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5章 魔のモノが動く時

52 目的地に向かって

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 まだ魔獣討伐の旅が始まったばかりなので、こんな良い宿に泊まれたと思う。街から近い場所だし。
もちろんアリシア姫様やサラサさん、愛里などを野宿させたくはない。が、俺とジョーさんは正直こんな良い宿に俺も泊っていいのかと、戸惑っていた。
 「まあ……。旅は始まったばかりだしな」
「気にするな。良い寝床に寝られるうちは、寝ておくといい」
 ジョーさんに言われて、そうだなと思うことにした。

 早朝、晴れていい天気だ。 
アリシア姫様はさすがにドレス姿ではなく、動きやすい服に着替えていた。長いローブは落ち着いた青い色をしていて姫様に似合っていて上品だ。
 愛里は聖女らしく白いローブだけど、旅用なのか装飾は極力少なくして布が厚めで色々な防御魔法をローブに追加したらしい。
 サラサさんとジョーさんの服装は、騎士がつけるような短めの白と青のマントでカッコいい。普通の人の旅人服より上等な服だった。
 俺は、上質なシャツにズボン。その上に、青に白の線が入った長めのマント。なかなかカッコよくて気に入った。
 
  「カケル殿のマントに、色々な魔法をつけてさし上げあげます」
 ウインクして、俺に魔法をかけてくれた。ブワットと俺の周りに風が起こり、マントに吸収されていった。
 「総合的に能力が上昇しているはずです。これは半永久的に効果がありますので、ご安心ください」
 「え、凄い」
 少しの呪文を唱えただけで、半永久的に効果があるなんて。

 「マントに魔法陣を定着させて、魔力を巡回させるのですね! なるほど。すごいです、アリシア姫」
 愛里は見えているのか、姫様の魔法の原理をあっさりと解説した。姫様は驚いていたが、愛里に微笑んだ。
 「一瞬で見抜く、愛里様の方が凄いですわ」
 ただ……、と姫様は続けた。
「あまり魔法の種明かし的な事は、秘密ないしょでお願いしますね」
ふふ……と微笑みながら唇に、人差し指をあてていた。
 「あっ、そうですね! ごめんなさい。秘密ないしょにしますね」
まだ魔法は、俺達兄妹にとっては覚え始めたばかり。これから教えてもらっていかないといけない。

 「さて、出発するか」
ジョーさんが地図を確認して歩き出した。姿は見えないけれど、たぶん姫様の影達はこっそりとついて来るだろう。気配はしている。
 「はい」
 それぞれがジョーさんに返事をした。
 
 愛里は長い髪の毛を一つに、みつあみにしていた。アリシア姫様が愛里に話しかけていた。
 「その髪型も可愛いですね、愛里様」
褒められた愛里は嬉しそうに姫様に返事をした。
 「ありがとう御座います! あ、私の事は愛里と呼び捨てで呼んで下さい」
ね? と愛里はアリシア姫様に言った。アリシア姫様は薄っすらと頬を赤くして、にっこりと微笑んだ。
 「で、では。愛里……ちゃん?」
姫様は、なかなか親しい人が出来ても呼び捨てで呼びあう人などいないだろう。戸惑っているが嬉しそうだった。

 「愛里ちゃんか――、新鮮! そのうちで良いですから、呼び捨てでお願いしますね!」
 愛里はニコニコしながら姫様に言った。
 「あ、では私も皆さまに アリシア と呼んでもらえないでしょうか?」
姫を呼び捨て? う――ん。
 「じゃあ、アリー という愛称はどう?」
 呼び捨てはアリシア姫様の影達に怒られそうなので、愛称だったら呼びやすいしいいかな?
 「いいね、お兄ちゃん! どうかしら? アリー? って愛称!」

 「あ……。はい。嬉しい、です」
どうやらアリシア姫様は照れているようだった。可愛い。
 「決まりね! アリーって呼ぶね!」
 愛里が楽しそうに姫様を呼んだ。
「はい!」
 姫様も嬉しそうだ。

 俺達がほのぼのとしていたら森の中から白いもふもふ……じゃなかった、ソラが俺達に走り寄ってきた。
 「う、ワン!」
「ソラちゃん! 朝のお散歩は終わったかしら?」
サラサさんがソラを撫でながら話しかけた。基本、ソラは紐などで繋いでない。人が近づくと姿を消す。襲い掛からないし、どうやら俺たち以外は、姿を見せたくないらしい。賢い魔獣だ。

 あと、ひっそりとサラマンダーとウンディーネもついて来ている。姫様と愛里にはバレているみたいだけど特に何も言われてない。
 「ソラ、朝ごはんは?」
 俺がしゃがんで手のひらを差し出すとソラは寄ってきた。
「わふん!」
 ズッ……! と何かが抜ける様な感覚がする。魔力が抜ける感覚らしい。ソラの朝ごはんはこれで終了だ。
 「お腹いっぱいになったか?」
「ワン!」
 お腹がいっぱいになったらしい。良かった。

 「カケル殿は凄いな。ずいぶん魔力量を吸い取られたようだったが、平気なのですか?」
 サラサさんはびっくりしていた。確かにずいぶん吸い取られた気はするけど。
 「まあ。大丈夫です」
 
 俺が返事すると愛里が心配していた。
「お兄ちゃんの能力って、未知数……」
 そう言いながら愛里はソラを撫でた。……そうなのかな?
 
 
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