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第五章 黒幕

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『誰を偽ろうとも、あなた自身は真実を知っているのです。自分を貶めるのはおやめなさい』
 似たようなセリフを、ゲームでも言っていた。
 いじめからヒロインを助ける王女様、リースベット。
 彼女はヒロインの親友となり、学園生活をサポートしてくれるのだ。
 わたしがその役割を取っちゃってたので、未登場だったけど……。

「し、失礼しました、王女殿下」
 バタバタと学友たちが逃げていく。

「良家子息の学園で、あのようなことをするものがいるとは思いませんでした。教師には私から報告しましょう。政務があるので、毎日来れるわけではないけれど、私も目を光らせますから」
 そう言って、リースベットは私に微笑みかけた。
 優秀な彼女は学生ながら、エルネストと共に、現王の補佐をしている。
 賢く、控えめで、優しい。
 プレイヤー人気も抜群で、故にヒロインに選ばれなかった攻略キャラが、彼女と結ばれると言う内容のファンディスクが公式から発売されたほどだ。

 それから、リースベットは学園内で、わたしのことを気にかけてくれるようになった。本当にいい子だ。
 女王エンドには直接は関係ないが、きっとサクラにとっても、いい味方になってくれるんじゃないだろうか。
 わたしは颯爽と去る彼女の後ろ姿を見て、そんなふうに思った。

 寮のサクラの部屋。
 部屋にはわたしとサクラと、自室のようにベッドで寛ぐ亘。
 サクラが大きなため息をつく。
「お疲れみたいですね、サクラ様」
「馬車移動がなぁ。空飛んで行った方が楽なんだけど」
「一人で戦われると、おれたちの訓練にならないの」
 亘が呆れたように言う。
 各地の魔物退治は、対魔王戦の模擬訓練でもある。
 ゲーム的に言えば、経験値稼ぎ。
 サクラたちはここのところ、ずっと遠征続きだ。
 エルネストやヨエルの顔も、しばらく見てない。

「お疲れのところですが。もし明日、お時間があるようでしたら、友人を紹介したいのですけれど」
「えー……、行くけど」
「今度はどんなイケメンが出てくるやらwww」
 亘がからかうようにいう。
 いや、実際からかっているのだ。
「友人は女性ですわ。とってもいい子なんですの」
「ドロシーちゃんに女の子のお友達なんて珍しいね」
 わたしがサクラの正体を知っていることは、亘ももう知っている。
 そういえば、確かに。
 初の女子の友達ということになるのか。
 嬉しい。
 いや、まだ友達というほどの仲ではないか。
 リースベットがドロシーをどう思っているかわからないし。
 仲良くなれるといいんだけどな。

 翌日、寮の自室、応接間。
 サクラと亘、そしてリースベットを招待した。
「聖女サクラ様です。そしてこちらが、リースベット王女殿下です」
 サクラとリースベットが握手をする。
 その手を亘がガバッと握る。
「スッゲー美人!!俺たち前に会ったことない?これって運命?結婚してください!!!」
 ナンパするな。
「亘、失礼ですよ。貴族は幼少期に、婚約を済ませているのが普通です。リースベット様だって……」
 わたしが亘をリースベットから引き剥がす。
「わたくしは婚約はしておりません」
 亘が目を丸くする。
「いよっしゃあああ」
 ガッツポーズをする亘をリースベットが制し、
「するつもりもないのですよ。次の王が決まるまでは、お父様を支えなくては」
 そういえば、ゲームでも父王が溺愛のあまり、彼女を婚約させなかったんだったっけ。
「聖女サクラ様。微力ながら、わたくしもあなたのお役目を助けられるよう、尽力いたします。……この国を、よろしくお願いいたします」
 そう言って恭しくお辞儀した。


 次の日も、サクラたちは朝から魔物退治に行ってしまった。
「心配ですね」
「……はい」
 わたしの頭をリースベットが優しく撫でた。
「わたしも公務がありますので、これで。一人で大丈夫?ドロシー」
「ええ、もちろんですわ」
 ふと、思い立つ。
「あの、リーズベット様。わたくしに、お手伝いできることはございませんか?お役に立ちたいのです」
 戦い以外でも役に立てるなら、力を尽くしたい。
「ありがとう、ドロシー。では、聖女様とは直接関係ないのですけど、わたくしの仕事を手伝ってもらおうかしら」
 リースベットが快諾してくれた。
「二人の時は、リースでいいわ」
 そう言ってリースベットが微笑む。
 頑張ろう。
 わたしにできることを。

 それから、わたしはリースベットの仕事を手伝うことになった。
 文官がやるような、書類仕事が主だ。
 社会人時代を思い出す。

 休憩中。
 リースベットと二人でお茶を嗜む。
「とても助かるわ。あなたがこんなに優秀だとは、知らなかったわ」
 にっこりとリースベットが微笑む。
「お礼に、プレゼントをもらってくれるかしら?」
 髪飾りだった。
「わたくしとお揃いなのよ」
 嬉しい。お揃い。照れますなあ。
 リースベットがわたしの髪につけてくれる。

 黒い宝石のついた、髪飾りを。

「え?」

「サクラユウジ。男だから、推しを取られることはないと思って油断してたけど。まさか悪役令嬢を攻略して改心させちゃうなんて、思ってなかったわ」
 リースベットがニヤリと嗤う。

「おかえり、悪役令嬢ドロシー・アクヤーク」
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