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March
2 落とし物
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私が店内のフロアに戻ると梶井さんはいなかった。
穂風さんがレジをしてくれたらしい。
私を見て穂風さんが爽やかに微笑んだ。
「望未ちゃん。大丈夫だよ。私からも謝っておいたからね。ぜんぜん怒っていなかったから、そんなに落ち込まないで」
「すみません……」
ランチタイムが終わり、モップと雑巾を手にした。
オレンジジュースがとびちったテーブルや床、その周辺を掃除する。
空気を入れ換えるため、窓を開けると、ピンクや黄色のチューリップが春風に揺れていた。
この三月に私は菱水音大のピアノ科を卒業した。
今はバイトだけど、四月からはこのカフェ『音の葉』で本格的に働かせてもらえる。
音大を卒業したけど、ピアニストにはなれなかった私。
出場したコンクールは予選でことごとく敗退。
感情に振り回される正確性のないピアノだって先生に注意され続けてきた。
先生に言われたとおり、コンクールでもその悪い癖はでてしまった。
成績を残せなかったけど、それでもピアノを続けたくて、自分に合った就職先を探した。
ピアノが弾ける場所ならどこでもいい。
そう思っていた時、ちょうど家の近くにあるカフェ『音の葉』が募集をしているのを知り、すぐに申し込んだ。
ここだと店内にあるグランドピアノが弾けるし、ビルの上階でやっているピアノ教室の先生として雇ってもらうことができたから。
だから、がんばりたかったのに―――
「望未ちゃんは張り切りすぎて空回りしただけだよ」
穂風さんが優しすぎて泣きそうになった。
「今日は小百里さんがいない日で、フロアを望未ちゃんに任せっきりにしちゃっていたから。私の方こそごめんね」
「そんな!とんでもないです!」
「これ、おわび。掃除がすんだら休憩していいよ」
穂風さんはコトンとカウンター席にフルーツパフェを置いてくれた。
「パフェだー!」
「元気になったみたいだね」
穂風さんは笑いながら、キッチンに戻っていった。
「優しすぎるよ、穂風さん」
その優しさに泣きそうになる。
ファンクラブがあるのも納得だよ!
頑張ろうと気合いを入れ直し、モップを手にした。
床を掃除しているとモップの先にゴツッとなにかぶつかった感触がした。
テーブルの下を覗くとスマホが落ちているのが見えた。
潜り込んで、手にした瞬間スマホが鳴った。
「わっ!び、びっくりした……落とし主からかも」
ぴっと通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『新しい女性ですか』
いきなりなに?
これ、単刀直入すぎない?
「新しい?あの、スマホの持ち主ですか?今、床に落ちていたのを拾ったところなんです」
『にわかには信じられませんね』
どういう意味!?
スマホの通話画面を見ると名前は渡瀬と書いてある。
『梶井さんを電話口に出して欲しいと言ったところで無理でしょうね』
「ここに梶井さんはいません」
『そうですか。それもひとつの手でしょう。新しい彼女さん。私はマネージャーの渡瀬です。マネージャーから連絡があったということだけお伝えください』
つまり、私が梶井さんの彼女だと誤解されている!?
新しい女イコール私が嫉妬して電話口に出ることができないようにしていると思われているのだろうか。
って、このスマホは梶井さんのなの?
「私は梶井さんの新しい彼女じゃありません」
『なるほど。昔からの女でしたか。失礼しました。梶井さんの女性関係に口出すつもりはありません。忙しいのでこれにて失礼します』
「待ってください。本当に誤解で―――」
ブツッと一方的にきられてしまった。
「違います!」
叫んだけれど、私の声は届かない。
女性とのトラブルは梶井さんにとって日常茶飯事なのだろうか。
「マネージャーって言ってたよね」
しょんぼりしながら、掃除用具を片付けてカウンターの席に座った。
フルーツパフェが鎮座している。
メロンとリンゴ、パインにバナナ。
たっぷりのフルーツにヨーグルト風味のアイス。
さっぱりしていて美味しい。
「穂風さんの優しさが染み渡る……」
やわらかくなったアイスをスプーンで大きくすくった。
早く食べないと完全に溶けてしまう。
それにしても困った。
きっと梶井さんはジュースをかぶってジャケットを脱いだ時、スマホを落としてしまったのだろう。
つまり、私のせい。
「どうしたらいいのかな」
じぃーっとスマホを見つめる。
でも、どこに住んでいるかわからない。
そうだ。
知り合いの人に電話すればいいのでは?
そして、ここにスマホがあることを伝えてもらおう。
「そうしよう」
意を決してスマホを手にした。
そして、電話帳を開く。
梶井さんの電話帳はグループごとにわけられていた。
「なぜ、楽器ごとのグループ?」
ピアノ、バイオリン、チェロなど。
これはなんだろう。
私は試されているのだろうか。
この道は分かれ道。
そんな気がした。
「私ならピアノ。でも、梶井さんはチェリストだから、グループはチェロを選びます!」
ビシッと勢いよく画面をタップした。
「えーと、外国の人は無理だから」
深月逢生と名前が書いてある。
「男の人で同じ楽器……どこかでみたことある名前―――ってクラシック界のプリンス!?」
クラシック界のプリンスと呼ばれ、アイドル並みの人気を誇る三人組の一人だ。
梶井さんと彼らは菱水音大附属高校の先輩と後輩になる。
同じ楽器だし、仲がよくても不思議じゃない。
一応、私も菱水音大附属高校出身。
だけど、梶井さんや深月さんは格が違う。
コンクールでは当たり前みたいに本選にいつも残っていて、高校卒業と同時に海外の音楽院に留学してしまうような人達。
そして、深月さんは梶井さんと同じタイプのチェリストだと思う。
先輩と後輩ということもあって、二人は親しい間柄のはず。
切磋琢磨する素敵な関係を想像して連絡してみることにした。
きっと『久しぶりです!先輩!』なんて、爽やかな声が聞こえてくるんじゃないかな。
コール音を何回を鳴らした。
けれど、なかなか出てくれない。
「無理かな」
あと一回だけ。
そう思ってもう一度かけてみる。
何回目かのコール音の後、出てくれた。
『なに?』
う、うわぁ……不機嫌な声。
敵意丸出しとはこのことだ。
梶井さんはいったいどんな人間関係を築いているのだろう。
女の人との別れ話、マネージャーさんの冷たい態度―――そして、友好的な態度からはほど遠い後輩の声。
「えーと、すみません。私、梶井さんの落としたスマホを拾った者ですが……」
『捨てていいよ』
即決、即答だった。
捨てる!?
いやいやいや。
聞き間違いかな。
もう一度、話してみる。
「そんなわけには。仕事の電話もかかってきていましたし」
電話越しから、はぁっとため息をつく声が聞こえた。
なんだか、梶井さんってあんまり人望がないの?
渡瀬さんといい、深月さんといい、梶井さんにすっごく冷たいような気がするんだけど、私の気のせいなのかな。
『どこ?』
「カフェ音の葉です」
『わかった』
「よろしくお願いします」
『たぶん伝える』
ブツッと電話が切れた。
た、たぶん!?
私の憧れの人、梶井さんはどうしてこんな扱いなの?
梶井さんは悪い人じゃない―――ううん。
悪い人なのかな。
ファーストキスを奪われたことを思いだし、やっぱり悪い人のような気がした。
胸の前でうーんと腕を組むこと数分。
「少し待ってみよう」
フルーツパフェを食べ終えるとランチのメニューを片付けて、ディナーのメニューをテーブルに並べた。
夜は八時まで。
今日の日替わりはてんぷら盛り合わせと山菜蕎麦、いなりずしがついてくるセット。
洋食の方のセットはエビのグラタンとからあげにサラダ、ガーリックトーストのセット。
「私はお蕎麦かなぁ」
今日の気分は和食。
肌寒い三月の夜に暖かいお蕎麦はうれしい。
クローズ作業の後、賄いを食べて帰れるから、毎日の日替わりが楽しみだった。
スマホが鳴った。
パソコンのアドレスからメールが入る。
梶井さんからだった。
『明日とりにいくから、そのまま預かっておいて。ウサギちゃん』
短いメッセージ。
私は小学校時代のウサギと同等の扱いらしく、梶井さんは私にスマホを預けることになんの抵抗もなかった。
なんとなく、複雑な気持ちでそのメッセージを閉じた。
返事をしようかどうしようか、迷ったところでお客さんが入ってきた。
「もう開いてますか?」
「はい!どうぞ」
ディナーメニューの時間にはちょっと早かったけど、その人は最近よく店に顔を出すようになったお客さんだったから、少し待ってもらおうと席に案内した。
若いサラリーマンで、いつもゆっくりコーヒーを飲み、仕事の書類を眺める。
次に入ってきたのは近所に住む老夫婦。
「早く来てしまったかな」
「いいえ」
「望未ちゃんのピアノが聴きたくてね」
「そうそう。それが楽しみで早くきてしまうのよ」
優しいおじいちゃんとおばあちゃん。
私の演奏を楽しみにしてくれている。
ここで働けることになって、よかったと心から思えた。
カフェ『音の葉』は私にとって、そんな穏やかな時間が流れる場所だった。
これから先、私はこんな平和な時間を過ごしていくのだろう。
そう思っていた。
まだ恋を知らない私は―――
穂風さんがレジをしてくれたらしい。
私を見て穂風さんが爽やかに微笑んだ。
「望未ちゃん。大丈夫だよ。私からも謝っておいたからね。ぜんぜん怒っていなかったから、そんなに落ち込まないで」
「すみません……」
ランチタイムが終わり、モップと雑巾を手にした。
オレンジジュースがとびちったテーブルや床、その周辺を掃除する。
空気を入れ換えるため、窓を開けると、ピンクや黄色のチューリップが春風に揺れていた。
この三月に私は菱水音大のピアノ科を卒業した。
今はバイトだけど、四月からはこのカフェ『音の葉』で本格的に働かせてもらえる。
音大を卒業したけど、ピアニストにはなれなかった私。
出場したコンクールは予選でことごとく敗退。
感情に振り回される正確性のないピアノだって先生に注意され続けてきた。
先生に言われたとおり、コンクールでもその悪い癖はでてしまった。
成績を残せなかったけど、それでもピアノを続けたくて、自分に合った就職先を探した。
ピアノが弾ける場所ならどこでもいい。
そう思っていた時、ちょうど家の近くにあるカフェ『音の葉』が募集をしているのを知り、すぐに申し込んだ。
ここだと店内にあるグランドピアノが弾けるし、ビルの上階でやっているピアノ教室の先生として雇ってもらうことができたから。
だから、がんばりたかったのに―――
「望未ちゃんは張り切りすぎて空回りしただけだよ」
穂風さんが優しすぎて泣きそうになった。
「今日は小百里さんがいない日で、フロアを望未ちゃんに任せっきりにしちゃっていたから。私の方こそごめんね」
「そんな!とんでもないです!」
「これ、おわび。掃除がすんだら休憩していいよ」
穂風さんはコトンとカウンター席にフルーツパフェを置いてくれた。
「パフェだー!」
「元気になったみたいだね」
穂風さんは笑いながら、キッチンに戻っていった。
「優しすぎるよ、穂風さん」
その優しさに泣きそうになる。
ファンクラブがあるのも納得だよ!
頑張ろうと気合いを入れ直し、モップを手にした。
床を掃除しているとモップの先にゴツッとなにかぶつかった感触がした。
テーブルの下を覗くとスマホが落ちているのが見えた。
潜り込んで、手にした瞬間スマホが鳴った。
「わっ!び、びっくりした……落とし主からかも」
ぴっと通話ボタンを押した。
「もしもし?」
『新しい女性ですか』
いきなりなに?
これ、単刀直入すぎない?
「新しい?あの、スマホの持ち主ですか?今、床に落ちていたのを拾ったところなんです」
『にわかには信じられませんね』
どういう意味!?
スマホの通話画面を見ると名前は渡瀬と書いてある。
『梶井さんを電話口に出して欲しいと言ったところで無理でしょうね』
「ここに梶井さんはいません」
『そうですか。それもひとつの手でしょう。新しい彼女さん。私はマネージャーの渡瀬です。マネージャーから連絡があったということだけお伝えください』
つまり、私が梶井さんの彼女だと誤解されている!?
新しい女イコール私が嫉妬して電話口に出ることができないようにしていると思われているのだろうか。
って、このスマホは梶井さんのなの?
「私は梶井さんの新しい彼女じゃありません」
『なるほど。昔からの女でしたか。失礼しました。梶井さんの女性関係に口出すつもりはありません。忙しいのでこれにて失礼します』
「待ってください。本当に誤解で―――」
ブツッと一方的にきられてしまった。
「違います!」
叫んだけれど、私の声は届かない。
女性とのトラブルは梶井さんにとって日常茶飯事なのだろうか。
「マネージャーって言ってたよね」
しょんぼりしながら、掃除用具を片付けてカウンターの席に座った。
フルーツパフェが鎮座している。
メロンとリンゴ、パインにバナナ。
たっぷりのフルーツにヨーグルト風味のアイス。
さっぱりしていて美味しい。
「穂風さんの優しさが染み渡る……」
やわらかくなったアイスをスプーンで大きくすくった。
早く食べないと完全に溶けてしまう。
それにしても困った。
きっと梶井さんはジュースをかぶってジャケットを脱いだ時、スマホを落としてしまったのだろう。
つまり、私のせい。
「どうしたらいいのかな」
じぃーっとスマホを見つめる。
でも、どこに住んでいるかわからない。
そうだ。
知り合いの人に電話すればいいのでは?
そして、ここにスマホがあることを伝えてもらおう。
「そうしよう」
意を決してスマホを手にした。
そして、電話帳を開く。
梶井さんの電話帳はグループごとにわけられていた。
「なぜ、楽器ごとのグループ?」
ピアノ、バイオリン、チェロなど。
これはなんだろう。
私は試されているのだろうか。
この道は分かれ道。
そんな気がした。
「私ならピアノ。でも、梶井さんはチェリストだから、グループはチェロを選びます!」
ビシッと勢いよく画面をタップした。
「えーと、外国の人は無理だから」
深月逢生と名前が書いてある。
「男の人で同じ楽器……どこかでみたことある名前―――ってクラシック界のプリンス!?」
クラシック界のプリンスと呼ばれ、アイドル並みの人気を誇る三人組の一人だ。
梶井さんと彼らは菱水音大附属高校の先輩と後輩になる。
同じ楽器だし、仲がよくても不思議じゃない。
一応、私も菱水音大附属高校出身。
だけど、梶井さんや深月さんは格が違う。
コンクールでは当たり前みたいに本選にいつも残っていて、高校卒業と同時に海外の音楽院に留学してしまうような人達。
そして、深月さんは梶井さんと同じタイプのチェリストだと思う。
先輩と後輩ということもあって、二人は親しい間柄のはず。
切磋琢磨する素敵な関係を想像して連絡してみることにした。
きっと『久しぶりです!先輩!』なんて、爽やかな声が聞こえてくるんじゃないかな。
コール音を何回を鳴らした。
けれど、なかなか出てくれない。
「無理かな」
あと一回だけ。
そう思ってもう一度かけてみる。
何回目かのコール音の後、出てくれた。
『なに?』
う、うわぁ……不機嫌な声。
敵意丸出しとはこのことだ。
梶井さんはいったいどんな人間関係を築いているのだろう。
女の人との別れ話、マネージャーさんの冷たい態度―――そして、友好的な態度からはほど遠い後輩の声。
「えーと、すみません。私、梶井さんの落としたスマホを拾った者ですが……」
『捨てていいよ』
即決、即答だった。
捨てる!?
いやいやいや。
聞き間違いかな。
もう一度、話してみる。
「そんなわけには。仕事の電話もかかってきていましたし」
電話越しから、はぁっとため息をつく声が聞こえた。
なんだか、梶井さんってあんまり人望がないの?
渡瀬さんといい、深月さんといい、梶井さんにすっごく冷たいような気がするんだけど、私の気のせいなのかな。
『どこ?』
「カフェ音の葉です」
『わかった』
「よろしくお願いします」
『たぶん伝える』
ブツッと電話が切れた。
た、たぶん!?
私の憧れの人、梶井さんはどうしてこんな扱いなの?
梶井さんは悪い人じゃない―――ううん。
悪い人なのかな。
ファーストキスを奪われたことを思いだし、やっぱり悪い人のような気がした。
胸の前でうーんと腕を組むこと数分。
「少し待ってみよう」
フルーツパフェを食べ終えるとランチのメニューを片付けて、ディナーのメニューをテーブルに並べた。
夜は八時まで。
今日の日替わりはてんぷら盛り合わせと山菜蕎麦、いなりずしがついてくるセット。
洋食の方のセットはエビのグラタンとからあげにサラダ、ガーリックトーストのセット。
「私はお蕎麦かなぁ」
今日の気分は和食。
肌寒い三月の夜に暖かいお蕎麦はうれしい。
クローズ作業の後、賄いを食べて帰れるから、毎日の日替わりが楽しみだった。
スマホが鳴った。
パソコンのアドレスからメールが入る。
梶井さんからだった。
『明日とりにいくから、そのまま預かっておいて。ウサギちゃん』
短いメッセージ。
私は小学校時代のウサギと同等の扱いらしく、梶井さんは私にスマホを預けることになんの抵抗もなかった。
なんとなく、複雑な気持ちでそのメッセージを閉じた。
返事をしようかどうしようか、迷ったところでお客さんが入ってきた。
「もう開いてますか?」
「はい!どうぞ」
ディナーメニューの時間にはちょっと早かったけど、その人は最近よく店に顔を出すようになったお客さんだったから、少し待ってもらおうと席に案内した。
若いサラリーマンで、いつもゆっくりコーヒーを飲み、仕事の書類を眺める。
次に入ってきたのは近所に住む老夫婦。
「早く来てしまったかな」
「いいえ」
「望未ちゃんのピアノが聴きたくてね」
「そうそう。それが楽しみで早くきてしまうのよ」
優しいおじいちゃんとおばあちゃん。
私の演奏を楽しみにしてくれている。
ここで働けることになって、よかったと心から思えた。
カフェ『音の葉』は私にとって、そんな穏やかな時間が流れる場所だった。
これから先、私はこんな平和な時間を過ごしていくのだろう。
そう思っていた。
まだ恋を知らない私は―――
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✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
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(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
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