14 / 53
14 デートイベント
しおりを挟む
日曜日―――
題して『ひきこもり解消作戦!デート編』がとうとう始まる。
すでに心臓はバクバクいっている。
落ち着くのよ、私。
これは人生初めてのデート。
乙女ゲームではデートイベントのエキスパートとは言え、本物のデートは素人。
とはいえ、攻略本もなければ、アドバイスしてくれる友達もいない(悲しい)
自力で乗り切るしかないのよ!
バンジージャンプに挑戦する前のような気分でいた。
このデートイベントを決行するにあたって、天清さんのサポートは万全だった。
第一関門であるデートに着る服は昨日、秘書の遠堂さんが『天清さんから頼まれました』と、デート用の服を渡してくれた。
薄いピンクのテーラードジャケットにデニム、白のシャツ、バッグはベージュにリボンとハートのチャームつき、パンプスまでご丁寧に揃えてある。
カジュアル系大人女子―――遠堂さん、あなたは何者?
サイズもぴったりだし、コーディネートも完璧。
私が服を選んでいたら、きっと今頃、心がくじけていたに違いない。
ありがとう、遠堂さん!
「いざっ!」
バンッと部屋から出陣し、玄関前に車を用意し、控えていた遠堂さんが頭から爪先までチェックしていた。
まるで、自分の仕事ぶりを確認するかのように。
満足そうにうなずいていたのを見ると、合格点だったようだ。
「あ、あの、ありがとうございます」
「お礼は結構。仕事ですので」
「いえ……ものすごく助かりました」
距離を置きつつ、お礼を言うと遠堂さんは私をじぃっと見つめた。
な、何?
なにか睨まれてる?
「あなたは天清さんと夫婦を続けるつもりですか?妻としてやっていく覚悟と自信はあるのでしょうか?」
「はい?」
「いえ、余計なことを言いました。お気になさらず」
なんだろう?覚悟と自信って?
よくわからない質問だったので、答えることができずにいると家の中から天清さんが明るい声で現れた。
「よし!行くか!月子、でかける準備はできたみたいだな!」
電話中だったのか、スマホを黒のテーパードパンツのピスポケットに入れた。
遠堂さんから渡されたネイビーのジャケットを白のVネックTシャツの上に着ると私に手を差し出した。
「行こう」
「は、はい」
王子キャラは難しいって言ってたけれど、私に手を差し出した天清さんは王子様に見えた。
迷うことなく手をとれた私もきっと少しは成長しているのかも―――なんて、思いながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――成長?
誰ですか?
そんなことを言ったのは。
私にそんなもの何もなかった。
人混みの中でそう確信した。
休日とあって人通りの多い道、ずらりと並んだブランド店は混み合って、レストランは行列。
慣れない人混みは私にはレベルが高すぎて、さっきからドンッと人にぶつかってばかりいた。
「ひえっ!」
またぶつかりそうになり、天清さんが手でかばってくれた。
パンプスのヒールが高く、よろよろしているのも悪いのかもしれない。
もたもたしている私に気づき、天清さんは足を止めた。
「月子。大丈夫?」
「は、はい」
本当は大丈夫なんかじゃなかった。
うまく歩けないし、足は痛いし、天清さんに迷惑かけるし―――今の心境としては押し入れに逃げ込んで泣きたい。
なんて情けないのだろう。
こんなんじゃダメ!
懸命にくじけかけた気持ちを奮い立たせた。
「へ、平気です!行きましょう!」
目指すは展望台!
ビルを一望し、その後は眺めのいいレストランで食事をする。
それが、このデートイベントを成功させるためのミッションなんだから。
うまくいかなかったら、バッドエンドでしょ?
そんなの絶対に嫌―――
「車に戻ろうか」
そのセリフはイベント失敗の流れだった。
どきりとして、額に汗がにじんだ。
「い、いえ。行きます!じゃないと、私―――」
「 無理させるつもりはなかったし、また来よう」
帰ろうとした天清さんにしがみついた。
「嫌です!せっかく、ここまで頑張ってきたのに!」
「月子が楽しくないとだめだ。頑張るんじゃなくてさ。そんな真っ青な顔で歩いていたら心配で仕方ないよ」
緊張していたせいで貧血気味なのかなと思っていたけど、そんなにひどい顔をしているのだとわかり、しがみついていた手を天清さんから離した。
正直言って、フラフラして気持ち悪いし、できたら横になりたい。
「人に酔ったのかもしれない。戻ろう」
私の初デートは始まったばかりなのに終わってしまった。
意地を張ってでも、残ればよかったのかもしれない。
けれど、悲しいことに人混みにこれ以上いられないくらい自分の体調は悪く、天清さんに支えられたまま、車に戻ったのだった―――
題して『ひきこもり解消作戦!デート編』がとうとう始まる。
すでに心臓はバクバクいっている。
落ち着くのよ、私。
これは人生初めてのデート。
乙女ゲームではデートイベントのエキスパートとは言え、本物のデートは素人。
とはいえ、攻略本もなければ、アドバイスしてくれる友達もいない(悲しい)
自力で乗り切るしかないのよ!
バンジージャンプに挑戦する前のような気分でいた。
このデートイベントを決行するにあたって、天清さんのサポートは万全だった。
第一関門であるデートに着る服は昨日、秘書の遠堂さんが『天清さんから頼まれました』と、デート用の服を渡してくれた。
薄いピンクのテーラードジャケットにデニム、白のシャツ、バッグはベージュにリボンとハートのチャームつき、パンプスまでご丁寧に揃えてある。
カジュアル系大人女子―――遠堂さん、あなたは何者?
サイズもぴったりだし、コーディネートも完璧。
私が服を選んでいたら、きっと今頃、心がくじけていたに違いない。
ありがとう、遠堂さん!
「いざっ!」
バンッと部屋から出陣し、玄関前に車を用意し、控えていた遠堂さんが頭から爪先までチェックしていた。
まるで、自分の仕事ぶりを確認するかのように。
満足そうにうなずいていたのを見ると、合格点だったようだ。
「あ、あの、ありがとうございます」
「お礼は結構。仕事ですので」
「いえ……ものすごく助かりました」
距離を置きつつ、お礼を言うと遠堂さんは私をじぃっと見つめた。
な、何?
なにか睨まれてる?
「あなたは天清さんと夫婦を続けるつもりですか?妻としてやっていく覚悟と自信はあるのでしょうか?」
「はい?」
「いえ、余計なことを言いました。お気になさらず」
なんだろう?覚悟と自信って?
よくわからない質問だったので、答えることができずにいると家の中から天清さんが明るい声で現れた。
「よし!行くか!月子、でかける準備はできたみたいだな!」
電話中だったのか、スマホを黒のテーパードパンツのピスポケットに入れた。
遠堂さんから渡されたネイビーのジャケットを白のVネックTシャツの上に着ると私に手を差し出した。
「行こう」
「は、はい」
王子キャラは難しいって言ってたけれど、私に手を差し出した天清さんは王子様に見えた。
迷うことなく手をとれた私もきっと少しは成長しているのかも―――なんて、思いながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――成長?
誰ですか?
そんなことを言ったのは。
私にそんなもの何もなかった。
人混みの中でそう確信した。
休日とあって人通りの多い道、ずらりと並んだブランド店は混み合って、レストランは行列。
慣れない人混みは私にはレベルが高すぎて、さっきからドンッと人にぶつかってばかりいた。
「ひえっ!」
またぶつかりそうになり、天清さんが手でかばってくれた。
パンプスのヒールが高く、よろよろしているのも悪いのかもしれない。
もたもたしている私に気づき、天清さんは足を止めた。
「月子。大丈夫?」
「は、はい」
本当は大丈夫なんかじゃなかった。
うまく歩けないし、足は痛いし、天清さんに迷惑かけるし―――今の心境としては押し入れに逃げ込んで泣きたい。
なんて情けないのだろう。
こんなんじゃダメ!
懸命にくじけかけた気持ちを奮い立たせた。
「へ、平気です!行きましょう!」
目指すは展望台!
ビルを一望し、その後は眺めのいいレストランで食事をする。
それが、このデートイベントを成功させるためのミッションなんだから。
うまくいかなかったら、バッドエンドでしょ?
そんなの絶対に嫌―――
「車に戻ろうか」
そのセリフはイベント失敗の流れだった。
どきりとして、額に汗がにじんだ。
「い、いえ。行きます!じゃないと、私―――」
「 無理させるつもりはなかったし、また来よう」
帰ろうとした天清さんにしがみついた。
「嫌です!せっかく、ここまで頑張ってきたのに!」
「月子が楽しくないとだめだ。頑張るんじゃなくてさ。そんな真っ青な顔で歩いていたら心配で仕方ないよ」
緊張していたせいで貧血気味なのかなと思っていたけど、そんなにひどい顔をしているのだとわかり、しがみついていた手を天清さんから離した。
正直言って、フラフラして気持ち悪いし、できたら横になりたい。
「人に酔ったのかもしれない。戻ろう」
私の初デートは始まったばかりなのに終わってしまった。
意地を張ってでも、残ればよかったのかもしれない。
けれど、悲しいことに人混みにこれ以上いられないくらい自分の体調は悪く、天清さんに支えられたまま、車に戻ったのだった―――
20
お気に入りに追加
1,554
あなたにおすすめの小説
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
【完結】一夜の関係を結んだ相手の正体はスパダリヤクザでした~甘い執着で離してくれません!~
中山紡希
恋愛
ある出来事をキッカケに出会った容姿端麗な男の魅力に抗えず、一夜の関係を結んだ萌音。
翌朝目を覚ますと「俺の嫁になれ」と言い寄られる。
けれど、その上半身には昨晩は気付かなかった刺青が彫られていて……。
「久我組の若頭だ」
一夜の関係を結んだ相手は……ヤクザでした。
※R18
※性的描写ありますのでご注意ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる