上 下
64 / 68

しおりを挟む
歩いてくるジャックさんは私に気付くと少し目を伏した。
どうやら反省しているようで、歩く速度も少し遅くなっている。

「どうしたんですか?」
「いや、さっきは……」
「傷、開いたりしますよ。戻ってください」
「そういう訳には」
「もうさっきの事はいいです。でも次あったら許しませんよ」
「……はい」
「でも、今日はここに私はいます」
「そうですか……そうですよね……」

期待した返事を貰えなかった事に落胆しつつジャックさんは引き返していった。
そんな後ろ姿はエリスに会えなかった時と同じく小さく見えた。


ーーーーーー


翌朝、周囲に人があれから来なかったみたいで私は無事に朝を迎えることができた。

「…っ」

手を上げ、伸びをしつつジャックさんのいる方を見た。

(まだ落ち込んでいるのだろうか…)

傷の件もあるので私は立ち、家へと向かう事にした。
そして近づいていくと家の不気味さが際立って見えた。
朽ちた木にボロボロの板、外からでも中の様子が見える箇所がいくつもある。
そんな家に私は来ていたんだと…。
あのままこの家にいたら病気にでもなりそうなくらいだ。

そんな家の中で寝るジャックさんはまだ起きてないようだった。
恐る恐る中の様子が見える箇所から覗くと自然に横になり寝ていた。

「良く寝れるなぁ……こんな場所で……」

長年森の小屋で暮らしていたからこんな家でも普通に暮らせる精神が身についたのだろうか、度胸があると言うか……。
そんな風に見ていると『ふわぁ』とあくびをしつつ起きてくる。

「あっ」

つい声を出してしまっていた。

「……リースさん?」

私に声をかけてくるジャックさんの声から隠れるように小屋の隅へと急いで移動した。

「リースさんでしょ!……ねぇ」

飛び起き家をでるとすぐに私は見つかった。

「やっぱり、……覗きとは変な趣味がありますね」
「……違います」
「じゃあ何故ここにいるんです?」
「いたらダメですか?人がせっかく心配したというのに」
「心配?もしかして私が落ち込んでいるから?」
「ま、まぁ……。それよりも傷の方が心配ですが」
「あなたは優しいのか、それとも天の邪鬼なのか……」
「いいですっ。そこまで言うなら!?」

せっかくの厚意を押さえつけてくるこの人の事を見にくるんじゃなかったと思った。
だからまた家から離れるように私は引き返していった。

「待って!どこに!?」
「どこでも良いでしょ」
「良くないです、あなたは街にいくのが嫌なはず。もう少しここに」
「こんな不気味な家にいたらどうかなりそうです!街のがまだ安全です!」

ズンズンと歩く私を追うようにジャックさんは追いかけ隣に並びつつ説得してくる。

「いいから、街は……」
「もうバレても構いません、耐えれば良いだけですから!」
「いやいや、何を言ってるんです。あなたに耐えれる訳ない」
「いいえ、大丈夫です。お構いなく」
「無理ですって!?」

私の手首を掴み、引き止めては歩くのをやめさそうとしてきた。

「掴まないでくださいっ。声を上げますよ!」
「ここには人なんて来ませんよ」
「いいえ、来ます!昨日だって!?」
「昨日?……誰が来たんです」
「いや、……そう、散歩してくる人とか」
「昨日って夜ですよね?そんな時間にこんな外れに散歩?おかしいですよね」
「いいえ、私はちゃんと見ました。人が居たのを」

エリスが来た事を告げず、嘘を重ねていきなんとか誤魔化そうとした。

「じゃあ特徴を言ってください」
「とく、ちょう?」
「えぇ、見たなら言えますよね?……教えてください」
「なんで教えないと……。いたのは事実ですからそれで十分ですよね」
「本当に見たんですか?……ならなんでこんな脈が早いんです?」

まさかそんな方法で嘘を見抜いてくるなんて……と思った。
脈を測り私の嘘を暴こうとしてきた。

「私の脈は早いんです」

咄嗟の嘘も浅はかなもので……。

「ぷっっ」
「なに笑ってるんですか!?」
「脈が早いなんて嘘、初めて聞きましたよ。……体が嘘だって素直なくせに」
「うるさいっ」

私はバッと手首を振り払った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの旦那様は幼なじみと結婚したいそうです。

和泉 凪紗
恋愛
 伯爵夫人のリディアは伯爵家に嫁いできて一年半、子供に恵まれず悩んでいた。ある日、リディアは夫のエリオットに子作りの中断を告げられる。離婚を切り出されたのかとショックを受けるリディアだったが、エリオットは三ヶ月中断するだけで離婚するつもりではないと言う。エリオットの仕事の都合上と悩んでいるリディアの体を休め、英気を養うためらしい。  三ヶ月後、リディアはエリオットとエリオットの幼なじみ夫婦であるヴィレム、エレインと別荘に訪れる。  久しぶりに夫とゆっくり過ごせると楽しみにしていたリディアはエリオットとエリオットの幼なじみ、エレインとの関係を知ってしまう。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

完璧な姉とその親友より劣る私は、出来損ないだと蔑まれた世界に長居し過ぎたようです。運命の人との幸せは、来世に持ち越します

珠宮さくら
恋愛
エウフェシア・メルクーリは誰もが羨む世界で、もっとも人々が羨む国で公爵令嬢として生きていた。そこにいるのは完璧な令嬢と言われる姉とその親友と見知った人たちばかり。 そこでエウフェシアは、ずっと出来損ないと蔑まれながら生きていた。心優しい完璧な姉だけが、唯一の味方だと思っていたが、それも違っていたようだ。 それどころか。その世界が、そもそも現実とは違うことをエウフェシアはすっかり忘れてしまったまま、何度もやり直し続けることになった。 さらに人の歪んだ想いに巻き込まれて、疲れ切ってしまって、運命の人との幸せな人生を満喫するなんて考えられなくなってしまい、先送りにすることを選択する日が来るとは思いもしなかった。

【完結】今夜さよならをします

たろ
恋愛
愛していた。でも愛されることはなかった。 あなたが好きなのは、守るのはリーリエ様。 だったら婚約解消いたしましょう。 シエルに頬を叩かれた時、わたしの恋心は消えた。 よくある婚約解消の話です。 そして新しい恋を見つける話。 なんだけど……あなたには最後しっかりとざまあくらわせてやります!! ★すみません。 長編へと変更させていただきます。 書いているとつい面白くて……長くなってしまいました。 いつも読んでいただきありがとうございます!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。 待ってましたッ! 喜んで! なんなら物理的な距離でも良いですよ? 乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。  あれ? どうしてこうなった?  頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。 ××× 取扱説明事項〜▲▲▲ 作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+ 皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。 9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ⁠(⁠*゚⁠ー゚⁠*⁠)⁠ノ

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

処理中です...