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サリア・ハーマンは11歳になりました 1

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 私サリア・ハーマンは、11歳になりましたの。

 そしてようやく二度目のスキップ試験に合格いたしましたわ。

 これで春からは、中等部の一年生として通う事が出来ます。そしてまだ一つ学年が違ってしまっていますけれど、私の大好きなルディアス殿下とご一緒することができるのです。ようやく、ようやくですわ!

 もちろん初等部でも一年間だけご一緒しましたけれど。でもすぐに中等部に上がられてしまわれて、私寂しかったのです。

「サリア、ご機嫌だね」

 そう言ってルディアス殿下が笑っております。今日もまた王子妃教育が終わってからの、ルディアス殿下とのお茶会の最中ですもの。私の機嫌が悪くなることなんてあるはずがないのです。

「だって私、嬉しいんですの」
「ん?」
「あとひと月もしたら殿下と同じ中等部に通えるんですのよ? これが嬉しくなくてどうしますの?」

 私が胸を張ってそう言えば、ルディアス殿下はキラキラとした笑みを浮かべてくださいました。

 やっぱり王子様ですわ。その笑顔が素敵すぎて、私くらくらしてしまいそうです。

「ふふ、僕の笑顔でくらくらするの?」
「もちろんですわ、ルディ様の笑顔はとても素敵なのですよ? 初等部でもルディ様が素敵、という女の子はたくさんおりましたもの、きっと中等部でもルディ様の事をお好きな女の子がたくさんいるのに違いありません」

 少々、淑女としてははしたないのですけれど、ぷくりと頬を膨らませてみます。

 私はルディアス殿下の婚約者ではありますが、婚約者だからと甘んじている気はありませんのよ。ルディアス殿下のお隣に立てるのは、私だけとみなに認めて貰わないといけないのです。

「そんなに頑張らなくても大丈夫だよ、サリア。だってまだ11歳なのに、スキップ試験に合格しているんだから、もうみんなサリアの事を認めてると思うよ」

 あら、やはり先ほどから私は色々と口にしているようですわ。
 ルディアス殿下ったら、私の心の声にお声を返してくださるものだから、つい、そのまま会話を続けてしまいそうになりますの。

 もう少し、お口から言葉をポロリとしないようにしなくてはいけませんわ。

「それは少し残念かな。サリアがポロリと零すたびに、色々考えてくれているんだな、と思うし。それにスキップ試験に合格したのだって僕のため、なんでしょう?」

 コテリ、と首を傾げるルディアス殿下に、私は今、悲鳴を上げそうになりました。
 だって、だって。その仕草が凄くお可愛らしかったんですの!

 ルディアス殿下も14歳になりまして、ますます恰好良くなりましたのよ? 身長もぐんっと伸びて、私なんて隣に立つと見上げなくてはなりませんもの。
 それに剣のお稽古も頑張っていらっしゃるとお聞きしました。騎士様たちのいる練習場は、私には危ないからと見学することはルディアス殿下に許可されていませんの。でも、もし許可されましたら、恋愛小説にあるように、差し入れのクッキーを作って、冷やしたレモン水に少量の蜂蜜を溶かしたものと、あとそうです、汗を拭く布を持って見学に行きますわ。

 そして練習が終わったルディアス殿下に、それをお渡しするんですのよ。そうしたらルディアス殿下は、きっと喜んでくださって。

「確かにサリアからの差し入れなんて貰ったら嬉しすぎて、僕、どうにかなっちゃうかもね。でも、練習場は危ないから見学は許可しません。ねえ、サリア」
「はい」

 ルディアス殿下の青い瞳が、とろりとした何かを零されたような気がします。そんな瞳で見つめられてしまうと、私の胸はドキドキしてしまいますわ。

「鍛錬後でないとサリアの手作りクッキー、僕に食べさせてくれないの?」

 はうっ。

 私は思わず胸を押さえてしまいそうになりました。
 だって、それは、剣のお稽古の後でなくとも、私の手作りクッキーが食べたいと、そうおっしゃって下さっているようなもの。これが嬉しくないはずがないのです。

 でも私はまだ、料理長がこねたクッキー生地の型抜きだけしかさせていただけませんの。お嬢様が粉塗れになるのは、まずいとかいう理由で、ですのよ。

 それではいつまでたっても、手作りなんて難しいではないですか。私も11歳になりましたから、粉や砂糖を量ったり、卵を割ってみたりもしたいのです。それに、ルディアス殿下が食べたいとおっしゃってくれているのです! これは何はなくとも料理長に直談判しなくては。

「ふふ、直談判されるサリアのとこの料理長も大変だね」

 まあ、また漏れてしまいましたのね。けれど、いくら私がこうやって考えている事をぽろりと零してしまっても、ルディアス殿下は絶対怒ったりはしないのです。

 それどころか、私の考えている事の一部でも知れて嬉しい、だとか、僕がいるときだけだから、可愛くて仕方がないと、そうおっしゃるんですの。

「私、そんなにルディ様の前でポロポロ零してます?」
「うん、そうだね。僕がいるときは、結構、漏れているかな。でも、可愛いからいいんだよ?」

 ほら、また、可愛いとおっしゃる。
 私、恥ずかしくて、顔が赤くなってきてしまいます。

「ああ、真っ赤になっちゃって」

 そう言いながらルディアス殿下は、くすくすと笑われました。
 ルディアス殿下の笑みと共に、庭園の花々を優しく風が揺らします。

 さわり、さわりと揺れる花は、春の庭園に相応しい、ゼラニュームやヒヤシンス、フリージア、アザリア、クレマチス、鈴蘭、勿忘草わすれなぐさ

 庭園はそれなりに広さがありますから、私の知らない春の花もありますでしょう。

 私たちがお茶をしているガゼボを中心に、花々が円を描くよう配置された素敵な庭園は、王族を癒すためだけに造られた庭園もの。そこで大好きなルディアス殿下とお茶をできる喜びは、なんと表現したらいいのでしょうか。

 その上、ルディアス殿下は、私を可愛いと褒めてくださる。

 私の、こう考えている事の一部をぽろりと呟いてしまう癖は、お母様にはデビュタントまでには直した方がいいでしょうね、とついこの間も言われてしまいました。

 お母様も貧乏伯爵家の出であったために、位で変わってくるマナーや会話に苦労したそうなので、私の事を心配しての言葉だと分かっております。

 それにいらぬ軋轢あつれきをおこすような発言は、未来の王子妃として控えなくてはなりませんよ、とマナーの先生もそう仰っておりましたもの。

「ふーん、そうなんだ。僕の可愛いサリアに、余計なことを吹き込むマナー教師なんて、いらないかなぁ」

 ルディアス殿下が、ぼそぼそと何事かを呟きましたが、お声が小さすぎて私にはよく聞こえませんでした。

「ルディ様?」
「ん? 何でもないよ、それよりも春から中等部に通えるんでしょう? だったら毎朝、迎えに行こうか。また一緒に登校しようよ」

 何でもないとにっこりと笑ったルディアス殿下のお顔は、とても眩しくて私は思わず目を瞑ってしまいました。
 でも、ルディアス殿下から聞こえてきた言葉に、自分でもびっくりして瞑ったはずの目を再びカッと見開いてしまいます。

「うん、だって同じ学び舎でしょう?」

 そうなのです。

 学院には初等部、中等部、高等部とございますけれど、そこに通う貴族の子弟や平民の方たちの人数を考えると、とてもではないですが同じ出入り口では混雑がひどすぎて対処のしようがありません。

 何せ貴族の子弟は、馬車で通学して参りますから、どうしたって学院の出入口は混雑してしまいますの。それこそ、歩いて行った方が早いのでは、と思えるくらいに。

 今の国王陛下がまだ学生だった時分、自分のおうちの馬車がないーー所謂、家紋入りの、ということですわーー騎士爵の方や準男爵の方、平民の方は歩いて学院に入って行くのに、なぜ自分は延々とロータリーで待たされなければならないのかと憤慨されたそうでして、それからは各々に出入口が設けられる事になったそうなのです。

 けれど出入口が別々になったせいもあり、私がせっかくスキップして初等部に入学しても、中等部に通うルディアス殿下とご一緒することが出来なくて、それもまたスキップ試験に挑む原動力になりましたのよ。

「学年が違うから、ずっと一緒にはいられないけれど、行きと帰りくらいは一緒に過ごしたいと思うんだけど、ダメかな?」
「い、いいえ、いいえ! ダメなはずがありませんわ」
 私はついつい力強く応えを返してしまいます。


 そして私たちは二年ぶりに学院に一緒に通う事になりました。


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 サリアが中等部に進学します。

 ネタがおりて来たので、11歳編は3話ほど続ける予定です。
 もちろん話の内容は1話完結になっています。が、9歳編から読んでくださいると嬉しいです。
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