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魔法大会
第二十話:四人パーティー
しおりを挟む海外旅行など行ったこともないが、古代ローマのような石造りの街並には見覚えがあった。
それもそのはず。
この場所は、3日前に来た場所だ。
あの時と違うのは、俺とサクヤ様の他に、親父と妹のアイがいることくらいか。
「おいおいおい、こりゃあどうなってんだ!?」
「お兄ちゃん達の話、マジなんだ……」
親父とアイは驚いた様子で、辺りを見回している。
サクヤ様を見ると、俯いて額に手を当てていた。
「サクヤ様、大丈夫ですか?」
声をかけると、サクヤ様は深い溜め息を吐いた。
「たった3日間、社を空けただけなのに、戦国の世を終わらせなきゃいけないなんて、バカにしてるわ……」
「あの人、戦国の世を終わらせるまでって、えらく簡単に言ってましたね」
「簡単に戦国の世を終わらせられる訳ないわ」
こっちの、本流世界は550年以上戦国の世が続いていると、サクヤ様は言っていた。
それを終わらせるって、かなりスケールのでかい話だ。
「さっきの……チルさんって人は、サクヤ様の妹さんですか?」
「コノハナノチルヒメ。私の妹よ」
「チル様か……。じゃあやっぱり、チル様も神様なんですね?」
「……ええ」
サクヤ様の妹なのだから、当然神様だろう。
そう思いながら聞いたが、サクヤ様の返答には、何か訳ありだと察するだけの間があった。
今はチル様のことは触れない方が良さそうだ。
「これからどうします? 親父達もいますけど」
そう聞くと、サクヤ様は掌を天に向けて、力を込めた。
次の瞬間、掌から炎が天に向かって上がり、すぐに消えた。
「これのお陰で神通力が使えるわ」
サクヤ様は、チル様から首にかけられた羽衣を持ってそう言い、続けた。
「だから、親父さん達には元の世界に帰ってもらうわ。あんたもね」
えっ、俺も!?
いやいや、ちょっと待て!
「俺も帰るんですか!? そしたら、禁忌はどうなるんですか!?」
「申し訳ないけど、禁忌は当分解除できそうにないわ」
そう言ってサクヤ様は、俺に向かって頭を下げた。
「ごめんなさい」
プライドが高い性格の女神が頭を下げている姿に、胸を打たれた。
元はと言えば俺が、異世界送りになった時にサクヤ様を引きずり込んだのが原因だ。
「俺は帰らないですよ。この一件が終わるまで、手伝わせてもらいます」
「ワシらも帰らねーぜ」
周りの景色を眺めるのに飽きた親父が、そう言って腕を組んだ。
「とびっきり面白そうじゃん!」
アイも親父と同じように腕を組む。
そんな俺たち家族を、サクヤ様は悲痛な表情で見る。
「あんたたち、分かってるの? この世界の戦国の世を終わらせるって、今までの過去の偉人が揃ってできなかったことなのよ! 私にできるかなんて分からないし、可能性なんてこれっぽっちもないかもれないんだから!」
そう言うサクヤ様に、親父は平然とした表情で言う。
「でもよ、サクヤ様はそれをやらなきゃいけねえんだろ? だったらやるしかねーじゃねえか」
親父の言葉に、アイが続ける。
「私も、こういう時の為に普段稽古して鍛えてるからね」
格闘家の親父に、弟子の妹。
二人は普段、稽古をして体を鍛え、武器の扱いを練習している。
きっと俺なんかより、役に立つだろう。
「危ないことだってするし、死ぬかもしれないのよ!?」
そう言うサクヤ様に、親父は首を横に振って、言った。
「偉業に挑戦するんだ。危ねえに決まってる。そんで、危ねえなら尚更だ。女神一人を放っておく訳にゃいかねえ」
神の数え方は、一人二人ではなく、一柱二柱だが、そんな事今はどうだっていい。
親父の言うとおり、戦国の世を終わらせるという偉業を目指すなら、危ないことも沢山あるだろう。だったら尚更、ここまで事情を知っておいて、サクヤ様一人を放っておくなんて、できるわけがない。
サクヤ様は深い溜め息を吐いた。
「いいわ、分かった。でも、危なくなったら私が元の世界に強制送還するから、それでいい?」
文句のつけどころのない応えだ。
俺たち家族は全員笑顔で「はい」と返事した。
その笑顔を見て、サクヤ様は後ろ向き、ボソッと言った。
「……ありがとう」
面と向かって礼を言えるほど、素直な性格ではないらしい。
その事に気付いた感受性の高いアイは、サクヤ様の背中を見て、笑った。
「サクヤ様はツンデレだね」
ちょっ、お前!
女神に向かってそういうこと言うんじゃねーよ!
「誰がツンデレよ!」
サクヤ様は振り向き直し、頬を赤くして反論した。
ツンデレの意味を知っているらしい。
おそらく、ツンデレの意味を知らない親父が、空気を読まず二人に割って入る。
「しかしよお、これからどうすんだ? 戦国の世を終わらせるっつったって、何から始めりゃいいのか……」
サクヤ様は気を取り直し、答えた。
「何をするにしても、まずはお金が要るわ」
金か……。
そういえば、初めにこの世界に来た時も、まず金の為にギターを売ったっけ。
今はギターもないし、金になりそうな物は誰も持っていない。
サクヤ様は続けた。
「一旦、元の世界に戻って考えた方がいいわね。こっちの世界のお金がないし、まずはこっちの世界のお金を手に入れる方法を考えましょ!」
あっ、そうか。
今はサクヤ様が神通力を使えるから、他世界間を行ったり来たりできるんだ。
だったら、元の世界に戻って、こっちの世界で金になりそうな物を持って来て、逆にこっちの世界の物を元の世界で売って、そういった他世界間貿易が可能なんじゃないだろうか?
ともかくして、俺たち一行は異世界に来て早々、元の世界に帰ることとなった。
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