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24 妹の宣戦布告
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コンサートが終わっても三人は雑誌のインタビューがあるらしく、まだ楽屋に戻れないようだった。
『宰田め、働かせすぎだ』と文句を言っていたけど、宰田さんいわくコンサートが終わった後のほうが三人のテンションが高い。
普段より話してくれるから、わざといれたと言っていた。
「千愛。楽屋で待っていて。終わったらすぐに行く」
「わかったわ。急がなくていいから、インタビュー頑張ってね」
「頑張ったら、また千愛のこと話すかもな」
「焼きもちやきはやめてね!」
唯冬は否定せず、笑っていた。
すぐにからかうんだから。
言われた通りに楽屋に向かうと通路で警備員の人と言い争いをしている声がきこえた。
誰だろうとのぞいてみると、警備員の体に遮られよく 見えなかったけど、女性のようだった。
「通しなさいよ!」
「ここからは関係者以外、立ち入りを禁止されています!」
警備員のガードにも負けず、ぐいぐいと強引に入ってくるその姿に呆れてしまった。
「虹亜、迷惑になるからやめて」
「なんなの、あの演奏は!」
「聴きに来ていたのね」
「そうよ。私、先輩達のファンなんだから当然よ!」
そういえば、虹亜は菱水音大附属高校の卒業生だったと思い出した。
「よくあんな演奏で先輩達と共演できたわね。どんな手を使ったのよ?」
確かにミスは何か所かしてしまった。
私の両親はコンクールのためにミスがない演奏を求めていたから、今日のような感情に任せた演奏だと叱られていただろう。
「なにがどんな手だ。俺が千愛と共演したかっただけだ」
「渋木先輩!」
「そうそう。唯冬の執念、粘り勝ちってやつ。千愛ちゃんを罠にはめて無理やり弾かせたようなもんだよ」
「怖いね」
唯冬の後ろから知久さんと逢生さんが現れた。
じろりと唯冬は二人をにらみつける。
「お姉ちゃんばっかり、いつもずるいのよ!両親だって、周りの人間だって、お姉ちゃんばかり見て私を誰も見てくれないんだから!」
「そんなことない……」
両親は私のことはただの厄介者としか思っていないし、虹亜が言ったように演奏はコンクールに出場できるようなレベルじゃない。
今日だって唯冬達がうまく合わせてくれたことが大きい。
「だいたいお姉ちゃんが結朱さんにかなうと思うの?あんな演奏をして」
「結朱は千愛の力を認めて潔く身を引いた」
「結朱さんが!?」
「人をあてにして、自分だけの力で千愛に挑戦しないんだな。もしかして勝つ自信がない?」
虹亜は言われたくないことを言われたとばかりにヒステリックにわめき散らした。
「そんなわけないでしょ!私はお姉ちゃんより認められているの!」
「なら、もっと余裕をみせたらどうだ」
虹亜は顔を赤くした。
「そうね。ここで私とお姉ちゃんがどっちが上かハッキリさせたほうがいいわよね。それなら、コンクールで勝負よ!」
「勝負!?」
「私、コンクールに出るって言ったでしょ?お姉ちゃんが棄権したあのコンクールよ。今のお姉ちゃんなら予選からだろうけど」
そう言う虹亜は本選からに違いない。
虹亜の演奏をまだ聴いたことないけれど、海外で学んできた虹亜にしたら、ブランクのある私に勝つ自信はあるのだろう。
「まあ、私のほうが名前も知られてるし、優位よね」
それは一方的な虹亜の宣戦布告だった。
「そんな―――」
困るわと言う前に虹亜は警備員に連れ出されてしまった。
「すごい妹だなー」
知久さん達は虹亜の勢いに去った後も唖然としていた。
私もあの激しさに圧倒されていたから、気持ちはわかる。
「楽屋に入ろう、目立ってるから」
唯冬の声にハッとして、周りを見るとスタッフの人達が何事かと集まってきつつあった。
これだけ騒いだから当然だけど。
視線をかわして楽屋に逃げ込むとすでに逢生さんがマイペースに差し入れのゼリーを食べていた。
「おいしいね。このフルーツゼリー」
「お前だけ、なにくつろいでるんだよ」
しかも二個目。
「さくらんぼのやつと桃の食べた」
「見ればわかる!」
「ずるっ!俺、さくらんぼのやつ食べたかった」
知久さんは逢生さんに食べられると思ってか、ぶどうのゼリーを手にした。
「千愛、差し入れ持ってきてくれたのか。ありがとう」
「差し入れのお礼の前に言うことがあるでしょ!?突然、舞台にあげるなんて、なんてことするの」
「逃げ道を断ったほうが覚悟できただろ?」
「荒療治すぎるわ……。弾けなかったらどうなっていたか……」
「大丈夫、大丈夫!お客さんは俺達が目的なんだから」
「余興だよ」
こっ、この二人。
私のトラウマともいえる演奏を余興扱いしてっ!
知久さんと逢生さんはタイを外して、ソファーに座ってゼリーを食べていた。
さっきまでの王子っぽさはゼロ。
今はただの悪ガキにしか見えない。
「でも、妹ちゃんはいいこと言ったね。コンクールに出れば?」
知久さんはピッと使い捨てスプーンを指揮棒のように私に向けた。
「コンクール!?それはさすがに無理よ!」
「恥をかいても出場したほうがいい」
逢生さんまで。
しかも、恥をかいてもなんてハッキリいってくれる。
煽っていくスタイルなの?
この人は。
「知久、逢生。説明もなく唐突すぎる」
唯冬が見かねて口を挟んだ。
「千愛はこの先、どうしたい?」
「どうするって……」
「ピアニストを目指すか、会社員として趣味でピアノを続けるか」
プロになるかどうかってことを今選ぶの―――!?
「んー、そうだねー。やるなら早い方がいい。一日でもね」
知久さんはカラになったぶどうゼリーの容器をゴミ箱に投げ入れた。
「俺は知久達が言うようにコンクールに出場したほうがいいと思っている。妹に勝てばこの先、千愛の両親はおとなしくなるだろうからな」
「唯冬の両親もね。結局、大人が欲しいのは肩書なんだよ」
さあ、選んでと逢生さんはタイミングよく私に封筒を渡す。
「これは?」
「菱水音大受験案内」
コンクールの次は受験!?
「な、なんで逢生さんがっ!?」
「逢生!俺の荷物から勝手に持っていくな!」
唯冬のかばんからちゃっかり封筒を抜いたらしい。
「戻っておいでよ。千愛ちゃん」
「君はこちら側の人間だよ」
唯冬が二人を手で制した。
「選ぶのは千愛だ。千愛の判断に任せる」
私の手に大学の入学案内を渡して唯冬は言った。
戻るかどうか―――それはもう決まっていた。
唯冬と演奏してから、私はずっと音が鳴り響いていたのだから。
この胸の中に。
『宰田め、働かせすぎだ』と文句を言っていたけど、宰田さんいわくコンサートが終わった後のほうが三人のテンションが高い。
普段より話してくれるから、わざといれたと言っていた。
「千愛。楽屋で待っていて。終わったらすぐに行く」
「わかったわ。急がなくていいから、インタビュー頑張ってね」
「頑張ったら、また千愛のこと話すかもな」
「焼きもちやきはやめてね!」
唯冬は否定せず、笑っていた。
すぐにからかうんだから。
言われた通りに楽屋に向かうと通路で警備員の人と言い争いをしている声がきこえた。
誰だろうとのぞいてみると、警備員の体に遮られよく 見えなかったけど、女性のようだった。
「通しなさいよ!」
「ここからは関係者以外、立ち入りを禁止されています!」
警備員のガードにも負けず、ぐいぐいと強引に入ってくるその姿に呆れてしまった。
「虹亜、迷惑になるからやめて」
「なんなの、あの演奏は!」
「聴きに来ていたのね」
「そうよ。私、先輩達のファンなんだから当然よ!」
そういえば、虹亜は菱水音大附属高校の卒業生だったと思い出した。
「よくあんな演奏で先輩達と共演できたわね。どんな手を使ったのよ?」
確かにミスは何か所かしてしまった。
私の両親はコンクールのためにミスがない演奏を求めていたから、今日のような感情に任せた演奏だと叱られていただろう。
「なにがどんな手だ。俺が千愛と共演したかっただけだ」
「渋木先輩!」
「そうそう。唯冬の執念、粘り勝ちってやつ。千愛ちゃんを罠にはめて無理やり弾かせたようなもんだよ」
「怖いね」
唯冬の後ろから知久さんと逢生さんが現れた。
じろりと唯冬は二人をにらみつける。
「お姉ちゃんばっかり、いつもずるいのよ!両親だって、周りの人間だって、お姉ちゃんばかり見て私を誰も見てくれないんだから!」
「そんなことない……」
両親は私のことはただの厄介者としか思っていないし、虹亜が言ったように演奏はコンクールに出場できるようなレベルじゃない。
今日だって唯冬達がうまく合わせてくれたことが大きい。
「だいたいお姉ちゃんが結朱さんにかなうと思うの?あんな演奏をして」
「結朱は千愛の力を認めて潔く身を引いた」
「結朱さんが!?」
「人をあてにして、自分だけの力で千愛に挑戦しないんだな。もしかして勝つ自信がない?」
虹亜は言われたくないことを言われたとばかりにヒステリックにわめき散らした。
「そんなわけないでしょ!私はお姉ちゃんより認められているの!」
「なら、もっと余裕をみせたらどうだ」
虹亜は顔を赤くした。
「そうね。ここで私とお姉ちゃんがどっちが上かハッキリさせたほうがいいわよね。それなら、コンクールで勝負よ!」
「勝負!?」
「私、コンクールに出るって言ったでしょ?お姉ちゃんが棄権したあのコンクールよ。今のお姉ちゃんなら予選からだろうけど」
そう言う虹亜は本選からに違いない。
虹亜の演奏をまだ聴いたことないけれど、海外で学んできた虹亜にしたら、ブランクのある私に勝つ自信はあるのだろう。
「まあ、私のほうが名前も知られてるし、優位よね」
それは一方的な虹亜の宣戦布告だった。
「そんな―――」
困るわと言う前に虹亜は警備員に連れ出されてしまった。
「すごい妹だなー」
知久さん達は虹亜の勢いに去った後も唖然としていた。
私もあの激しさに圧倒されていたから、気持ちはわかる。
「楽屋に入ろう、目立ってるから」
唯冬の声にハッとして、周りを見るとスタッフの人達が何事かと集まってきつつあった。
これだけ騒いだから当然だけど。
視線をかわして楽屋に逃げ込むとすでに逢生さんがマイペースに差し入れのゼリーを食べていた。
「おいしいね。このフルーツゼリー」
「お前だけ、なにくつろいでるんだよ」
しかも二個目。
「さくらんぼのやつと桃の食べた」
「見ればわかる!」
「ずるっ!俺、さくらんぼのやつ食べたかった」
知久さんは逢生さんに食べられると思ってか、ぶどうのゼリーを手にした。
「千愛、差し入れ持ってきてくれたのか。ありがとう」
「差し入れのお礼の前に言うことがあるでしょ!?突然、舞台にあげるなんて、なんてことするの」
「逃げ道を断ったほうが覚悟できただろ?」
「荒療治すぎるわ……。弾けなかったらどうなっていたか……」
「大丈夫、大丈夫!お客さんは俺達が目的なんだから」
「余興だよ」
こっ、この二人。
私のトラウマともいえる演奏を余興扱いしてっ!
知久さんと逢生さんはタイを外して、ソファーに座ってゼリーを食べていた。
さっきまでの王子っぽさはゼロ。
今はただの悪ガキにしか見えない。
「でも、妹ちゃんはいいこと言ったね。コンクールに出れば?」
知久さんはピッと使い捨てスプーンを指揮棒のように私に向けた。
「コンクール!?それはさすがに無理よ!」
「恥をかいても出場したほうがいい」
逢生さんまで。
しかも、恥をかいてもなんてハッキリいってくれる。
煽っていくスタイルなの?
この人は。
「知久、逢生。説明もなく唐突すぎる」
唯冬が見かねて口を挟んだ。
「千愛はこの先、どうしたい?」
「どうするって……」
「ピアニストを目指すか、会社員として趣味でピアノを続けるか」
プロになるかどうかってことを今選ぶの―――!?
「んー、そうだねー。やるなら早い方がいい。一日でもね」
知久さんはカラになったぶどうゼリーの容器をゴミ箱に投げ入れた。
「俺は知久達が言うようにコンクールに出場したほうがいいと思っている。妹に勝てばこの先、千愛の両親はおとなしくなるだろうからな」
「唯冬の両親もね。結局、大人が欲しいのは肩書なんだよ」
さあ、選んでと逢生さんはタイミングよく私に封筒を渡す。
「これは?」
「菱水音大受験案内」
コンクールの次は受験!?
「な、なんで逢生さんがっ!?」
「逢生!俺の荷物から勝手に持っていくな!」
唯冬のかばんからちゃっかり封筒を抜いたらしい。
「戻っておいでよ。千愛ちゃん」
「君はこちら側の人間だよ」
唯冬が二人を手で制した。
「選ぶのは千愛だ。千愛の判断に任せる」
私の手に大学の入学案内を渡して唯冬は言った。
戻るかどうか―――それはもう決まっていた。
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この胸の中に。
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