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謎の男
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聞こえてくる声はジャックさんでは無かった。
もう少し若い、幼さが残る男性の声だ。
「……誰ですか?」
背に触れる物が何かわからないので刺激してはいけないと感じ、前を向いたまま接することにした。
「僕が誰かなんて知らなくてもいいですよ、だってあなたはそこの湖の下に沈むことになるかもしれないのだから」
「つまり、殺す、って事ですね」
「……どう捉えても構いませんよ」
背に当たる物を一層私に押し込むと、男性は『手を上に』と指示してくる。
言われた通りに手を挙げると、そのまま膝を…と言う。
(誰なんだ?前みたいに強姦……?)
「じゃあ次はそのまま目を閉じて」
「あの」
「なんですか?」
「目的はなんですか?……金品?それとも体?」
私の質問に黙った後、ゆっくり口を開いた。
「どちらでもないですよ」
「じゃあ……なに?あなた、私より年下ですか?」
「なんでそんな質問を?」
「声です、私より若いと思ったので。違うならごめんなさい」
カチンと来たのか、背に当たった物をゆっくり離し始め、今度は立ち向かい合う様にと指示してきた。
暗くなった湖のほとり。
振り向いた私は初めてその男性と対面した。
暗くてしっかりと分からないが、やはり若そうだ。
背も同じくらいで身なりも普通。
白いシャツに焦茶のズボン姿、そして白の靴。
「……やっぱり若いですね」
若い、若い言う私に怒り、声を荒げてきた。
「若くない!?僕はもう28だ!」
年上だった。
だが、言葉遣いは子供のようで…。
「こんな場所になぜ一人で?」
「……あなたは今脅されているんですよ。もっと怯えたらどうです?」
「……ごめんなさい、でも私はあなたが危害を加える感じがしなくて」
「うるさいっ、これが見えないの?!」
突きつける物はキラリと光る、どうやらナイフの様だ。
だが、なぜか私はそれを見せられても怖くなかった。
持つ相手に恐怖を感じなかったからだ。
「どう、これですよ!切り付けたらあっという間に血が噴き出る」
「……そうでしょうね」
「もっと怖がって!」
「目的は、なんですか?」
「もう、いいっ!?」
男性は業を煮やし私の元を去って行った。
(なんだったんだろう……)
去りながら男性は私の事を何度も振り返り見ては去る。
危険が去り、一人になった私はどうしたものかと悩んだ。
ジャックさんとエリスは会ったのだろう、と考えここにいる意味が無くなった。
だが、辺りは暗く歩くのは良くないと思った私は白いベンチに移動し座った。
「これからどうしよう」
ベンチに足を乗せ丸まる私は湖を眺めつつ時間を過ごした。
ーーーーーー
「リースさん」
ボンヤリと眺めていた私にジャックさんの声がした。
何故!と思い、振り返るとジャックさんのみでエリスの姿は無かった。
「どうして?」
「それはこっちの台詞ですよ」
「エリスに会ったのでは?」
「……」
無言になり下を俯きながら首を振るジャックさんを見て、そうかぁと思った。
待っていたが来なかったんだ、と。
「でもどうしてここから離れたんですか?」
約束の場所がここなのに離れた理由を問うと『もしかしたら迷っているのかと思い探し出した』と答える。
だが、結果は空振りでエリスは来なかったようだ。
「エリスに限って……」
約束を破るような人ではないと何度も呟くジャックさんの体はとても小さく見えた。
その様子はかなりの落ち込みで痛めた傷など忘れてしまうくらい深く…。
しばし無言のまま時が過ぎ、さわさわと風に当たると木々が騒ぐ。
「……帰ります」
「いいのですか?」
「これだけ待っても来ないなら、……もう」
意気消沈状態でジャックさんは湖を後にしていった。
もう少し若い、幼さが残る男性の声だ。
「……誰ですか?」
背に触れる物が何かわからないので刺激してはいけないと感じ、前を向いたまま接することにした。
「僕が誰かなんて知らなくてもいいですよ、だってあなたはそこの湖の下に沈むことになるかもしれないのだから」
「つまり、殺す、って事ですね」
「……どう捉えても構いませんよ」
背に当たる物を一層私に押し込むと、男性は『手を上に』と指示してくる。
言われた通りに手を挙げると、そのまま膝を…と言う。
(誰なんだ?前みたいに強姦……?)
「じゃあ次はそのまま目を閉じて」
「あの」
「なんですか?」
「目的はなんですか?……金品?それとも体?」
私の質問に黙った後、ゆっくり口を開いた。
「どちらでもないですよ」
「じゃあ……なに?あなた、私より年下ですか?」
「なんでそんな質問を?」
「声です、私より若いと思ったので。違うならごめんなさい」
カチンと来たのか、背に当たった物をゆっくり離し始め、今度は立ち向かい合う様にと指示してきた。
暗くなった湖のほとり。
振り向いた私は初めてその男性と対面した。
暗くてしっかりと分からないが、やはり若そうだ。
背も同じくらいで身なりも普通。
白いシャツに焦茶のズボン姿、そして白の靴。
「……やっぱり若いですね」
若い、若い言う私に怒り、声を荒げてきた。
「若くない!?僕はもう28だ!」
年上だった。
だが、言葉遣いは子供のようで…。
「こんな場所になぜ一人で?」
「……あなたは今脅されているんですよ。もっと怯えたらどうです?」
「……ごめんなさい、でも私はあなたが危害を加える感じがしなくて」
「うるさいっ、これが見えないの?!」
突きつける物はキラリと光る、どうやらナイフの様だ。
だが、なぜか私はそれを見せられても怖くなかった。
持つ相手に恐怖を感じなかったからだ。
「どう、これですよ!切り付けたらあっという間に血が噴き出る」
「……そうでしょうね」
「もっと怖がって!」
「目的は、なんですか?」
「もう、いいっ!?」
男性は業を煮やし私の元を去って行った。
(なんだったんだろう……)
去りながら男性は私の事を何度も振り返り見ては去る。
危険が去り、一人になった私はどうしたものかと悩んだ。
ジャックさんとエリスは会ったのだろう、と考えここにいる意味が無くなった。
だが、辺りは暗く歩くのは良くないと思った私は白いベンチに移動し座った。
「これからどうしよう」
ベンチに足を乗せ丸まる私は湖を眺めつつ時間を過ごした。
ーーーーーー
「リースさん」
ボンヤリと眺めていた私にジャックさんの声がした。
何故!と思い、振り返るとジャックさんのみでエリスの姿は無かった。
「どうして?」
「それはこっちの台詞ですよ」
「エリスに会ったのでは?」
「……」
無言になり下を俯きながら首を振るジャックさんを見て、そうかぁと思った。
待っていたが来なかったんだ、と。
「でもどうしてここから離れたんですか?」
約束の場所がここなのに離れた理由を問うと『もしかしたら迷っているのかと思い探し出した』と答える。
だが、結果は空振りでエリスは来なかったようだ。
「エリスに限って……」
約束を破るような人ではないと何度も呟くジャックさんの体はとても小さく見えた。
その様子はかなりの落ち込みで痛めた傷など忘れてしまうくらい深く…。
しばし無言のまま時が過ぎ、さわさわと風に当たると木々が騒ぐ。
「……帰ります」
「いいのですか?」
「これだけ待っても来ないなら、……もう」
意気消沈状態でジャックさんは湖を後にしていった。
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