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1.わたくしの名前は、レオノーラ・エイムズ

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 わたくしの名前は、レオノーラ。

 エイムズ伯爵家の長女ですわ。

 今年で15歳になりました。

 兄のアラステア・エイムズはエイムズ伯爵家の嫡男で18歳、妹のエイヴリル・エイムズは次女で13歳になったばかり。

 どこにでもある歴史だけは古い、でも、貧乏ではないけれど裕福でもない、領地も可も不可もない、それがエイムズ伯爵家ですの。

 そんな我が家ではありますが、一つだけ問題を抱えております。それがわたくしの妹のエイヴリル。

 エイヴリルは、わたくしのものを何でも欲しがります。

 多分物心がついたころからだったと思いますわ。

 お誕生日に貰ったクマのぬいぐるみ。柔らかいブランケット。おばあ様から頂いたブレスレット。お兄様がお祭りの露店で買ってくださった玩具の指輪。色鉛筆、可愛らしい便箋と封筒、お気に入りのガラスペン。綺麗な琥珀色のインク壺。お茶会で可愛いと言われたドレス。靴。手袋。それはもう色々。

 金額の多寡に関わらず、わたくしが持っているものなら何でも欲しがりました。

 妹が小さい頃は、それでも我慢しました。可愛い妹ですもの。お母様だって、「お姉様の真似をしたいのね、きっと」と言っていましたから、大目にみていました。

 それに、欲しがる割には飽きっぽいあの子は、わたくしから奪ったものをすぐに忘れてしまいます。だから、わたくし付きのメイドが、こっそり取り返してくれたりするので、そのうち気にしなくなりました。それでも、そんな事を繰り返すうちに、扱いが酷くなったんです。破られたり壊されたり。さすがのわたくしも我慢が出来ずに収納機能のついたマジックポーチを購入しました。

 サイズ的には手鏡とハンカチ、蜜蝋の薄い色付きリップが入るくらいの小さなものです。でも、容量は一部屋分くらいあるのだそう。もちろん、魔道具であるマジックポーチは、いくら小さいとはいえそれなりのお値段がします。

 貴族の家の収入は、基本、領地から上がってくる税収ですから、あまり贅沢はできません。

 これで商売をされているお家や城勤めされている方がいらっしゃるお家であれば、領地収入の他に収入がありますから贅沢もできるのでしょうが、我が家はしがない伯爵家ですから質素倹約を心掛けておりますの。

 それでも貴族ですから、お茶会にご招待されることもしばしば。いくら質素倹約を心掛けているとはいえ、ドレスやそれに付随する小物などは家で用意していただけます。そのかわり、ちょっとした小物やーーそれこそ便箋やペン、インク、ノートなどーーお友達とランチを楽しんだり、ティータイムを過ごしたりする分は自分で支払うことになっています。

 それに、個人的にお呼ばれしたお茶会には手土産を持参しなくてなりませんし、いつも自分のお小遣いとにらめっこして予定を立てるのですわ。

 そんな状況のお財布事情ですから、それなりのお値段がするマジックポーチの購入には、半年ほど色々と我慢しました。

 何せ小さなものでも魔道具ですから金貨5枚もするんです。カバン型や背負い袋だと大きさによってもまちまちですが、金貨30枚から100枚するものもあるんですって。その代わり平民の家1件分だったり、貴族のお屋敷1件分の容量があるらしいです。でも、貴族のお屋敷なんて、大きなお屋敷も小さなお屋敷もありますから、いったいどれくらい入るのでしょうね? ちょっと気になるところです。

 ようやく手に入れたマジックポーチには、今のところ妹から取り返したものと、取られたくないと思っているものを収納しています。

 本当は、わたくしのものが全て収納できるのなら、全部収納してしまいたいのですけれど、部屋に何も置いていないというのもおかしいでしょう? これでマジックポーチに目をつけられでもしたら目も当てられません。

 でも、お値段の割にこのマジックポーチは可愛らしい要素はありませんし、使用者登録も出来るものなので、わたくしとわたくしのメイド以外は中身を取り出せないようにしてあります。ですから、たとえ妹に取られても安心と言えば安心なんですけれど。


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