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しおりを挟む『よーお、お前らなにか面白い話をしてんじゃねぇか、俺も混ぜてくれねぇか』
ふと聞こえた柄の悪い声に、アデライーデは眉根を寄せた。
『聞こえてるだろう、精霊の匂いをプンプンさせてやがるそこの女』
更に声が聞こえたが、アデライーデの眉間の皺もさらに深くなった。声だけなら、とてつもなくイケボだというのに、言葉遣いがチンピラなのだ。ここに居る3人(?)の精霊は、ノアが少々砕け気味だが、それでもこんなにチンピラ、チンピラした言葉は使わない。
『おーい、チンピラ、チンピラうるせーよ』
「いったい誰よ!」
どうやら普通に思考を呼んでくる相手に、アデライーデはつい反応してしまった。そんなアデライーデに驚いたのは精霊たちだ。
『なに? どうしたの?』
『アデライーデ?』
『いきなり大きな声出さないでよ』
精霊たちのこの反応で、彼らにはこの声が聞こえてないのだと分かる。
『お前らの事情なんてどうでもいいからよぉ、さっさと俺も呼べよ』
「はぁ?!」
『いいから呼べって。俺様の名前はオセ』
オセと、アデライーデの耳に届いたが、もっと違う名前にも聞こえた。
なんだろうとアデライーデは不思議に思う。
『ほーお、お前なかなか耳がいいな、まあ、取りあえずは名前を呼べ』
しかし声の主は、不思議そうな顔をするアデライーデなど気にも留めずに、名前を呼べと催促してきた。思わず唇を尖らせて不満を表してみたが、再び名前を呼べと軽く威圧を込めて言われる。
「……オセ」
仕方なく、アデライーデは名前を呼んだ。聞こえるか聞こえないかくらいの、とても小さな声で。
だと言うのに、アデライーデの身体から力が抜けた。なんだかとても身体が怠くて、ぺたりとその場に座り込んでしまう。
『大丈夫ですか、アデライーデ? いったい何がありました?』
そんなアデライーデに慌てて側に来たのは紫だった。
『ははっ、ご苦労』
オセと名乗った何かが、嘲るような、ちょっと嫌な笑い声をあげると、面前に幾つもの魔法陣が浮かび上がる。
『なんか力の塊がくる~』
『いやー、なんかいやー』
そして、こちら側ではノアとルーチェがパニックを起こしていた。たぶんアデライーデには分からない、何かを感じているんだろう。
幾つも展開されてた魔方陣は、やがて一つの大きな魔方陣へと変化していき、パチパチと紫電が走り始めた。かと思えば、ぬうっと何かが魔方陣を通り抜けてくる。
その場にいる全員が息をのんだ。
『なぁんか、ここーーー臭ぇなぁ。しかもなんだぁこれ。結界か? にしちゃー妙な気配がすんな』
ぶつぶつと文句を垂れながら現れたのは、やたらと大きな黒ヒョウ。ピルピルと動く三角の耳は、周囲を警戒しているのだろうか。そして金色の瞳は、まっすぐにアデライーデに向けられていた。
『おう、呼ばれたから来たぞ』
「え、呼んでないわよ、呼べって言ったのそっちでしょう!」
『アデライーデ、あなた何てものを』
『いや~悪魔じゃないの』
『うわ~、悪魔なんて初めて見たぜ』
勝手な事を言う黒ヒョウに、アデライーデが言い返していたら、精霊たちが黒ヒョウの正体を口にした。
は? 悪魔⁉
思わずアデライーデは大きな黒ヒョウをまじまじと見つめる。だが、ネコ科の動物の表情なんてアデライーデに分かるはずもない。
互いに見つめ合うこと数秒。
そしてカチャリと何かが閉まる音がしたーーー
ーーーーーーーーーー
72柱の一つ、巨大で優美な豹の姿で現れる悪魔。
人間を思う通りの姿に変えたり、人間に妄想や狂気を齎したり、すべての隠された物事や秘密を暴くことができる。
黒豹にしたのは、作者の好みです。
2022.3.01 一部修正しました
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