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第一章: 明けない夜が明けるまで
第18話 第八層、赤の世界
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第八層。この層もまた、異界化していた。しかしそこは、これまで階層とはまた一風変わった空間。
――――そこは、血のような赤の世界。
空に浮かぶ月は赤黒く、荒廃した街並みを不気味に照らす。目に入るすべての景色が、地平線の彼方まで荒れ果てている。和を感じさせる木造住宅や、朱色の鳥居が象徴的な神社など、どこかに人がいたように思える建物は、見るも無残な姿に。屋根は崩れ落ち、内部は荒れ果て、その場所を守っていたであろう動物像は無惨に倒れ、顔には深い亀裂が走っていた。
もし地獄が存在するのならば、こんな場所なのかもしれない。
そして、この空間にも、七層と同じように禍々しい魔力が漂っている。それも、七層よりも濃く。
「昔の日本……? みたいだね……?」
「ああ、どこか日本っぽさがあるな。ただ、あの月……」
「なんだか、怖い……」
「ああ……」
人ひとり、動物の一匹もいない古い時代の住宅街。そんな場所にもかかわらず、誰もいない。それがもの悲しさを感じさせてくる。
「とりあえず、道に沿って進むしかない、かな?」
「いこうか」
「うん…………ごほっ、ごほっ……まずいね」
頷いた未来が、辛そうに咳込んでいる。【聖なる炎】を使いながら背中をさすると、少し顔色が良くなった。そのまま未来と俺をそれぞれ守るように、金炎の魔力を広げた。
「大丈夫か? 無理するなよ……?」
「ありがとう……マシになったよ。でもレオは何ともないの? これ、明らかに呪いの魔力だよ……? 魔力が奪われて、息苦しくなってる」
「ここもか……」
:呪い持ちの敵ばっかりになってきたな……
:八階層でこれなら、最深層とかどうなるんだよ
:怖いな……
:未来ちゃん大丈夫か?
:撤退してもいいんじゃないか? もう今日は一層進めたんだし
:万全の状態に回復してからでも遅くないよ
:実際この状態で戦うのは危なそう……
「なんでだろうな、同じスキルを使ってるんだから、未来にも同じ効果があるはずなのに」
「…………不思議だね」
どこまでも続く赤黒い世界。三十分ほど歩いても、魔物一匹現れない。空間の裂け目も見当たらず、かつては舗装されていたであろう、ボロボロな石畳の道を、二人で進む。周囲を警戒しながら歩き続けているが、その成果は芳しくない。
未来は何事もないように振る舞っているが、どこか体が硬いし、時々咳が出ている。この呪いの魔力以外にも、もしかしたら何か、俺に言えないようなものがあるのかもしれない。今日は明らかに不自然だ。
気になった俺は、配信に乗らないような声量で話しかけようとする。
「未来、その……、ッ――――――――!?」
しかしその瞬間、人型の何かが俺たちを襲い掛かってきた。
「■■■■■■■■■■■■ッ!」
「だぁ――――――!」
飛びついてきた魔物の攻撃を、なんとか受け止めながら脇腹を切り付ける。しかし、暗赤色に輝く筋骨隆々の肉体は、まるで鋼鉄でできているかのように硬質で、手ごたえがほとんどない。一撃が重く、十分な反撃をすることができないまま、距離を取られる。
鬼。
頭には大きな二本の角、顔には鋭い牙が見える。俺たちを射抜くように見つめる赤の瞳と、にらみ合う。その魔物は、背後に突然出現した巨大な黒い門扉を閉ざし、俺たちの前に立ちはだかっている。
――――進みたければ、俺を超えていけ。
まるで、そう言われているかのような目だ。おそらく、倒した先が次の層なのだろう。
:S級……【酒吞童子】……!
:ビッグネームすぎん!?
:鬼の大将、厳つすぎだろ……
:明らかにさっきのより強いぞ、これ。万全じゃない未来ちゃんで大丈夫なのか……?
:頑張れええええええええ!
:レオ、瞬殺してくれ!
体格こそ俺とそう変わらないが、筋力量は明らかに負けている。ぼろ負けだ。先ほど受け止めた一撃が、未だに俺の手を痺れさせている。
未来を一瞥すると、臨戦態勢ではあるが、顔色が悪く、呼吸が荒い。おそらく先ほど言っていた魔力を奪う呪いの影響だろう。すぐに片づけて、地上に引き上げなければ。
「調子はどうだ?」
「どんどん魔力がなくなっていってる……。体もどんどん重くなって……正面から戦うのはきついかも、魔法は大体大丈夫、かな……」
「わかった。出来る範囲で援護を頼む。無理は絶対するなよ? あんなやつ、俺一人でも余裕なんだからな!」
余裕を演出するため、格好つけて笑ってみる。身体能力は圧倒的に向こう、魔素量も1ランク向こうが優勢、魔力はギリこっちが勝ってるって感じか。
格上であるのは間違いないが、そんな状況、今までと同じだ。何なら、援護をもらえるってだけで、あるはずのない余裕すら感じられる。
「ごめん、私が大丈夫って言ったのに……」
「気にすんな、さっきの層は未来が全部やってくれたしな。むしろ俺の見せ場を用意してくれて感謝だよ」
心配する未来の不安を払うように、魔力を燃やす。【完全燃焼】を初っ端から起動し、全能感を呼び起こす。
「ハァッ――――――!」
「■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!!」
俺の魔力の高まりに呼応するように、【酒吞童子】が叫びながら迫ってくる。踏み込んだ足場が削り取られ、荒廃した地をさらに荒らし、拳と剣がぶつかった。
――――そこは、血のような赤の世界。
空に浮かぶ月は赤黒く、荒廃した街並みを不気味に照らす。目に入るすべての景色が、地平線の彼方まで荒れ果てている。和を感じさせる木造住宅や、朱色の鳥居が象徴的な神社など、どこかに人がいたように思える建物は、見るも無残な姿に。屋根は崩れ落ち、内部は荒れ果て、その場所を守っていたであろう動物像は無惨に倒れ、顔には深い亀裂が走っていた。
もし地獄が存在するのならば、こんな場所なのかもしれない。
そして、この空間にも、七層と同じように禍々しい魔力が漂っている。それも、七層よりも濃く。
「昔の日本……? みたいだね……?」
「ああ、どこか日本っぽさがあるな。ただ、あの月……」
「なんだか、怖い……」
「ああ……」
人ひとり、動物の一匹もいない古い時代の住宅街。そんな場所にもかかわらず、誰もいない。それがもの悲しさを感じさせてくる。
「とりあえず、道に沿って進むしかない、かな?」
「いこうか」
「うん…………ごほっ、ごほっ……まずいね」
頷いた未来が、辛そうに咳込んでいる。【聖なる炎】を使いながら背中をさすると、少し顔色が良くなった。そのまま未来と俺をそれぞれ守るように、金炎の魔力を広げた。
「大丈夫か? 無理するなよ……?」
「ありがとう……マシになったよ。でもレオは何ともないの? これ、明らかに呪いの魔力だよ……? 魔力が奪われて、息苦しくなってる」
「ここもか……」
:呪い持ちの敵ばっかりになってきたな……
:八階層でこれなら、最深層とかどうなるんだよ
:怖いな……
:未来ちゃん大丈夫か?
:撤退してもいいんじゃないか? もう今日は一層進めたんだし
:万全の状態に回復してからでも遅くないよ
:実際この状態で戦うのは危なそう……
「なんでだろうな、同じスキルを使ってるんだから、未来にも同じ効果があるはずなのに」
「…………不思議だね」
どこまでも続く赤黒い世界。三十分ほど歩いても、魔物一匹現れない。空間の裂け目も見当たらず、かつては舗装されていたであろう、ボロボロな石畳の道を、二人で進む。周囲を警戒しながら歩き続けているが、その成果は芳しくない。
未来は何事もないように振る舞っているが、どこか体が硬いし、時々咳が出ている。この呪いの魔力以外にも、もしかしたら何か、俺に言えないようなものがあるのかもしれない。今日は明らかに不自然だ。
気になった俺は、配信に乗らないような声量で話しかけようとする。
「未来、その……、ッ――――――――!?」
しかしその瞬間、人型の何かが俺たちを襲い掛かってきた。
「■■■■■■■■■■■■ッ!」
「だぁ――――――!」
飛びついてきた魔物の攻撃を、なんとか受け止めながら脇腹を切り付ける。しかし、暗赤色に輝く筋骨隆々の肉体は、まるで鋼鉄でできているかのように硬質で、手ごたえがほとんどない。一撃が重く、十分な反撃をすることができないまま、距離を取られる。
鬼。
頭には大きな二本の角、顔には鋭い牙が見える。俺たちを射抜くように見つめる赤の瞳と、にらみ合う。その魔物は、背後に突然出現した巨大な黒い門扉を閉ざし、俺たちの前に立ちはだかっている。
――――進みたければ、俺を超えていけ。
まるで、そう言われているかのような目だ。おそらく、倒した先が次の層なのだろう。
:S級……【酒吞童子】……!
:ビッグネームすぎん!?
:鬼の大将、厳つすぎだろ……
:明らかにさっきのより強いぞ、これ。万全じゃない未来ちゃんで大丈夫なのか……?
:頑張れええええええええ!
:レオ、瞬殺してくれ!
体格こそ俺とそう変わらないが、筋力量は明らかに負けている。ぼろ負けだ。先ほど受け止めた一撃が、未だに俺の手を痺れさせている。
未来を一瞥すると、臨戦態勢ではあるが、顔色が悪く、呼吸が荒い。おそらく先ほど言っていた魔力を奪う呪いの影響だろう。すぐに片づけて、地上に引き上げなければ。
「調子はどうだ?」
「どんどん魔力がなくなっていってる……。体もどんどん重くなって……正面から戦うのはきついかも、魔法は大体大丈夫、かな……」
「わかった。出来る範囲で援護を頼む。無理は絶対するなよ? あんなやつ、俺一人でも余裕なんだからな!」
余裕を演出するため、格好つけて笑ってみる。身体能力は圧倒的に向こう、魔素量も1ランク向こうが優勢、魔力はギリこっちが勝ってるって感じか。
格上であるのは間違いないが、そんな状況、今までと同じだ。何なら、援護をもらえるってだけで、あるはずのない余裕すら感じられる。
「ごめん、私が大丈夫って言ったのに……」
「気にすんな、さっきの層は未来が全部やってくれたしな。むしろ俺の見せ場を用意してくれて感謝だよ」
心配する未来の不安を払うように、魔力を燃やす。【完全燃焼】を初っ端から起動し、全能感を呼び起こす。
「ハァッ――――――!」
「■■■■■■■■■■■■ッ!!!!!!!」
俺の魔力の高まりに呼応するように、【酒吞童子】が叫びながら迫ってくる。踏み込んだ足場が削り取られ、荒廃した地をさらに荒らし、拳と剣がぶつかった。
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