔は下を向けた。
すると、メリッサがスッと膝に上に置いていた私の手に添わせてきた。

「メリッサ?」
「大丈夫です。すぐに通り過ぎますから」
「……ありがとう」

メリッサの優しさに触れ、私の目から自然と涙が落ちていた。





次第に砂利道が続くようになり、整備されたアーデルハイト家の領地からは抜けたようだった。

「もう、大丈夫ですよ」

ゆっくりと顔を上げ、私は外に広がる景色をカーテン越しに見た。
砂利道の側には草木が生え、先に進むほど背丈の高い草が覆い茂っていくようになっていった。

「……なんだか、不気味ですね」
「えぇ……」

さらに進むと周りは高い木が立ち並び、所々で鳥の鳴き声がし始め、それは進む度に数を増やしていく。


「わっ!」


砂利道に置かれた石を踏んだのだろうか、急に客車が大きく傾き、バランスを崩す。

「お嬢様!」

メリッサは必死に私の腕を掴み、お互いに支え合う形で馬車は先を進んでいく。

ギャアギャアっと聞き慣れない鳥の声が不安感を募らせ、一刻も早くこの森を抜けて欲しかった。

「……あっ、お嬢様、もう少しで抜けれそうです」

ガタガタと馬車の車輪が激しく音を鳴らし、客車も右に左へと揺らしながら前に進むと、光が差す場所が見えてきた。




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