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31 結果は?

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フェアが始まって、中盤に差し掛かった頃、天清たかきよさんが私に言った。

「そろそろ『バニー』に食べに行ってみようか」

「えっ?食べに!?」

向こうの売り上げになるのでは?と思っていたけど、天清さんは気にしてない。

「そろそろ風向きが変わりそうだから、その前に見ておくといいよ」

「風向き?」

よくわからなかったけれど、天清さんとお昼は近くのファミレス『バニー』に行くことにした。
行けば、きっと言っている意味がわかるような気がしたから。
『バニー』は耳と尻尾がふわふわして可愛いピンクのウサギのキャラクターが売りでレジ前にはキャラクターグッズが置いてあった。

「ピンクの綿あめみたいで可愛いですよね」

ファミレスに食事に来る機会はなく、実はこれが初めてだった。
人気のキャラクターグッズが欲しいなーと思いながら、まんまとレジ前の罠にかかっていると天清さんが言った。

「そのキャラ気に入った?遠堂が考えたんだけど。欲しいなら、買おうか?」

遠堂さんが!?
思わず、ピンクのウサギを二度見した。

「い、いえ。大丈夫です。へ、へぇー……そうなんですか」

そっとピンクのウサギのぬいぐるみを棚に戻した。
遠堂さんがこんな可愛らしいキャラを考えるなんて意外過ぎる。
人は見かけによらないものですね……。

「楠野様、二名ですね。こちらへ―――って、天清さん!」

「えっー!本当に天清さん!?」

「楠野って名前だったから、気づきませんでした!」

「お久しぶりですー!」

『バニー』のスタッフが集まりだし、天清さんを取り囲んだ。

「皆、元気そうでよかったよ」

天清さんが笑うと周りがなごやかになる。
それになんだか、天清さんは楠野にいる時と雰囲気が違う。
なんだか、知らない人みたいだった。
しかも、気のせいじゃないかったら女の人ばかりが周りに集まっていた。
もしかして、天清さんってモテる!?
新崎の御曹司だし、イケメンだし、明るくて人当たりもいいし、よくよく考えたらモテないわけがない……。

「新崎を辞めたって聞いたんですよ。でも、また戻ってくるって」

そんな声が聴こえて身を強張らせた。
戻る?
まだ勝敗は決まってないのに?

「戻らないよ。俺はもう楠野天清だからね。月子、こっちに」

呼ばれて、ドキッとして身を強張らせた。
人の視線が集まり、手のひらに汗をかいて胸が苦しくなった。
ジロジロみられているのが目を合わせなくてもわかる。
自分では変わったと思っていてもまだ平気じゃない。

「もしかして奥様ですか?」

「『楠野屋』のお嬢様!すごーい!」

一斉に見られるのはまだ怖い。
でもっ!

「は、は、はじめまして。妻の楠野月子です」

ふっと天清さんは嬉しそうな顔をした。

「妻か―――いいね」

目を細め、私の肩を抱くと席へと歩き出した。

「月子の嫉妬も悪くないなー」

「し、嫉妬!?別に嫉妬してませんけど!!」

「あれ?そうだった?」

悪い顔をして笑う天清さんはやっぱり新崎のお父様とそっくりだった。
でも、顔だけだし!
天清さんの方が何倍も何十倍もずっと優しい。

「みてごらん、月子」

広いソファー席に着くなり、私に笑って言った。

「え?」

「フェアメニューを頼むかどうか。今の時間帯はちょうど昼休みだ。よくここを利用する常連客が集まっているってことだよ」

「はい……」

メニューを手にしたまま、きょろきょろと周りを見ていると日替わりランチを頼んでいて、デザートは誰も食べてない。
ランチについてくるデザートとコーヒーや紅茶で十分のようだった。

「月子は何を食べる?」

「えっ、えーと……。プチデザートプレートと海の幸ドリアでお願いします」

デザートプレートなら色々なデザートが一口ずつついてきて、いろいろ味わえる。

「俺のは月子が選んでいいよ。他にも食べたい物があるだろうから」

にこにこと天清さんは笑顔で言ってきたけど、この笑顔は危険すぎる。
策士だから。
天清さんは。

「……いえ、大丈夫です」

「えっー!!なんで!?」

「一口ずつ食べようっていうつもりじゃないですか!?」

「え、どうしてわかったんだろ……」

まだ『あーん』を諦め切れてないようだった。
こんな人の目があると所でできるわけがない。
注文が決まるとボタンを押せばいいらしく、サッとボタンを押すとピンポーンとなった。

「月子!?」

「ご注文はお決まりですか?」

「プチデザートプレートと海の幸ドリアを二つお願いします」

きっぱりと言い切った。

「同じ物!?」

「私が選んでいいって言いましたよね?」

「言ったけどさ……」

あーあ、と天清さんはがっくりと肩を落とした。
―――危なかった。
本当に策士なんだから。

「まあ、いいけど。まだ機会はあるだろうから」

気を付けよう……。
そう思っていると、天清さんが笑って言った。

「これで結果はわかっただろ?『楠野屋』は安定して売り上げを出すだろうけど、『バニー』はフェアはもう下火で通常メニューの売れ行きだけが伸びる。だから、安心していいよ。俺は新崎に戻らない」

「天清さん」

安心させるために私をここに連れてきてくれた?

「月子は手強いなー」

―――まあ、下心もあったみたいだけど。
初めてのファミレスは楽しかった。
二人で同じものを食べて、天清さんが考えたというメニューを見せてもらって、ドリングバーにも挑戦して大満足だった。
帰り際にフルーツチョコレートの詰め合わせをお土産に買って帰り、詩理さんと食べたけど、さすが有名パティシエ。
爽やかなフルーツの酸味とチョコレートの甘さがちょうどよく、とても美味しかった。
けれど、天清さんが言ったとおり、『バニー』は』失速していった。
一方、『楠野屋』のフェアメニューは順調に売り上げを伸ば続けて、野菜の素材を変えたのもよかったのか、いつものメニューも売れ行きが良く、売り上げは倍増した。
そして、『バニー』ではフェアメニュー終盤さしかかると、いつものメニューを注文するお客様が増えて、いまいちの売り上げとなってしまっていた。
迎えた最終日、結果はもう目に見えて明らかだった―――
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