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 つい先日も個人資産の金額も教えて貰ったところ、ドレス1着分を作るくらいは問題なさそうな金額が既に貯まっていた。

 これならゴスロリ服を作っても大丈夫ではなかろうか。

 思わずアデライーデは、にんまりと笑ってしまった。

 取りあえずは甘ロリ服である。これはデザイナーを呼んで貰えばいい。となると母にまたデザイン画を見せなければならないだろうが、お茶会用のドレス1着を作るよりは断然安くできるはずだから、きっと大丈夫だろう。

 実を言えば、マルチェッロ家にはお抱えのお針子さんが数人いる。

 このお針子達の仕事は、お仕着せの修繕やリネン類、客室のカーテンなどの保全修繕、家人の着付けの際にレースがほつれたり、破れてしまったり、急激に体形が変わって急いで調整しなくてはならない時などに活躍する。時には父の臣下に渡す褒章品(ハンカチやクラバット、剣帯など)に刺繍を入れたり、ドレスに追加の刺繍を入れたりと、腕前は確かな人たちだ。

 ちなみにアデライーデの刺繍の先生は母になるが、このお針子たちのうちの一人が必ずサポートとしてついてくれる。だからアデライーデとしても、専属メイドのターニャに次いで、声を掛けやすい使用人でもあった。

 そしてお針子である彼女の協力を仰げれば、母もアデライーデのお願いを無下にしたりはしないだろう。

「マリッサ、お願いがあるの」

 お針子の一人であるマリッサを部屋に呼んだアデライーデは、笑顔を浮かべてそう言った。すると、マリッサも笑顔を見せてくれる。

「こんな洋服とヘッドドレスが欲しいの」

 まずは手始めに、甘ロリ風の絵をマリッサに見せた。

 ポイントは胸のすぐ下の位置で結ぶリボンと、二の腕にぴたりとフィットし、肘から先は百合の花のようにふわりと広がる袖だ。もちろん肘の部分にも胸のところと同じリボンを結ぶ。それとパニエの代わりにシフォンのような軽く薄い生地をフリル状にして何枚も重ね、肘から先の部分にも同じようにする。

 あとは服と同じ生地とリボンで作るヘッドドレスと単色ボレロ。ボレロにもフリルを付ける仕様だ。

 甘ロリ服の色は白またはできるだけ薄い色味の若草色がいい。そしてスカートの胸の切り替えし部分から裾にかけてグラデーションのように小花を散らしたい。もちろん裾に行くほど小花の数は増やす。小花は刺繍でもいいけれど、生地に直接絵を描くのでもいい。肘から先の部分も小花を散らしたら可愛いかも。

 ボレロの色は白い服にはモーブピンク。薄い若草色にはチョコレートとかマルーンみたいな濃い目の赤茶系。前を留めるボタンは必要なし。でも襟の合わせの所に少し大きめな薔薇をピンで留めたい。モーブピンクなら赤い薔薇を、赤茶系ならクリーム色の薔薇が綺麗だと思う。もちろん薔薇は生花なんて使うつもりはない。レース糸で編むのだ。

 拙い絵では表現しきれないところは、説明書きもつけた。少々、可愛らしい仕様ではあるが、まあ、甘ロリなので、そこはそういう仕様という事で。

「まあ、まあ、随分と可愛らしいお洋服でございますね」

 形としてはAラインのドレスに近いだろうか。けれどウエストで切り替える仕様ではなく胸の下あたりをリボンで絞るから、コルセットはつけない仕様だ。

 お茶会に着ていくドレス、というよりはネグリジェに近い形と思われるかもしれない。そんな事を考えるアデライーデは、それでもマリッサの反応に気を良くした。

「こういうお洋服ならお母様も気に入ってくれるかしら?」
「大丈夫だとマリッサは思いますよ。でもこういうお洋服であれば、デルファン様にご依頼された方がよろしいのでは?」

 デルファン様というのは、いつも屋敷にやってくるデザイナーの事だ。薄茶の髪に緑の瞳の、細身の割にやたらとパワフルな女性。

「マリッサにはね、ヘッドドレスを作って欲しいの。あとこの胸に着けるレースの薔薇」

 なぜならこのマリッサの得意なものはレース編みなのだ。淑女の嗜みにレース編みはないが、マリッサが得意だと知ってからは、アデライーデもたまにレース編みを教えて貰っている。

「まあ、あのレースの薔薇ですね」

 マリッサは細かな模様を編むのが好きで、レース編みのリボンを作ってくれたりしていた。だからアデライーデもレースで編む薔薇を作って見せた。するとマリッサはとても感動し、あっという間に大小様々な薔薇を作り出した。さすがレース編みが得意なメイドである。

 そして、そんなレース編みの薔薇は、マルチェッロ家のメイドたちにとても喜ばれた。小さな薔薇を幾つか縫い付けて髪飾りにしたり、大きめの薔薇なんかはブローチ替わりに私服に着けてみたりと、ちょっとしたおしゃれに使われている。もちろん母も姉もこのおしゃれ小物には目敏かった。

 特に刺繍糸で作るものだから、青い薔薇も緑色の薔薇も、金や銀の薔薇も作り出せるのが良かったらしい。母は帽子のワンポイントやショールを留めるブローチ代わりに大振りの金と銀の薔薇を、姉は扇子の房飾りに小さな青い薔薇を付けたり、様々な色で作った薔薇の髪飾りを着けるようになった。

 そうなると、やはりお茶会や社交界で話題になる。何せ筆頭公爵家のマルチェッロ家の夫人とご令嬢がつけているものだ。しかも金銀に青という生花の薔薇では表現できない色味となれば、話題にならないはずがない。お陰でまたまたアデライーデは、個人資産を増やす事に成功したのだから喜ばしい限りだった。

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 2022.03.01 一部修正しました。
 
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