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9.サロンにはアリソン・オラール公爵令嬢がいらっしゃいました

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「さて、レオノーラ・エイムズ伯爵令嬢、一緒に生徒会室に行きましょうか」

 そんな事を考えていましたら、いつの間にかエルネスト王太子殿下に声をかけられました。それだけなのに、教室内でキャーという黄色い声があがります。まあ、気持ちは分かりますわ。何と言っても神秘的な銀髪にアメジストような紫色の瞳の王太子様ですもの。

「君も生徒会役員に指名されていたよね」

 そして、もう一人の王子様であるクストディオ王子殿下が、わたくしに手を差し伸べながら、そう仰いました。でも、少しだけ説明的ですわね。思わずくすりと笑ってしまいそうになりましたが、いけません。ここで笑ってしまったら失礼になってしまいますわ。

 ですから、わたくしは表情を引き締めまして、クストディオ王子殿下の手を取りました。そして小さな声で尋ねます。

「生徒会室に行くんですの?」
「ん? そう言っておいた方が安全でしょう?」

 なんて、やはり小さい声で答えてくださいました。そこで、わたくしは成程、と思いましたわ。

 うちはしがない伯爵家ですもの。いきなり隣国の王太子殿下や我が国の第三王子殿下に「王族専用サロンへ行こう」などと声をかけられたら、高位貴族のご令嬢方に目をつけられてしまいます。何せご令嬢の虐めって地味な割に陰湿ですのよ。集団で1人を口撃したり嫌味を言われるなんて序の口で、教科書を捨てられたり、ダンスの練習着を破られたり、いきなり従者の方に水をかけられたり。

 一つ一つはそれほど問題にされない範囲で、けれどわたくしのような然程裕福ではない貴族には、金銭的に地味に痛手を与えてくるのです。

 殿下はそんなことまで考えてくださったのですね。なんて優しい方なんでしょう。

 わたくしも一応、分類的には高位貴族となりますが、末端も末端ですから、避けられるトラブルは避けたいと思っておりますもの。

 そうして殿下方お二人と向かった王族専用サロンには、エルネスト王太子殿下の婚約者(?)であるらしい、アリソン・オラール公爵令嬢がお待ちになっていらっしゃいました。

 兄の婚約者であるアポロニア様は艶やかな黒髪に空の青を写し取ったかのような瞳を持つクールビューティな方ですが、アリソン様は赤味の強いストロベリーブロンドに、琥珀色の瞳をした可愛らしい方ですの。でもちょっと釣り目気味なせいで、気が強そう、怖そうと思われることが多いようです。

 でも実際は、ガーデンパーティでドレスを汚してしまったわたくしを、近くにいたアリソン様がフォローしてくださったので、とても優しい方だと、わたくしは思っておりますわ。

「あら、ようやくいらっしゃったのね」

 すっと手をあげて給仕に指示を出したアリソン様は、わたくしを見てにこやかな表情を浮かべてくださいました。

「いらっしゃるのは、わたくしの次席の方と聞いていたのだけれど、あなただったのね」
「はい、入試の成績がアリソン様の次に高かったそうで」

 エルネスト王太子殿下は、二人掛けのソファに座られていたアリソン様の隣りに当然のようにお座りになられ、わたくしとクストディオ殿下は、一人掛けのソファに腰を下ろします。

 するとすぐにアリソン様が使用していた茶器が下げられ、軽食の代わりでしょう、サンドウィッチやキッシュ、スコーンにマフィン、色鮮やかなプティフールが運ばれてきました。もちろん、それに合わせて全員分の紅茶も注がれます。

 ああ、さすが王族の方々が飲まれるものです。馥郁ふくいくたる香りが辺りに漂います。

 王子殿下方のサロンへ誘われた時には、少々面倒な事になったような気がしましたが、美味しい紅茶とデザートが楽しめるのであれば、これもまたいい経験だと思えました。


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