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47.暴露

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 アデライン様にもう少し頭がございましたら、この暴風にウィンドカッターを偲ばせる事もするのでしょうが、この魔力自体も感情の発露ですもの、そんな小技を混ぜ込む技量もないのでしょう。

 ただこの暴風のせいで、テーブルや置かれていた茶器などが割れ、破片が飛び交っておりますから、そちらの方が危険ですわね。

 もちろんアルフォンソ殿下も、ご令嬢二人に結界魔法を施しているようですわ。でもご自身もちゃんと護って頂かなくてはいけません。

「アルフォンソ殿下」
「大丈夫だよ、身体強化してるし、これ守護魔法もかかってるよね?」

 こんな場合だと言うのに、アルフォンソ殿下は急にわたくしの身体を引き寄せましたわ。それこそ抱きしめるかのように。

「殿下!」
「しぃ、黙って」
「アル! あなた何をしていますの?! あなたが抱きしめていいのは私だけですのよ! 他の女に現をぬかすなんて許しませんわ!」

 内心、えー、でございますわよ。

 アルフォンソ殿下の行動の意味も分かりませんし、逆上したアデライン様の言葉も意味は分かっても意味不明ですもの。

「このちんくしゃな女が王宮なんかに入り込んで! サリュースまで使ってジュリオ兄様も陥落させたのに、こんな女一人追い出すこともできないなんて皆さま使えませんわ!」
「な」
「やっぱりね」

 アデライン様の言葉にアルフォンソ殿下が低く呟きましたわ。たぶんそれはわたくしにしか聞こえなかったとは思いますけれど、わたくしの耳元でそんな声を出さないでくださいませんか、アルフォンソ殿下。

「いつまでくっついてるのよ! 離れなさいよ! アルは私の事が好きなの、好きになるのよ!」

 そうアデライン様が叫んだ瞬間、ぶわりと風の属性とは違う何かがわたくし達を目掛けて放たれたような気がしました。

 けれど。

『いや~!』
『気持ちわる~い!』
『こっち来るなぁ!』

 一斉に精霊様たちが反応いたしましたの。すると今度はなんでしょう。光の粒のようなものがアデライン様目掛けて飛び掛かって行きましたのよ。少し柔らかな表現にしても降りかかった、というか降り注いだ、というか光の粒がごしゃっと落ちたというか。

 たぶん、これは皆様の目に見えているのでしょうね。だって皆さまぽかんとしておりますもの。

 わたくしも少々、現実逃避をしたいですわ。

 なぜならわたくしに光の属性はございませんし、そのことはアルフォンソ殿下なら知っております。

 侍女のソフィアと護衛騎士のマーリンは、わたくしが精霊様が見えることも話せることも知っておりますけれど、アルフォンソ殿下にもジュリオ殿下にも、その事はお教えしておりませんのに。

 それに先ほどアルフォンソ殿下は、自分に守護魔法がかかっていると認識されておりましたわ。その上、この光の粒ですもの。

 いくら精霊様のお姿が見えないとはいえ、精霊様の仕業だと気が付かないはずもありませんわ。

 そろりとアルフォンソ殿下に視線を向ければ、皆さまと同じようにぽかんとしているようですが、しっかりとわたくしの方を見ておりました。

 やっぱり誤魔化せませんわよね。

 わたくしは心の中で深い、深いため息をつくしかありませんでしたわ。

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