53 / 82
5章 魔のモノが動く時
52 目的地に向かって
しおりを挟むまだ魔獣討伐の旅が始まったばかりなので、こんな良い宿に泊まれたと思う。街から近い場所だし。
もちろんアリシア姫様やサラサさん、愛里などを野宿させたくはない。が、俺とジョーさんは正直こんな良い宿に俺も泊っていいのかと、戸惑っていた。
「まあ……。旅は始まったばかりだしな」
「気にするな。良い寝床に寝られるうちは、寝ておくといい」
ジョーさんに言われて、そうだなと思うことにした。
早朝、晴れていい天気だ。
アリシア姫様はさすがにドレス姿ではなく、動きやすい服に着替えていた。長いローブは落ち着いた青い色をしていて姫様に似合っていて上品だ。
愛里は聖女らしく白いローブだけど、旅用なのか装飾は極力少なくして布が厚めで色々な防御魔法をローブに追加したらしい。
サラサさんとジョーさんの服装は、騎士がつけるような短めの白と青のマントでカッコいい。普通の人の旅人服より上等な服だった。
俺は、上質なシャツにズボン。その上に、青に白の線が入った長めのマント。なかなかカッコよくて気に入った。
「カケル殿のマントに、色々な魔法をつけてさし上げあげます」
ウインクして、俺に魔法をかけてくれた。ブワットと俺の周りに風が起こり、マントに吸収されていった。
「総合的に能力が上昇しているはずです。これは半永久的に効果がありますので、ご安心ください」
「え、凄い」
少しの呪文を唱えただけで、半永久的に効果があるなんて。
「マントに魔法陣を定着させて、魔力を巡回させるのですね! なるほど。すごいです、アリシア姫」
愛里は見えているのか、姫様の魔法の原理をあっさりと解説した。姫様は驚いていたが、愛里に微笑んだ。
「一瞬で見抜く、愛里様の方が凄いですわ」
ただ……、と姫様は続けた。
「あまり魔法の種明かし的な事は、秘密でお願いしますね」
ふふ……と微笑みながら唇に、人差し指をあてていた。
「あっ、そうですね! ごめんなさい。秘密にしますね」
まだ魔法は、俺達兄妹にとっては覚え始めたばかり。これから教えてもらっていかないといけない。
「さて、出発するか」
ジョーさんが地図を確認して歩き出した。姿は見えないけれど、たぶん姫様の影達はこっそりとついて来るだろう。気配はしている。
「はい」
それぞれがジョーさんに返事をした。
愛里は長い髪の毛を一つに、みつあみにしていた。アリシア姫様が愛里に話しかけていた。
「その髪型も可愛いですね、愛里様」
褒められた愛里は嬉しそうに姫様に返事をした。
「ありがとう御座います! あ、私の事は愛里と呼び捨てで呼んで下さい」
ね? と愛里はアリシア姫様に言った。アリシア姫様は薄っすらと頬を赤くして、にっこりと微笑んだ。
「で、では。愛里……ちゃん?」
姫様は、なかなか親しい人が出来ても呼び捨てで呼びあう人などいないだろう。戸惑っているが嬉しそうだった。
「愛里ちゃんか――、新鮮! そのうちで良いですから、呼び捨てでお願いしますね!」
愛里はニコニコしながら姫様に言った。
「あ、では私も皆さまに アリシア と呼んでもらえないでしょうか?」
姫を呼び捨て? う――ん。
「じゃあ、アリー という愛称はどう?」
呼び捨てはアリシア姫様の影達に怒られそうなので、愛称だったら呼びやすいしいいかな?
「いいね、お兄ちゃん! どうかしら? アリー? って愛称!」
「あ……。はい。嬉しい、です」
どうやらアリシア姫様は照れているようだった。可愛い。
「決まりね! アリーって呼ぶね!」
愛里が楽しそうに姫様を呼んだ。
「はい!」
姫様も嬉しそうだ。
俺達がほのぼのとしていたら森の中から白いもふもふ……じゃなかった、ソラが俺達に走り寄ってきた。
「う、ワン!」
「ソラちゃん! 朝のお散歩は終わったかしら?」
サラサさんがソラを撫でながら話しかけた。基本、ソラは紐などで繋いでない。人が近づくと姿を消す。襲い掛からないし、どうやら俺たち以外は、姿を見せたくないらしい。賢い魔獣だ。
あと、ひっそりとサラマンダーとウンディーネもついて来ている。姫様と愛里にはバレているみたいだけど特に何も言われてない。
「ソラ、朝ごはんは?」
俺がしゃがんで手のひらを差し出すとソラは寄ってきた。
「わふん!」
ズッ……! と何かが抜ける様な感覚がする。魔力が抜ける感覚らしい。ソラの朝ごはんはこれで終了だ。
「お腹いっぱいになったか?」
「ワン!」
お腹がいっぱいになったらしい。良かった。
「カケル殿は凄いな。ずいぶん魔力量を吸い取られたようだったが、平気なのですか?」
サラサさんはびっくりしていた。確かにずいぶん吸い取られた気はするけど。
「まあ。大丈夫です」
俺が返事すると愛里が心配していた。
「お兄ちゃんの能力って、未知数……」
そう言いながら愛里はソラを撫でた。……そうなのかな?
41
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
異世界に転生したけど、頭打って記憶が・・・え?これってチート?
よっしぃ
ファンタジー
よう!俺の名はルドメロ・ララインサルって言うんだぜ!
こう見えて高名な冒険者・・・・・になりたいんだが、何故か何やっても俺様の思うようにはいかないんだ!
これもみんな小さい時に頭打って、記憶を無くしちまったからだぜ、きっと・・・・
どうやら俺は、転生?って言うので、神によって異世界に送られてきたらしいんだが、俺様にはその記憶がねえんだ。
周りの奴に聞くと、俺と一緒にやってきた連中もいるって話だし、スキルやらステータスたら、アイテムやら、色んなものをポイントと交換して、15の時にその、特別なポイントを取得し、冒険者として成功してるらしい。ポイントって何だ?
俺もあるのか?取得の仕方がわかんねえから、何にもないぜ?あ、そう言えば、消えないナイフとか持ってるが、あれがそうなのか?おい、記憶をなくす前の俺、何取得してたんだ?
それに、俺様いつの間にかペット(フェンリルとドラゴン)2匹がいるんだぜ!
よく分からんが何時の間にやら婚約者ができたんだよな・・・・
え?俺様チート持ちだって?チートって何だ?
@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@
話を進めるうちに、少し内容を変えさせて頂きました。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
チャリに乗ったデブスが勇者パーティの一員として召喚されましたが、捨てられました
鳴澤うた
ファンタジー
私、及川実里はざっくりと言うと、「勇者を助ける仲間の一人として異世界に呼ばれましたが、デブスが原因で捨てられて、しかも元の世界へ帰れません」な身の上になりました。
そこへ定食屋兼宿屋のウェスタンなおじさま拾っていただき、お手伝いをしながら帰れるその日を心待ちにして過ごしている日々です。
「国の危機を救ったら帰れる」というのですが、私を放りなげた勇者のやろー共は、なかなか討伐に行かないで城で遊んでいるようです。
ちょっと腰を据えてやつらと話し合う必要あるんじゃね?
という「誰が勇者だ?」的な物語。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる