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28.映像を確認いたします

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 映像は相変わらずのお二人を流し続けます。
 呆れてしまいますわね。
 もう5分程、お二人が乳繰りあ、いえ、ジュリオ殿下がサリュース様の髪にキスをしたり、頬にキスをしたりしておりますわ。もちろん彼女の身体を抱き寄せて、片手は必ずお胸の上な状態で。

「……アデリア嬢、もういい、こ」

『ねぇ、ジュリオ様、いったい何時になったら、あの伯爵家のご令嬢と婚約破棄なさいますの?』

 たぶんアルフォンソ殿下は、映像を止めろと言おうとしたのでしょうね。でも、サリュース様からとんでもない言葉が飛び出してしまいましたわ。

 思わず二人して黙って映像を見つめてしまいます。

『うむ、できるだけ早くとは思っているのだが、いかんせんあの女、母上のお気に入りでな、中々に難しい』
『そんなぁ、私ももう18ですのよ? そろそろ結婚しろとお父様も煩く言ってくるのです、でも私にはジュリオ様がいらっしゃいますし……』

 目を潤ませてそんな事を仰るサリュース様に、私は乾いた笑いを漏らしそうになりました。

 確かにジュリオ殿下に好意は持たれていない事くらい、わたくしも理解はしておりましたわよ? でも、あの女呼ばわりとは、ないと思いません?

『そんな! 私にはお前しかいないのに、ウィンダム侯爵にもそれとなく話をしたはずだぞ』

 まるで悲劇のヒーローのように、大げさにジュリオ殿下が嘆き、声を上げます。
 まるで演劇でも観ているような気分になるほど大袈裟ですわ。
 ジュリオ殿下はこんな方だったでしょうか。何となく違和感を感じてしまいますけれど、そもそもわたくしはジュリオ殿下の為人が理解できるほど、会話を交わしてもおりませんでしたわね。

『まあ、お父様にもお話しを? ではなぜお父様は愛し合っている私共を引き離そうとするのです』

 サリュース様もノリにノッておりますわね。

『そもそもあの女が悪いのだ。滑車だ化粧水だ菓子だと、母上や父上の機嫌を取って、そんなに王太子妃になりたいのか!』
『ジュリオ様』
『そうだ! こんな婚約は破棄するに限る。王族に媚びを売るやつなど今度の夜会で破棄してやろう!』
『まあ、嬉しいですわジュリオ様!』

 そしてお二人はひしっと抱きしめあい、またもやチュッチュと初めてしまいました。

 さすがにキスシーンまで見たくはありません。「受信・再生」の魔石に手を翳して、「停止」と呟きます。

 途端に映像は途切れ、部屋の中を静けさが支配致しました。

 たぶんソフィアが戻したのだと思いますが、いつの間にか元に戻っていた椅子にアルフォンソ殿下が腰を下ろし力なく項垂れておられます。

「…………申し訳、ない」

 暫くそのままの姿勢でいらっしゃったアルフォンソ殿下は、顔をお上げになりますと一言そう申しました。


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