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23 ご令嬢

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自分で自分を褒めてあげたい。
朝日に照らされた天清たかきよさんの寝顔を見た時、そう思った。
腕の中で眠っただけだけど、レベルは確実にアップした!
一緒にいるのが、すごく居心地がよくて安心できた―――ううっ……成長した。
小さくガッツポーズを決めた。

「……月子?」

「ご、ごめんなさい。起こしてしまいました?」

「いや、もう起きないと」

「早くないですか?」

「仕事する……」

ぼうっとしながら、天清さんはふらふらとしながら、シャワーを浴び、仕事をしていた。
メールのやりとりらしく、英語で書いてあり、内容はよくわからなかった。
―――手伝えそうにない。
私も出勤の準備しようと思いながら、起き上がり、身支度を整えるとコーヒーをいれた。

「天清さん、コーヒーどうぞ」

「ありがとう、月子」

微笑む天清さんはいつもよりかっこ良さが増して見えた。
朝食にはまだ早くて、お手伝いさん達が忙しそうにテーブルセットをしている間、二人でコーヒーを飲んだ。
前よりぐっと距離が縮まった―――そんな実感に幸せを感じていたのだった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なるほど。ニヤニヤするほど幸せなのはいいですが」

お昼休みに遠堂さんが怖い顔で私を睨んできた。
私の幸せいっぱいの笑顔をニヤニヤって。
変な人扱いしないでほしい。
しかも、私に対する風当たりが強い。
その理由はわかっている。

「そんな怒らなくても」

「怒りますよ!!新崎のお嬢様に変なゲームを与えないでもらえますか?」

「変じゃないですっ!『ときラブ』ですよ?王道中の王道、豪華声優陣によるボイス付き!私に失礼なことを言っても構いませんけど、『ときラブ』の批判だけはやめてくださいっ!」

「その情熱はどこからくるんですか」

「心の深い所から」

天清さんのことは好きだし、素敵な旦那様だって思ってる!
でも『ときラブ』の鷹影たかがげ龍空りく様は心の別の場所に住んでいるというか、なんというか。
説明しても遠堂さんにはわからないんだろうな……きっと。

「なんですか。その憐憫れんびんの眼差しは。理由はわかりませんが、なんとなく腹が立ちますね」

「遠堂。いいのよ。月子お姉様は私が退屈だろうとお考えになられてゲームを持ってきて下さったのだから、そんな言い方はやめて。それにゲームをやる機会が今までなかったので、とても楽しいです」

「そ、そう!?」

「はい」

「新崎の大切なお嬢様が毒されてしまった……」

『ときラブ』をプレイしただけで、ステータス異常毒みたいな扱いはやめてほしい。
失礼にもほどがある。
遠堂さんははぁっとため息をついて、いなくなった。
きっと天清さんが会議だから、様子を見に行ったに違いない。
いなくなって、ホッとした。
まるで口うるさい小姑みたいなんだから。
特に詩理さんがいると『あれがダメ、それがダメ』って、ずっと言ってるし。
確かに詩理さんは私と違い、格式高いご令嬢ってかんじだった。
でも『ときラブ』くらいプレイしたって、いいわよね。
永遠不滅の名作だし。

「えっと、詩理さんはどのキャラが好きなんですか?」

さっそく『ときラブ』トークを楽しもうと詩理さんに話しかけると、嬉しそうな顔で詩理さんは答えた。

「この方です。態度は素っ気ないけど、本当は優しくていい人で」

「へぇ、どれどれ」

クールなツンデレキャラの八十瀬やそせ勝巳かつみ様ですか。
やりますね。
お目が高い。
龍空りく様のような王道キャラではないけれど、人気投票では上位に食い込むクール系キャラ!!

「わかります。素敵ですよね」

「ありがとうございます」

あ、あれ?ちょっと待って。
勝己様と遠堂さんはどことなく似ている気がする。
ま、まさかね?
私の女の勘がピコンと鳴った。
でも、ありえない話じゃない。

「あ、あの。もしかしてなんですけど。詩理さんは遠堂さんが好きなんじゃないですか」

「えっ……!」

詩理さんは顔を赤くした。
図星のようだ。
―――だから、天清さんは妹の結婚を反対してたんだ。

「月子お姉様。遠堂には言わないでくださいね……。フラれたのにまだ私が諦めきれずに好きだとわかったら、迷惑に決まってますから」

しつこい女ですよね、私は……と言って、詩理さんは顔を伏せた。
こんな可愛い詩理さんをふる!?
なにかの間違いじゃ……。
そう思ったけど、口には出せなかった。
どこまで踏み込んでいいかわからない。

「そ、そうだっ!今度のフェアのデザートの試作をするので、よかったら詩理さんも試食してみてくださいっ!」

立ち上がって、バッとエプロンをつけた。

「お手伝いします」

「いえいえいえ!!『ときラブ』を楽しんでいてください」

カラフルな白玉と小豆、抹茶ババロア、抹茶豆乳アイスに豆乳アイスの二色をのせた。
そして、さっと詩理さんの前に置く。

「よかったらっ」

「わあ!美味しそうです」

笑顔が可愛らしい。
妹っていいなぁ。
そんな気持ちになる。

「美味しいです。月子お姉様」

「いえいえ」

二人でパフェを食べながら、まったりしていると地下室のドアが開いた。
父だった。

「つ、月子っ!!」

地下室にくるなんて珍しい。
忙しい父が本社にいるのもあまりないことだ。
大抵、食材を探しに飛び回っているので不在なことが多いのだ。

「新崎に響子が行くと言い出したあげくに公康君と離婚すると言って『楠野屋』を辞めたんだが……!」

「えええっ!?り、離婚!?退職!?」

思い当たることといえば―――

「私にもよくわからないのですが、その……、響子は天清さんと結婚したいようで……」

「は!?な、なぜ、そんなことに!?」

ふらふらと顔を青くして、父は壁に手をついた。
だ、だよねぇ……。
私も同感だけど、それしか思い当たらない。

「姉の夫に手を出すなど、言語道断!!その上、好きだと言って結婚した公康君と離婚だと!?あの娘は二度と『楠野屋』には戻さん!家の敷居も股がせんぞ!」

父は青かった顔を赤くして、地下室から出て行った。
公康さんと離婚するなんて、響子は本気で天清さんと結婚するつもりなの―――?
ただの嫌がらせじゃなかった。
本気なんだ……。
天清さんを奪われるかもしれない?
ぐっと拳を握りしめた。
そんなことない。
天清さんは私が妻でよかったと言ってくれたんだから。
前とは違う。
私は―――!
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