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22 部屋【貴仁】
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『貴仁。あなたのスマホを彼女に渡しておいたわよ。返すように頼んでおいたから』
あの女は本当にいい性格しているよな。
俺から大切なスマホを取り上げるとは、とんでもない奴だ!
悪魔か鬼だな。
新織に誤解されたくない。
いや、誤解じゃないんだ。
事実だから困っている。
「俺のスマホの中を見られたら終わりだ! スマホゲームやりこんでいるようなオタクだと思われてしまう!」
『オタクとは付き合えない、別れましょう』と言われてもしかたがないくらいのレベルまでやりこんでいる。
ライトユーザーならば、爽やかな笑顔で『ちょっと嗜んでるだけさ。ははっ』なんて言えるだろうが。
レベルカンストしてるからな(更新が待たれる)言い訳できそうにない。
「貴仁がゲームオタクなのは事実だろ」
晴葵がジンジャーエールとポテトチップスを飲み食いしながら、また人の部屋でアニメを観ている。
「黙れ。『魔法少女☆ルン』を待ち受けにしているお前に言われたくねえよ」
外見から想像できない濃いアニメオタクのくせに、俺にどうこう言う資格はない!
「あー、可哀想だなー。新織さん。貴仁に二股をかけられたと思ったかもなー」
「二股? 俺がか?」
「わっかんねーのかよっ! 元カノからスマホを渡されてみろよ。元カノからのあの人は私のものアピールだと思うに決まってるだろ!?」
「ふざけるな。誰があいつのものだ。そもそも、紀杏は元カノじゃない。社長に頼まれて世話をしていた被害者だ」
「紀杏って呼んでるじゃん」
「あいつが名前で呼べと強制したからだ」
「デートの遅刻も元カノと会っていたと思ってるだろーなー」
元カノではないと言っているのに、晴葵が追い打ちをかけてくる。
好きで遅刻したわけじゃない。
社長が泣いていて、なかなか俺を解放してくれなかっただけだ。
『娘の無事な顔を見るまでいてくれないか』
カー○ルおじさんから、涙ながらに言われたら無視できないだろう!?
その場には、紀杏の婚約者も駆けつけてきており、かなり焦燥していた。
怪我をした紀杏より、婚約者の方が精神的に参ってしまっていた。
婚約者は紀杏を大切に思っているし、紀杏は父親に似た人の良さそうな男を選んでいた。
結婚すれば、二人は落ち着き幸せになるだろう。
「元気出せよ、貴仁。俺が新織さんと付き合うことになってもお前のことは忘れない」
俺の幸せはどこへ行った?
「おい、あんまり調子に乗るな」
「うっわ! マジで怒るなよ!」
そうだ、晴葵を部屋から追い出そう。
今はこいつがいるだけで、クソ腹が立つ。
追い出すことを決め、晴葵に『出ていけ』と言いかけた瞬間、インターホンが鳴った。
「誰だ?」
時計を見ると夜八時。
いつものmamazonから、なにか届いたか?
そう思い、玄関まで行った。
だが、インターホンの画面に映るのは――
「新織!?」
『夜分遅くにすみません。部長にスマホを渡すのを忘れてしまって……」
「いや! こちらこそ、すまない!」
「新織さーん。やさしいねー!」
晴葵が俺の背後から顔を出す。
こ、こいつ!
新織にアピールか?
驚いた顔で新織は晴葵を見る。
「どうして葉山君が?」
「あー……これは……」
この時間に、晴葵がなぜここにいるか説明しなくてはいけない。
しかも、晴葵はルームウェアでくつろぎ中。
どこをどう見ても他人に見えない。
「新織。説明するから中に入ってくれ。今、鍵を開ける」
お前は帰れよと、じろりと晴葵をにらんだ。
だが、晴葵は知らん顔して帰る気はなさそうだ。
やって来た新織は遠慮がちにドアの前に立っていた。
「中へどうぞ」
「葉山君がいるのに、私なんかが部屋の中に入っていいんですか?」
「もちろん」
むしろ、晴葵を追い出したい。
「美味しい紅茶があるよー」
お湯を沸かすくらいはできるらしい晴葵がお湯をわかしていた。
お前がもてなすのかよ。
新織は戸惑いがちに部屋に入る。
「お邪魔します」
「新織さん、どの紅茶にする? ダージリン? アッサム? フレーバーティーならキャラメルとピーチ、アップルがあるけど」
「晴葵。仕切るな」
「な、名前呼び!?」
新織が動揺している。
そうだよな。
俺と晴葵が従兄弟同士だと会社の人間は誰も知らない。
「二人は同棲しているんですか?」
ん? 同棲?
なにかおかしい気がしたが、とりあえず俺は否定した。
「いや。マンションの隣人だ」
「ほとんど貴仁の部屋に俺はいるけどね」
「ほとんど!!」
新織が身を乗り出し、もっと詳しく知りたいという顔で俺を見る。
そんなに俺のことを知りたいのか……?
「貴仁は面倒見いいからさ。なにからなにまで助かってる」
「なにからなにまてとは、どこからどこまでですか?」
「晴葵は手がかかる。正直、邪魔なだけだ」
「そんなふうに言わないでください……」
新織は優しい。
だが、晴葵のことをそこまで気遣わなくてもいい。
「俺がお茶をいれる。そこのソファーに座って待っていてくれ。晴葵は自分の部屋へ戻れ」
「えー! 俺も新織さんと話したい!」
「出てけ。出て行かないと明日からのお前の食事は一切作らない」
「なんて卑怯な男だよ!」
晴葵は不満そうな顔をしたが、俺がじろりとにらむと、渋々出ていった。
「帰さなくても……。きっと一野瀬部長と一緒にいたいんですよ」
「あいつが一緒にいたいのは……」
俺じゃなく新織だと言いかけて、口をつぐんだ。
わざわざ言わなくてもいいことだ。
「二人の時は一野瀬部長じゃなく、名前jで呼ぶ約束だろ?」
「そ、そうでしたね。貴仁さん……」
恥ずかしそうに頬を赤く染め、俺の名前を呼ぶ新織。
俺の周りは、我の強いキャラばかりだからか、控えめな新織がとても可愛らしく思えた。
紅茶を入れ、冷蔵庫にあったガトーショコラを出して皿に並べる。
ソファーに座り、黙って座る新織の前に置いた。
「ありがとうございます」
テーブルの上には、俺のスマホが置いてある。
――見たか? 見てないか?
さあ、どっちだ、新織!
「すみません。紀杏さんからスマホを預かったのに、渡すのを忘れてしまって……。帰ってから気づいたんです」
「まさか自宅に帰ってから、またここまで戻って来たのか?」
「ないと不便かと思ったので」
不便といえば不便だ。
ログインボーナスがもらえない。
すでに数日、無駄にしてしまっている。
それを考えると憂鬱だ。
だが、それよりも気になるのは――
「俺のスマホの中をみたか?」
「いいえ」
ホッとした。
よかった!
俺がまだオタクだとバレていない。
「そうか。言い訳になるかもしれないが、この間の土曜、俺が遅れた理由なんだが――」
「あのっ! そんなことより!」
そんなことより?
俺は新織の顔を見た。
真剣そのものだ。
紀杏のことで、誤解がないよう説明しておこうと思っていたのだが、他に聞きたいことがあるらしい。
「葉山君と同じマンションで暮らしているんですか?」
「ああ」
確かに晴葵の説明が必要だ。
そっちのほうが先か。
「あいつは俺の従弟だ。両親の仕事の都合で、俺とあいつは母方の祖父の家にしばらく暮らしていた。だからまあ、従弟というより弟みたいなもかのかな」
「はあ……従弟……弟……」
ものすごくガッカリしたような顔をされたのは気のせいだろうか。
いや、きっと気のせいだ。
俺と晴葵が従兄弟同士と聞いて、新織がガッカリする理由が思い当たらない。
「それで、紀杏のことだが……」
「それはもういいです」
えっ!? いいのか?
思わず、俺は新織を二度見したが、紀杏に対して興味はなさそうだ。
俺を信じてくれているのか。
「では、一野瀬部長と葉山君の腕時計がおそろいだったのはどういうことですか?」
「祖父からのプレゼントだ」
「そうですか……」
新織はシュンッとした。
もしかして、俺とおそろいのアクセサリーが欲しいとか?
あり得る。
恋人なら、ペアアクセサリーだよな。
『ときラブ』でもペアリングでヒロインが喜ぶシーンがあった。
俺としたことが盲点だった。
なにか特別なアイテムを考えなくてはならない!
ただのアクセサリーとあなどることなかれ。
特別な服やアクセサリーを装備することによって、ステータス値が大きく変化するものだ。
ペアリングなら、お互いのハートが増えるだけでなく、最大MPも上がるに違いない。
――今、好みのジュエリーブランドを聞くのは、あからさますぎる。さりげなく、リサーチしなくては。
「わざわざ、届けてくれてありがとうな。お礼は改めてさせてもらう。もう遅いから家まで送るよ」
サッと新織は顔色を変えた。
「いえっ! それは結構です!」
「大丈夫。部屋まで入らないから」
俺はそこまでガツガツしてない男だ。
たぶん。
「そうですか。断捨離の途中で部屋の片付けが行き届いていないので……」
「断捨離に時間がかかるよな」
「はい。思い入れのあるものばかりで。捨てるに捨てられないんです」
俺も攻略後のゲームソフトを捨てられずにいるタイプだからな。
その気持ちは痛いほどわかる。
「じゃあ、行こうか」
ソファーから立ち上がった瞬間、新織がつまずいた。
「危ない!」
俺は庇って一緒に倒れてしまった。
「大丈夫か? 新織……」
「はい、すみません」
新織の柔らかな体が密着していて、これはヤバイ。
顔が近くにあり、俺は勢いにのって、このままキスをしようとしたが動きを止めた。
新織がこちらを見ていなかったからだ。
彼女の視線を追う。
その先には――『魔法少女☆ルン』初回限定版ファーストシーズンがずらりと並べられてあった。
そして、ご丁寧にもルンと他の魔法少女たちのフィギュアまで……
『これは晴葵のだ!』そう言い訳したところで新織は信じてくれるのだろうか――固まったまま、俺はしばらく動けなかった。
あの女は本当にいい性格しているよな。
俺から大切なスマホを取り上げるとは、とんでもない奴だ!
悪魔か鬼だな。
新織に誤解されたくない。
いや、誤解じゃないんだ。
事実だから困っている。
「俺のスマホの中を見られたら終わりだ! スマホゲームやりこんでいるようなオタクだと思われてしまう!」
『オタクとは付き合えない、別れましょう』と言われてもしかたがないくらいのレベルまでやりこんでいる。
ライトユーザーならば、爽やかな笑顔で『ちょっと嗜んでるだけさ。ははっ』なんて言えるだろうが。
レベルカンストしてるからな(更新が待たれる)言い訳できそうにない。
「貴仁がゲームオタクなのは事実だろ」
晴葵がジンジャーエールとポテトチップスを飲み食いしながら、また人の部屋でアニメを観ている。
「黙れ。『魔法少女☆ルン』を待ち受けにしているお前に言われたくねえよ」
外見から想像できない濃いアニメオタクのくせに、俺にどうこう言う資格はない!
「あー、可哀想だなー。新織さん。貴仁に二股をかけられたと思ったかもなー」
「二股? 俺がか?」
「わっかんねーのかよっ! 元カノからスマホを渡されてみろよ。元カノからのあの人は私のものアピールだと思うに決まってるだろ!?」
「ふざけるな。誰があいつのものだ。そもそも、紀杏は元カノじゃない。社長に頼まれて世話をしていた被害者だ」
「紀杏って呼んでるじゃん」
「あいつが名前で呼べと強制したからだ」
「デートの遅刻も元カノと会っていたと思ってるだろーなー」
元カノではないと言っているのに、晴葵が追い打ちをかけてくる。
好きで遅刻したわけじゃない。
社長が泣いていて、なかなか俺を解放してくれなかっただけだ。
『娘の無事な顔を見るまでいてくれないか』
カー○ルおじさんから、涙ながらに言われたら無視できないだろう!?
その場には、紀杏の婚約者も駆けつけてきており、かなり焦燥していた。
怪我をした紀杏より、婚約者の方が精神的に参ってしまっていた。
婚約者は紀杏を大切に思っているし、紀杏は父親に似た人の良さそうな男を選んでいた。
結婚すれば、二人は落ち着き幸せになるだろう。
「元気出せよ、貴仁。俺が新織さんと付き合うことになってもお前のことは忘れない」
俺の幸せはどこへ行った?
「おい、あんまり調子に乗るな」
「うっわ! マジで怒るなよ!」
そうだ、晴葵を部屋から追い出そう。
今はこいつがいるだけで、クソ腹が立つ。
追い出すことを決め、晴葵に『出ていけ』と言いかけた瞬間、インターホンが鳴った。
「誰だ?」
時計を見ると夜八時。
いつものmamazonから、なにか届いたか?
そう思い、玄関まで行った。
だが、インターホンの画面に映るのは――
「新織!?」
『夜分遅くにすみません。部長にスマホを渡すのを忘れてしまって……」
「いや! こちらこそ、すまない!」
「新織さーん。やさしいねー!」
晴葵が俺の背後から顔を出す。
こ、こいつ!
新織にアピールか?
驚いた顔で新織は晴葵を見る。
「どうして葉山君が?」
「あー……これは……」
この時間に、晴葵がなぜここにいるか説明しなくてはいけない。
しかも、晴葵はルームウェアでくつろぎ中。
どこをどう見ても他人に見えない。
「新織。説明するから中に入ってくれ。今、鍵を開ける」
お前は帰れよと、じろりと晴葵をにらんだ。
だが、晴葵は知らん顔して帰る気はなさそうだ。
やって来た新織は遠慮がちにドアの前に立っていた。
「中へどうぞ」
「葉山君がいるのに、私なんかが部屋の中に入っていいんですか?」
「もちろん」
むしろ、晴葵を追い出したい。
「美味しい紅茶があるよー」
お湯を沸かすくらいはできるらしい晴葵がお湯をわかしていた。
お前がもてなすのかよ。
新織は戸惑いがちに部屋に入る。
「お邪魔します」
「新織さん、どの紅茶にする? ダージリン? アッサム? フレーバーティーならキャラメルとピーチ、アップルがあるけど」
「晴葵。仕切るな」
「な、名前呼び!?」
新織が動揺している。
そうだよな。
俺と晴葵が従兄弟同士だと会社の人間は誰も知らない。
「二人は同棲しているんですか?」
ん? 同棲?
なにかおかしい気がしたが、とりあえず俺は否定した。
「いや。マンションの隣人だ」
「ほとんど貴仁の部屋に俺はいるけどね」
「ほとんど!!」
新織が身を乗り出し、もっと詳しく知りたいという顔で俺を見る。
そんなに俺のことを知りたいのか……?
「貴仁は面倒見いいからさ。なにからなにまで助かってる」
「なにからなにまてとは、どこからどこまでですか?」
「晴葵は手がかかる。正直、邪魔なだけだ」
「そんなふうに言わないでください……」
新織は優しい。
だが、晴葵のことをそこまで気遣わなくてもいい。
「俺がお茶をいれる。そこのソファーに座って待っていてくれ。晴葵は自分の部屋へ戻れ」
「えー! 俺も新織さんと話したい!」
「出てけ。出て行かないと明日からのお前の食事は一切作らない」
「なんて卑怯な男だよ!」
晴葵は不満そうな顔をしたが、俺がじろりとにらむと、渋々出ていった。
「帰さなくても……。きっと一野瀬部長と一緒にいたいんですよ」
「あいつが一緒にいたいのは……」
俺じゃなく新織だと言いかけて、口をつぐんだ。
わざわざ言わなくてもいいことだ。
「二人の時は一野瀬部長じゃなく、名前jで呼ぶ約束だろ?」
「そ、そうでしたね。貴仁さん……」
恥ずかしそうに頬を赤く染め、俺の名前を呼ぶ新織。
俺の周りは、我の強いキャラばかりだからか、控えめな新織がとても可愛らしく思えた。
紅茶を入れ、冷蔵庫にあったガトーショコラを出して皿に並べる。
ソファーに座り、黙って座る新織の前に置いた。
「ありがとうございます」
テーブルの上には、俺のスマホが置いてある。
――見たか? 見てないか?
さあ、どっちだ、新織!
「すみません。紀杏さんからスマホを預かったのに、渡すのを忘れてしまって……。帰ってから気づいたんです」
「まさか自宅に帰ってから、またここまで戻って来たのか?」
「ないと不便かと思ったので」
不便といえば不便だ。
ログインボーナスがもらえない。
すでに数日、無駄にしてしまっている。
それを考えると憂鬱だ。
だが、それよりも気になるのは――
「俺のスマホの中をみたか?」
「いいえ」
ホッとした。
よかった!
俺がまだオタクだとバレていない。
「そうか。言い訳になるかもしれないが、この間の土曜、俺が遅れた理由なんだが――」
「あのっ! そんなことより!」
そんなことより?
俺は新織の顔を見た。
真剣そのものだ。
紀杏のことで、誤解がないよう説明しておこうと思っていたのだが、他に聞きたいことがあるらしい。
「葉山君と同じマンションで暮らしているんですか?」
「ああ」
確かに晴葵の説明が必要だ。
そっちのほうが先か。
「あいつは俺の従弟だ。両親の仕事の都合で、俺とあいつは母方の祖父の家にしばらく暮らしていた。だからまあ、従弟というより弟みたいなもかのかな」
「はあ……従弟……弟……」
ものすごくガッカリしたような顔をされたのは気のせいだろうか。
いや、きっと気のせいだ。
俺と晴葵が従兄弟同士と聞いて、新織がガッカリする理由が思い当たらない。
「それで、紀杏のことだが……」
「それはもういいです」
えっ!? いいのか?
思わず、俺は新織を二度見したが、紀杏に対して興味はなさそうだ。
俺を信じてくれているのか。
「では、一野瀬部長と葉山君の腕時計がおそろいだったのはどういうことですか?」
「祖父からのプレゼントだ」
「そうですか……」
新織はシュンッとした。
もしかして、俺とおそろいのアクセサリーが欲しいとか?
あり得る。
恋人なら、ペアアクセサリーだよな。
『ときラブ』でもペアリングでヒロインが喜ぶシーンがあった。
俺としたことが盲点だった。
なにか特別なアイテムを考えなくてはならない!
ただのアクセサリーとあなどることなかれ。
特別な服やアクセサリーを装備することによって、ステータス値が大きく変化するものだ。
ペアリングなら、お互いのハートが増えるだけでなく、最大MPも上がるに違いない。
――今、好みのジュエリーブランドを聞くのは、あからさますぎる。さりげなく、リサーチしなくては。
「わざわざ、届けてくれてありがとうな。お礼は改めてさせてもらう。もう遅いから家まで送るよ」
サッと新織は顔色を変えた。
「いえっ! それは結構です!」
「大丈夫。部屋まで入らないから」
俺はそこまでガツガツしてない男だ。
たぶん。
「そうですか。断捨離の途中で部屋の片付けが行き届いていないので……」
「断捨離に時間がかかるよな」
「はい。思い入れのあるものばかりで。捨てるに捨てられないんです」
俺も攻略後のゲームソフトを捨てられずにいるタイプだからな。
その気持ちは痛いほどわかる。
「じゃあ、行こうか」
ソファーから立ち上がった瞬間、新織がつまずいた。
「危ない!」
俺は庇って一緒に倒れてしまった。
「大丈夫か? 新織……」
「はい、すみません」
新織の柔らかな体が密着していて、これはヤバイ。
顔が近くにあり、俺は勢いにのって、このままキスをしようとしたが動きを止めた。
新織がこちらを見ていなかったからだ。
彼女の視線を追う。
その先には――『魔法少女☆ルン』初回限定版ファーストシーズンがずらりと並べられてあった。
そして、ご丁寧にもルンと他の魔法少女たちのフィギュアまで……
『これは晴葵のだ!』そう言い訳したところで新織は信じてくれるのだろうか――固まったまま、俺はしばらく動けなかった。
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