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May

16 覚悟はできてる?※R-18

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やめろとは言わなかった。
唇をなぞる舌が私への答えだ。

「忠告はしたからな」

そう言って濡れた髪を手であげ、険しい目をさせた梶井さんはあの写真の中の子供の目と同じだった。
―――これでいいのだろうか。
考えている時間はない。

「うん……」

梶井さんのシャツをつかむ。
雨のせいで湿っぽい。
ぎしりとソファーが軋む音がして、絡み合うように倒れた。
キスはもう浅いキスじゃない。

「ふっ……」

望未みみ。舌を絡めろよ」

低くて挑発するような声。
重なる唇から、入り込む舌で口内をなぞられ、舌をからめとられる。
なぶるような舌の動きに体が熱くなった。
甘く唇を食む。
何度も。

「んっ……あ……」

キスは優しいのに冷たい手が服の隙間から滑り込み、私だけが感じさせられているのだと自覚させられてしまう。
巧みに体をなで、唇が首筋を這って、嫌だなんて言わせてはくれない。

「あ……か、じいさ……」

「まだ体に触れてるだけだぞ」

低い声、耳にかかる息に体がぞくりと震えた。
気づくと、いつの間にかワンピースが脱がされ、服はすでに体の下に敷かれていた。
梶井さんが女の人になれているのはわかる。
体をなでる手すら、私には耐えがたいくらいに甘く感じてしまう。
指が敏感な胸の突起を弾いた。

「……んっ」

意地悪く笑う声。

「お前は素直でいいな」

「え……あっ……」

胸の突起を湿った舌がゆっくりとなぞった。
歯が軽くたてられるたび、下腹部がじんっと痺れたようになり、体から力が抜ける。
それを繰り返され、たまらず、首を横に振った。

「んぅ……そ、れ、やぁ……」

「感じてるのに?」

「おかしくなっ……あっ……んんっ」

指が濡れた下腹部に触れ、太ももをなぞった。
指の感触が怖くて肩にしがみついた。
触れられたことのない場所へ指が入り込み、浅くなぞる。

「ん……んっ……」

怖いけど、嫌だとは言えなかった。
唇を噛み、異物感のある指の感触に耐えた。

「嫌ならやめてもいい」

首を横に振ると、梶井さんは指を巧みに動かして中をかき回した。

「ひっ……あ……あぁ……」

指が動かされるたび、波のような快楽が押し寄せてきて、目の前がちかちかと点滅する。
とろりと溶けた蜜孔へ指を増やしてくぷりと埋め込んだ瞬間、体がのけ反った。

「んっ―――」

「一度目な」

梶井さんは冷たく笑った。
こぼれた蜜をすくいとり、見せつけると、それを私の前で舐めてみせた。

「やっ……やめっ……」

挑発するような目。
私に『やめてください』と言わせようとしていることはわかっていた。
ぐっと言葉を飲み込んで、その憎らしい顔をした梶井さんに噛みつくようにキスをした。
それ以上、見せられたくなくて。

望未みみ。もっと深くキスしろよ」

こちらからのキスのはずが、角度を変え、深く何度も貪られ、息を乱されて、頭の中が。
完全に私は梶井さんに支配されてしまっていた。
ただ一方的に獣に喰われるだけの存在。

「ふっ……あ……」

快楽に流され、乱れる私を梶井さんは冷静な目で見おろしているのがわかる。
それなのに感じる体を止められず、指の動き一つに声を漏らし、喘いでいた。

「もういいか」

その言葉と同時に指がさらに増やされ、体に強い異物感と圧迫感を感じた。

「ひ、やっ……ぁっ」

反射的に逃げようとした体をソファーに押し付けて言った。

「望未。覚悟して男を誘ったなら、自分から逃げるなよ」

「わ、わかっ……てる……」

怖い―――梶井さんの闇は私が思うより深い。
孤独も、ずっと。
ここで逃げたら、梶井さんは二度と私を近寄らせてはくれない。
そんな気がして、息を吐き、梶井さんの肩に額をあてた。
それを了承したと受け取ったのか、梶井さんは脚の間に体を滑り込ませ、脚を開かせると指を深く中まで押し込める。

「んぅ……」

深くむさぼられるようなキスと下腹部に加えられる刺激が頭をおかしくさせて、自然に涙がこぼれた。
こぼれた私の涙をぬぐうこともなく、拒んだ指を奥へと推し進め、広げていく。
ゆっくりとなじませるように指は中をぐるりとかき回した。
指が一点にぶつかるたび、体が大きく跳ねた。

「な、に、これ……ど……して……」

戸惑う私になにも答えず、梶井さんはずっと同じ場所に指をあて、ゆるゆると繰り返しそこをなぶる。
まるで、獲物をじわじわと追い詰めるような愛撫。

「んぁ……んんっ……」

梶井さんののシャツをつかみ、快楽をこらえているのに容赦のない指の動きは体を感じさせ、思考する力を奪っていく。
徐々に甘い毒が体に満ちていくような感覚。

「ふっ……あっ……」

もういっそ、与えられる毒に溺れてしまえばいい。
このまま―――なにも考えずに。

「もっと声だせよ」

こんな梶井さんは初めてだった。
優しさなんてない。
そこにあるのはただ快楽だけ。
これじゃ、他の人と同じ―――ただその場だけのお互いの傷をなめあうような関係だった。
傷を持つ人間しか、梶井さんのそばにはいられない。
だから、私のこの恋は傷だらけになるのは最初から決まっていた。
傷がない人間を梶井さんは愛せない。
この恋によって、私はたくさん泣くだろうって思っていた。
激しいキスに答えるように泣きながら、その体にしがみついた。

「んっ……ぁ……」

体を揺さぶられ、指が感じる部分がぶつかって甘い声が漏れてしまう。

「あ……んっ……んぅ」

溶けたように熱い中を指が動き、体が震え―――怖いと思った。
それがわかるのか、梶井さんはわざと深くまで指をこめた。

「……っ、あっ……や、やぁっ……や、やあっ」

たまらず、体を逃がし、梶井さんの肩を噛んでしまった。
赤くなった歯の痕を梶井さんが冷えた目でみる。

「梶井さ……ん……私……ご、め」

「いい。なれてる」

私がつけた歯形を見て、梶井さんは笑った。
なれてるって―――ずしりとその言葉が私の胸に落ちた。
そんなこと言わないで。
梶井さんは私を抱いているのにまるで大勢いるうちの一人か、特別な人の身代りでしかないような口ぶりだった。
抱いている時くらい特別だって思って欲しかった。
覚悟してたはずなのに私はこみあげてくる涙をこらえず、泣きだしてしまった。

「わ……私……」

体の熱が冷えたのが梶井さんに伝わったのか、指が止まった。

「だから言っただろ。お前には無理だ」

首をなぞる唇が離れ、大きなため息を吐いた。

「最後まで抱かれる覚悟もないくせに男を誘うな」

梶井さんのあきれた声にまた涙がこぼれた。

「続きをするなら、目を閉じろ。やめるなら、自分で服を着て起きるんだな」

簡単な選択肢を梶井さんは私に与えた。
私が選んだのは―――後者だった。
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