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異なる歴史の二つの世界

第十六話:帰還

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 少年山賊の案内で、富士宮には昼過ぎに着いた。
 鳥居をくぐり、湧玉池という所で、俺達は足を止めた。

 少年山賊が馬上のサクヤ様を見上げる。

「着きましたけど、ここは見ての通り寂れてしまって何もありません。とりあえず平兼盛にでも習って、和歌でも詠みますか?」

 サクヤ様は驚いて少年山賊を見た。

「その歳でよく平兼盛なんて知ってるわね!」

 照れる少年山賊に、サクヤ様は続けた。

「だけど、そんな風流なことをする気分じゃないわ」

 そう言って、足を怪我しているにもかかわらず、サクヤ様は馬を飛び降りた。

「危ない!」

 俺は咄嗟に身を呈してサクヤ様を抱え込もうとしたが、サクヤ様はまるで重力がないかのように、ゆっくりと地上に降りてきた。
 いや、正確には地上に降りてはいない。
 サクヤ様の足をよく見ると、地面に着く寸前のところでふわふわと浮いていた。

「やっと、神通力が使えるわ」

 そう言って、手のひらを湧玉池に向けて、力を込めた。
 すると、湧玉池が一瞬光り輝いた。

「少年、名前は何て言うの?」

 サクヤ様にそう聞かれた少年山賊は、目線を湧玉池からサクヤ様に向けて答えた。

「はい。テツと言います」

「そう。テツ、今までありがとう。今日一日だけ、湧玉池の水をお酒に変えたから、汲んで売りなさい」

 テツは驚き、次に跪いた。

「卑しい亜人の私などに、勿体無いです!」

「やめなさい、そういう事を言うのは。決して、亜人は卑しくなんてない。人間の下でもないわ。今日はテツのお陰で本当に助かったんだから」

 テツは体を震わせた。
 よく見ると、涙を流している。

 俺はテツに近づき、手を差し出した。

「テツ、ありがとう」

 テツは俺の差し出した手を見つめ、首を傾げた。

「それは、何だ?」

 何だとは何だ。
 このタイミングで手を差し出したんだから、決まっているだろう。

「いや、握手だよ」

「あくしゅ?」

 涙を拭いながら、オウム返しのようにテツが言うと、サクヤ様は笑った。

「ユウキ、握手ってのはね、明治初期にイギリスから伝わった文化なのよ。こっちの世界の日本はイギリスとの交流がないから、握手なんて文化はないわ」

 そうだったのか……。
 なら、教えるまでだ。

「俺達の世界では、友好の証に手を握り合わせるんだ」

 そう言うと、テツは慌てて服で手を拭って、俺の手を握った。

 テツの手の温もりが伝わり、俺が笑うと、テツは笑い返した。

「それじゃあ、私たちは行くわね」

 サクヤ様はそう言って、全身に力を込めた。
 すると、俺とサクヤ様の体が少しずつ地面に吸い込まれていく。

 短い間だったけど、この世界にはずいぶん苦労させられた。
 思い返せば、嫌な思い出ばかりだ。
 だけど、最後にテツみたいな奴に会えて良かった。

「テツ、達者でな」

「兄ちゃんも、達者で!」

 そう言った後、テツはサクヤ様に向かって頭を下げた。

 その姿を見た次の瞬間、景色はブラックアウトし、俺は元の世界へ帰還したのだった。



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