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番外編【詩理】
籠の小鳥は恋を煩う(2)
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バサッと帰るなり、雑誌を並べた。
『楽しい週末おでかけ』『ここがおすすめ!彼とのデート』そのタイトルを見た時、思わず動揺した。
彼ではありません!
あの人はそう。運転手!
期限付きの―――
「昨日の失敗はそう!人が多すぎたのよ」
失敗は成功の母。
分析し、傾向と対策を考える。
私にも新崎の血が流れているんだから、もっと相手を出し抜くような奇策がなにか―――
「まったく思い浮かばないわ」
天清お兄様なら、一つや二つ思いつくに違いないのに。
なんて不甲斐ないの。
しょんぼりしながら、私の愛猫であるミミを撫でた。
白い毛並みが美しいミミは私が撫でるとにゃあと鳴いた。
猫は本当に可愛いわね。
荒んだ心が癒されるわ。
「そうだわ!次は猫カフェにしましょう!」
こんな可愛い猫の前でにっこり笑わない人なんていないわ。
猫にふれあえば、どんな無愛想な人間でも思わず笑みがこぼれるというものよ!
そう信じていた―――この時は。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
世の中にこんなことがあるのですね。
私はまた一つ、世間というものを学びました……。
猫に囲まれ、無表情。
そんな人がいますか?
いえ、いないでしょう。
私はがっくりと肩を落として、猫を撫でた。
こんなに猫は可愛いのに。
なぜですか?
とうとう私は遠堂に話しかけた。
「遠堂。どうして笑ってくれないの?」
「命令ですか?」
「命令じゃないの。ただその怖い顔を少しだけ緩めてくれたらいいと思っただけよ」
「そうですか」
無理なことでしょうけど。
遠堂が猫を抱き上げた瞬間、微かに笑みを浮かべたような気がして慌てて目をそらした。
見てはいけないような気がして。
胸がドキドキした。
笑うと少し幼く見えるのね―――
「詩理さんは天清さんから聞いていたよりも元気な方ですね」
「お兄様が私のことをなんと言っていたの?」
「やりたいことも言えない気の弱い子だから、と気にされていました」
「そう」
お兄様は優しい。
ご自分だって、父に無理難題を言われているはずなのに私のことを気にしてくれる。
それに比べ、私ときたら―――
「そんな顔をしないでください。天清さんか悲しみます」
お兄様が。
そう、そうね。
うなずいてから、あら?と思った。
「詩理さん、なんでも気やすく頼んでください。天清さんからよろしく頼むと言われていますので」
またお兄様の名前。
それも私のためとは言わずにお兄様のため!?
「天清さんが心配されます。そろそろお帰りになりましょう」
「えっ、ええ……」
そういえば、遠堂はお兄様が最優先だと新崎の誰かが言っていた。
知っていたことなのに私はなぜか、胸が苦しかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ケーキバイキングですか……」
遠堂は顔をしかめた。
違うわ。
そうじゃないの。
そんな険しい顔がみたいわけじゃない。
「動物園とは懐かしいですね」
無表情でふれあい広場のウサギと戯れていた。
帰りにお兄様にお土産をと言って、ライオンのボールペンを買っていた。
なぜ、お兄様?
「恋愛映画……」
泣けると有名な恋愛映画を二人で見た。
私はボロ泣き、遠堂は『別れるくらいなら付き合わなければいいでしょう』
その通りだけど、違う、違うのよ!
遠堂!
―――全敗。
ぐったりと自室の机に伏せた。
なぜ、遠堂は笑ってくれないのだろう。
二週間が終わってしまう。
泣きたい気持ちでいると、部屋のドアがノックされた。
「詩理?」
「天清お兄様!」
「はい。これ」
ぽすっと頭の上に動物園で見るようなウサギのぬいぐるみを頭にのせてくれた。
「お兄様、これは?」
「プレゼントだよ」
「お兄様がぬいぐるみをプレゼントですか?珍しいですね」
「うーん……」
いつもはっきりと物を言うお兄様が微妙な顔をして腕を胸の前に組んで唸った。
「どうかなさいまして?」
「それ、俺からもらったことにできる?」
「え、ええ。約束というのなら」
「遠堂が詩理に渡してくれって、俺に言うからさ。俺からってことにしといて欲しいんだって」
「遠堂が……」
ウサギのぬいぐるみを見つめた。
よく見ると、これは私がお土産売り場で眺めていたものだった。
「二週間、終わるけど。詩理にとっても遠堂にとっても、いい二週間だったね」
お兄様は笑って部屋から出て行った。
やっぱりお兄様はすごいと思った。
きっとお兄様にはわかっていた。
私が遠堂を好きになることを。
そして、未来を少しだけ自分の手で動かしたいと思うようになっていた。
私は。
『楽しい週末おでかけ』『ここがおすすめ!彼とのデート』そのタイトルを見た時、思わず動揺した。
彼ではありません!
あの人はそう。運転手!
期限付きの―――
「昨日の失敗はそう!人が多すぎたのよ」
失敗は成功の母。
分析し、傾向と対策を考える。
私にも新崎の血が流れているんだから、もっと相手を出し抜くような奇策がなにか―――
「まったく思い浮かばないわ」
天清お兄様なら、一つや二つ思いつくに違いないのに。
なんて不甲斐ないの。
しょんぼりしながら、私の愛猫であるミミを撫でた。
白い毛並みが美しいミミは私が撫でるとにゃあと鳴いた。
猫は本当に可愛いわね。
荒んだ心が癒されるわ。
「そうだわ!次は猫カフェにしましょう!」
こんな可愛い猫の前でにっこり笑わない人なんていないわ。
猫にふれあえば、どんな無愛想な人間でも思わず笑みがこぼれるというものよ!
そう信じていた―――この時は。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
世の中にこんなことがあるのですね。
私はまた一つ、世間というものを学びました……。
猫に囲まれ、無表情。
そんな人がいますか?
いえ、いないでしょう。
私はがっくりと肩を落として、猫を撫でた。
こんなに猫は可愛いのに。
なぜですか?
とうとう私は遠堂に話しかけた。
「遠堂。どうして笑ってくれないの?」
「命令ですか?」
「命令じゃないの。ただその怖い顔を少しだけ緩めてくれたらいいと思っただけよ」
「そうですか」
無理なことでしょうけど。
遠堂が猫を抱き上げた瞬間、微かに笑みを浮かべたような気がして慌てて目をそらした。
見てはいけないような気がして。
胸がドキドキした。
笑うと少し幼く見えるのね―――
「詩理さんは天清さんから聞いていたよりも元気な方ですね」
「お兄様が私のことをなんと言っていたの?」
「やりたいことも言えない気の弱い子だから、と気にされていました」
「そう」
お兄様は優しい。
ご自分だって、父に無理難題を言われているはずなのに私のことを気にしてくれる。
それに比べ、私ときたら―――
「そんな顔をしないでください。天清さんか悲しみます」
お兄様が。
そう、そうね。
うなずいてから、あら?と思った。
「詩理さん、なんでも気やすく頼んでください。天清さんからよろしく頼むと言われていますので」
またお兄様の名前。
それも私のためとは言わずにお兄様のため!?
「天清さんが心配されます。そろそろお帰りになりましょう」
「えっ、ええ……」
そういえば、遠堂はお兄様が最優先だと新崎の誰かが言っていた。
知っていたことなのに私はなぜか、胸が苦しかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ケーキバイキングですか……」
遠堂は顔をしかめた。
違うわ。
そうじゃないの。
そんな険しい顔がみたいわけじゃない。
「動物園とは懐かしいですね」
無表情でふれあい広場のウサギと戯れていた。
帰りにお兄様にお土産をと言って、ライオンのボールペンを買っていた。
なぜ、お兄様?
「恋愛映画……」
泣けると有名な恋愛映画を二人で見た。
私はボロ泣き、遠堂は『別れるくらいなら付き合わなければいいでしょう』
その通りだけど、違う、違うのよ!
遠堂!
―――全敗。
ぐったりと自室の机に伏せた。
なぜ、遠堂は笑ってくれないのだろう。
二週間が終わってしまう。
泣きたい気持ちでいると、部屋のドアがノックされた。
「詩理?」
「天清お兄様!」
「はい。これ」
ぽすっと頭の上に動物園で見るようなウサギのぬいぐるみを頭にのせてくれた。
「お兄様、これは?」
「プレゼントだよ」
「お兄様がぬいぐるみをプレゼントですか?珍しいですね」
「うーん……」
いつもはっきりと物を言うお兄様が微妙な顔をして腕を胸の前に組んで唸った。
「どうかなさいまして?」
「それ、俺からもらったことにできる?」
「え、ええ。約束というのなら」
「遠堂が詩理に渡してくれって、俺に言うからさ。俺からってことにしといて欲しいんだって」
「遠堂が……」
ウサギのぬいぐるみを見つめた。
よく見ると、これは私がお土産売り場で眺めていたものだった。
「二週間、終わるけど。詩理にとっても遠堂にとっても、いい二週間だったね」
お兄様は笑って部屋から出て行った。
やっぱりお兄様はすごいと思った。
きっとお兄様にはわかっていた。
私が遠堂を好きになることを。
そして、未来を少しだけ自分の手で動かしたいと思うようになっていた。
私は。
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