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しおりを挟むアデライーデ達が魔法の研究や魔道具を作り出している「塔」に辿り着くと、そこにはルビード侯爵家が勢揃いしていた。とは言っても、セレスティナの兄二人は城のルビード侯爵家の部屋で待機中のため、ルビード侯爵とセレスティナだけだったが。
もちろんマルチェッロ公爵家の方も、兄と姉は王妃と王女と共に王城に用意されている部屋に向かった。
本来であれば精霊の儀で契約した精霊や幻獣は、見せびらかすものではない。ジュリアーノ王子の婚約者候補達の精霊や幻獣の存在を知るものも、王族を含む一部のものたちだけと徹底しているぐらいなのだ。
だから、この場には魔力量を測定する魔法師が1人と国王陛下、マルチェッロ公爵とアデライーデ、ルビード侯爵とセレスティナしかいない。
なのに、その場にはセレスティナに抱かれたグリフォンの幼体がいた。
鷲の頭に獅子の身体、だったっけ?
アデライーデも咄嗟にグリフォンがどんな姿で、属性が何だったか思い出そうとしたが、どうにも中途半端にしか思い出せず、眉間に皺を寄せてしまう。
そして、そんなアデライーデを見るセレスティナの口元が、一瞬、笑みの形に歪んだような気がした。気のせいだろうか。
彼女は何か勘違いをしているのかも、とアデライーデは思ったが、ここで何を言ってもしょうがない。だからアデライーデは、沈黙を選ぶ。
もちろんそんな2人の様子を見ている国王は、僅かに目を眇めただけだった。
『ほー、グリフォンか、この世界では中々珍しいんじゃねぇの?』
そうオセが呟く。
確かアデライーデの記憶では、幻獣との契約は元々かなり少ないのだ。確認されているだけでもペガサスやフェンリル、スレイプニル、カーバンクルくらい。後は数百年以上遡るとフェニックスやドラゴン、グリフォンの名も記録が残っているらしいが、どこまで本当かはアデライーデにも分からなかった。
だから、オセの言うようにグリフォンはとても珍しい。
アデライーデの腕の中にいるセルが、じいっとセレスティナを見つめていた。いや見つめているのはグリフォンの方だろうか。
そして、あちらのグリフォンもまた、セルを気にしているようではあるが、アデライーデは別の事を考えていた。
何せ2人の婚約者候補がペットのように幻獣と翼の生えた猫を抱えている。アデライーデが契約したのは時の大精霊だが、これではまるで腕の中のセルと契約したように見えないだろうかと。
だがグリフォンの視線が、セルからアデライーデの頭上の方へと移動している事に気づいてしまった。
『ちょっとアレ精霊が見えるとか言わないよね』
『いんやぁ見えてるんじゃねぇか』
『マジか! どうしようグリフォンがセレスティナと念話出来たらやばくない⁉』
『どうでしょうか』
『うーん、話しかけてみる?』
『ここは紫が行った方がいいっすかね』
今までだんまりを決め込んでいた3精霊たちまで念話に参加してきた。
『大丈夫じゃね? 見えてるようだけど、あの嬢ちゃんと念話する力はねぇみてぇだぜ』
『そんな事わかるの』
『んー、勘?』
『勘でもの言わないでくれる⁉』
セレスティナも無言だが、アデライーデも頭の中では煩くしていても、表向きには無表情でそこにいる。
まあ、それも仕方がない、何せセレスティナはアデライーデを敵視しているのだ。にこやかに挨拶を交わすような間柄でもないし、父同士も互いに会釈をするだけで、会話らしいものをする気もないようだった。
誰も何も喋らない。そして、独りポツンとそこにいる魔法師が、居心地が悪そうに身じろぎしていた。
何とも気の毒な事である。
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