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第一章
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しおりを挟むそれからイライアスは、再び店内へと戻ると屑石を選定する。
何せ陛下と王妃と弟妹に自分の分とパメラ嬢の分を作らなければいけないのだ。
もちろん日を改めて家族の分を作りに来てもいいのだろうが、一応、建前として家族への土産を物色しにきている。
さてどうしたものか、と思うイライアスだ。
全員分作るとなるとかなり面倒くさい。
この際、女性陣のものを優先し、男性陣は別の土産物を見繕うべきだろうか。
父や弟ならこんな小さな宝石の欠片よりも、食べ物や武器などの方が喜ぶだろうとイライアスも思うのだ。けれど母と色違いでお揃いのアクセサリーを持つことに父が拘りそうだな、と思わなくもない。
もういっそのこと石やパーツを購入して、後で作る方がパメラ嬢との時間も取れるだろう。
出来れば今日は、パメラ嬢とデートをしたという思い出が欲しいイライアスだ。
この場所で何時間も時間を潰すよりはレストランで食事をしたり景色の良い場所に連れて行って貰った方が有意義だろうし、家族の分は後回しにしてもかまわないだろう。
イライアスがそんな事を考え、ようやく結論に達した時だ。
不意に空気が歪む。
「イライアス様!」
イライアスの耳元に、自分につけられている影の声が聞こえた。
イライアスは咄嗟に自分の周りに遮音の魔法をかける。
イライアスの側にはパメラ嬢がいるが、彼女の意識は目の前にある石たちに向けられていて、たぶんイライアスが魔法を使った事には気が付いていないはずだ。
「どうした」
だが極力パメラ嬢に気が付かれないよう、極々小さな声で影に問う。
「通りで馬車が暴走し転倒、シンディーラ皇子が巻き込まれております。いかがいたしますか」
「……怪我は」
「ありません。しかし少々面倒な事態になっているようで」
影の言葉にイライアスは、ふうっと息をついた。
怪我がないのなら他国のことだ。
わざわざイライアスが首を突っ込む必要はないだろう。
そう思う。
そう思うのだが、影が声をかけてきた、という事は何某かイライアスが関わらざるを得ない事態だと判断したということだ。
ああ、せっかくのデートだというのに。
「ねえねえ、なんか通りで馬車が横転したみたいよ!」
人混みを避けるためか、興奮したように喋る客がカランカランと店の扉を開けて入って来た。
なんというタイミングだろう。
もしかしてうちの影なんじゃ、なんて思わなくもなかったが見知らぬ人間だった。
その客の言葉に、パメラ嬢がふと店のガラス越しに通りに視線を向け、現場に向かおうとしているのか幾人かの騎士の姿を捉えると、困ったように眉根を寄せる。
たぶんその騎士たちの中に近衛の騎士の姿を見つけてしまったんだろうーー彼らがいるということは、王族がいるということだから。
「イライアス様……」
「……うん、ちょっと見てくるよ。パメラ嬢は危ないからこの店から出ないようにね。あとミーシャはパメラ嬢についていて」
イライアスに影が付いている事は重々承知しているミーシャは、特に何も言わずに頷いた。
「30分しても戻らないようなら、申し訳ないけれどそのまま学園に戻るように」
続けて指示を出せば、パメラ嬢が不安そうな表情を浮かべる。
「心配しなくてもいいよ、たぶん平気だから。でももしかしたら直ぐに戻って来れないかもしれない。その時は」
「はい、分かっております、私の事はお気になさらず。ミーシャと一緒に学園に戻りますわ」
両手を胸の前で組みながら不安そうな表情のままそう言うパメラ嬢にイライアスは笑った。
「本当なら一緒に戻った方がいいのだけれどね」
「見に行かなくてはならない理由がございますのでしょう?」
さすがシンディーラ皇子の婚約者と友人付き合いをしているだけある。
パメラ嬢は不安だろうに、真剣な顔でそう言ったのだ。
そんな表情も可愛く思えたが、そんなことイライアスはおくびにも出さない。
だって彼女は真剣なのだ。
ここで可愛いと嗤ってはあまりにも失礼だろう。
「うん、申し訳ないね。今度また埋め合わせするから」
だからイライアスは、真面目腐った表情でそれだけ言うと店から現場へと向かって出て行ったのだった。
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お久しぶりの更新です。
カメの歩みで申し訳ない。
更新頻度も週1,2回を目指しますので、よろしくお願いします。
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