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60.まずは陛下が

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 本来、貴族の特権というものは、自領を豊かにし、民を守り、国に忠誠を尽くすために与えられたものだったはずです。けれど、いつからか特権を振りかざすのが貴族だと、そうなってしまったようですわ。嘆かわしい事ですわね。

 もちろんそんな事ばかり考えている貴族ばかりでない事はわたくしも理解しております。

 けれど真っ当な方が少なくなってしまっているのも、また事実。

 わたくしは、そんな事を考えながらゆっくりと魔力を会場に広げていきます。

 索敵の魔法ですわ。

 これで人の心の内が分かるわけではありませんが、敵意があるかないかは分かってしまいますーー敵意があれば赤、なければ緑、警戒は黄色と言った具合ですわ。
 少々、負担はかかりますが精霊様たちも協力してくださるとの事でしたので、夜会の時間ぐらいは頑張ってみせますわよ。

「ここに集まっているペイジアの貴族たちよ、今宵はまず我が妃が懐妊したことを伝える」

 そうこうしているうちに陛下が話始めましたわ。まずは軽くジャブといったところでしょうか。

 陛下のお言葉に会場は一斉に沸きました。
 何せ新しい王族の誕生ですものね。それはこの国の貴族にとっても嬉しい事のはず。

「そして更に喜ばしい事に、我が息子たちの婚約者が正式に決まった。ジュリオ、アルフォンソ前へ」

 陛下に呼ばれてジュリオ殿下とエミナージェ様、それとアルフォンソ殿下とわたくしが一歩前に出ます。けれど向けられる視線は困惑を含んでおりますわね。まあ、気持ちは分からなくはないですわ。だって今まではわたくしがジュリオ殿下の婚約者として知られていたのですもの。

「皆も知っての通り、ジュリオの婚約者はアデリア嬢であったのだが、この度、双方から婚約の解消の申し出があった。そしてジュリオは兼ねてからの想い人であるエミナージェとの婚約を望み、またアデリアはアルフォンソに婚約を望まれた。幸いジュリオとアデリアは、まだ婚約式を執り行っていない。故にジュリオとアデリアの婚約の解消と、この両者の婚約を了承した次第である」

 平然とした表情でそう言い放った陛下は、さすがに一国の王なのだとわたくしは思いましたわ。

 だって、わたくしとジュリオ殿下との婚約を勧めたのは王家ですよ?
 なのに、双方からの婚約解消の申し出だなんて、面の皮が厚くないと言い出せませんよね?

 でも、この件に関してはわたくしも納得済みですし、ジュリオ殿下にはそれ相応の罰を与えられることになっておりますの。ですからアルフォンソ殿下の腕に手を添えて、王太子妃教育で培った笑顔を浮かべますわ。

 あら、あら、見事にわたくしに対する敵意があちらこちらに溢れましたわね。

 索敵魔法で見ている景色は、年若い女性を中心に色を変えているようですわ。
 第二王子殿下とは言っても、アルフォンソ殿下も人気がありますものね。

 それにしても随行員1名としましたのに、思いのほかご令嬢の姿が多いですわ。こういった夜会には、次期当主になる方たちを連れてくるのが常識だと思いましたけれど。

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