上 下
9 / 35

第8話 ドラゴンは食べれない

しおりを挟む
「…わー」

「へー…」



大きな街だと聞いてはいたものの、想像以上に大きな街であったことに、田舎町の出身の私とハルトは街の様子に驚きと戸惑いを隠せずに、街の入り口の門を見上げながら感嘆の声をこぼす。



「フィン、ぼぉっとしていると置いて行きますよ。ハルトはそのままはぐれろ」

「まぁまぁ、二ヴェル。そう言わずに。2人とも、そんなに驚くほどか?」



私とハルトの様子に呆れたような表情を浮かべる二ヴェルに、ジャンが二ヴェルの肩を軽く叩きながら二ヴェルを諌める。



「こんなデカイ街初めて見た」

「ね…これ、何処まで続いてるの…?」



大きな門構えと、門の外側に立つ憲兵達、それに街の入り口から続く大きな道は終わりが見えない。

きょろ、と周りを見回す私に、ハルトが「なぁ、アレ」とこの道の少し先を指さしながら声をかける。



「フィン、アレ、美味いと思う?」

「え…っと…何あれ?」



ハルトが指さした先にあるのは、大きなこの通りの両サイドにある屋台の1つで、店先に置かれているのは、こんがりと美味しそうに焼かれたバナナ、のようにも見える。

答えの分からない私は、二ヴェルとジャンを見やれば、二ヴェルが「あぁ、アレですか?」と私達の疑問を受けて口を開く。



「アレはドラゴンの尻尾ですね」

「え、ドラゴン…?」

「えぇ。アレは結構美味しいですよ。高タンパクなのにローカロリーですし」

「オレもアレ好きだぞ!多分、あの店は皮もパリパリだな!」



二ヴェルの答えに戸惑っていれば、二ヴェルとジャンは食べたことがある上に結構好みな食べ物らしく2人から美味しかった、という感想が返ってくる。



「買ってきましょうか?」との二ヴェルの問いかけに、ジャンは「オレは食べたい」と今にも走っていきそうな顔をしながら答えているが、「え、待って、え?」と私の困惑した声に、2人の動きが止まる。



「どうした?フィン」

「どうかしました?」



ジャンと二ヴェルが不思議そうな顔をしながら私を見る。



「え、待って、ドラゴンって食べれるの?」



疑問符を飛ばしながら首を傾げた私に、二ヴェルとジャンがぱち、と瞬きを繰り返してから、なぜか2人揃って、私の頭をわしわしと撫でてくる。



「ちょ、何?何か言ってよ!」

「何ですかこの可愛い生き物」

「わかる。何だろうな。そりゃ、ハルトが大事にするのも分かる」



わしわし、と撫でる2人の手が若干重たくて、顔をあげられずに居れば、サク、という足音と共に見慣れた足元が視界に映る。



「フィンが可愛いのは生まれつきだ。っていうかお前ら、何やってんだ?」

「ハルト、あんた何処行って…って、あ!」

「あ?」



若干の不満そうなハルトの声と共に、何やら香ばしいイイ匂いがする、と思い視線をあげれば、ハルトの手には、先程から私達が話題にしているドラゴンの尻尾のコンガリとキツネ色の焼き目のついた串焼きが握られている。



「え、ハルト、オレ達のは?」

「無いけど」

「何で?!」



パッ、と頭が軽くなったと同時に、ジャンがハルトに突っ込みを入れている。



「食べたいなら買ってくればいいだろ。すぐソコなんだし」

「全員分買うとかしないのな…」



ガクッ、と肩を落としながら言うジャンに、「ふぁっれ」と串焼きを食べながらハルトが口を開く。



「旨いかどうかも分からないもの、全員分買えないだろ」



「まぁ、結果旨かったけど」ともぐもぐ、と順調に食べ進めていくハルトに、ジャンは「オレも買ってくる!」と言いながら屋台へと走っていく。



「フィンは?どうします?」



未だに私の頭に手を置いたままの二ヴェルが、屋台を指さしながら私に問いかける。



「…だってドラゴンでしょう…?ドラゴンって食べれないって……」



思ってたんだけど……と小さく呟いて首を傾げた私に、二ヴェルの口からクッ、と楽しそうな笑い声が漏れる。



「え、ちょっと、ニヴェル、何で笑ってるの?!」

「だって、っクッ、クク」



口元を手で隠しながらもニヴェルが笑い続ける理由が分からなくて、「ねぇ、ニヴェル」と名前を呼んだ時、「フィン」と一人で食べ続けていたハルトに名前を呼ばれ、振り返る。



「もしかして、コレ、本物のドラゴンだと思ってる?」



コレ、とハルトが指を指すのは、さっきから食べ続けている美味しそうな串焼き。



「え…?どういう事?…あれ?」



本物のドラゴン?言っている意味が…とさらに首を傾げた私は、ふと、あることに気がつく。

ドラゴンが食べられるものなのか、と問いかけた私に、ニヴェルとジャンは、何かを言いかけて止めて、もう一度問いかけた私に、ニヴェルは我慢出来ない、と静かに笑いだし、ハルトはハルトで串焼きを指さしながら「本物の」と言っている。



まさか、コレって。



「ドラゴンじゃないの?!」

「ぶはっ!」

「あ、吹いた」



驚きの声をあげた私に、ニヴェルはついに耐えきれなくなって吹き出し、そんな二ヴェルを見て、ハルトは相変わらずに串焼きを食べながら呟いた。




「フィン、まだ怒ってんの?」

「怒ってない」

「そうは言っても口が尖ってるけど」

「だって……ハルトもハルトでしょ!何で知ってたのよ!」

「俺?だって昔、町の祭りで流れの行商が売ってたの食べたし」

「えー…知らないし…」



自分も買ってくる、と屋台へ向かった二ヴェルと、未だ戻ってこないジャンを、ハルトと2人で待つ間も、なかなか気持ちが収まらなくて、口を尖らせていた私に、ハルトは笑いながら、私の頭を撫でる。



「今まで倒してきたのは、ホントの本物のドラゴンで、こっちはドラゴンって言う名前がついたデカイ鶏の肉。本物のドラゴンは、フィンが知ってる通り、食べれたものじゃないし。珍味好きなやつとか食べるみたいだけど」

「へぇ…」



言われてみれば、ドラゴン、という名の串焼き、いや、巨大な焼き鳥、になるのだろうか。

パリ、とした皮目と、ふっくらとしたキメの細かい肉質は、鶏肉の肉質によく似ている気がする。



「食う?」

「食べる」



ん、と差し出された串焼きに、そのままガブ、とかじりつけば、「美味いだろ?」とハルトがニッ、と楽しそうに笑う。



「あ」

「ん?」



ふと、町に居た時に、よく見た笑い方だ、と思った瞬間に思わず声がこぼれ、その声に気がついたハルトが軽く首を傾げて問いかける。



「な、んでもない」

「フィン?」



ドクン、と心臓が大きく動いた気がした。

ただ、久しぶりに、ハルトが本当に楽しそうに笑っている、と思っただけの筈が、心臓の音がやけに大きく聴こえる気がする。



「ハルト!フィン!ただいま!」

「フィンには、フルーツを…って、フィン?どうしました?」



ドラゴンの尻尾と、他にも幾つかのものを手に持ったジャンと二ヴェルの声に、2人を見れば、二ヴェルが、私を見て首を傾げる。



「え?」

「頬が…」

「頬?」



二ヴェルの言葉にピタ、と自分の頬に手をやれば、ほんの少し、熱い。



「な、んだろう?」



ちら、とハルトを見れば、買ってきたいくつかの食べ物をジャンとワイワイ言いながら取り合っていて、何となく、ホッ、と小さく息を吐く。



「…連れていけば良かった」

「二ヴェル?」



ぼそり、と聞こえた声に、二ヴェルへと視線を戻せば、「何でもありませんよ」と二ヴェルはにっこりと笑顔を浮かべるだけで、それ以上、頬の熱について触れてくることは無かった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら

夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。  それは極度の面食いということ。  そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。 「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ! だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」  朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい? 「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」  あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?  それをわたしにつける??  じょ、冗談ですよね──!?!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...