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14 デートイベント
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日曜日―――
題して『ひきこもり解消作戦!デート編』がとうとう始まる。
すでに心臓はバクバクいっている。
落ち着くのよ、私。
これは人生初めてのデート。
乙女ゲームではデートイベントのエキスパートとは言え、本物のデートは素人。
とはいえ、攻略本もなければ、アドバイスしてくれる友達もいない(悲しい)
自力で乗り切るしかないのよ!
バンジージャンプに挑戦する前のような気分でいた。
このデートイベントを決行するにあたって、天清さんのサポートは万全だった。
第一関門であるデートに着る服は昨日、秘書の遠堂さんが『天清さんから頼まれました』と、デート用の服を渡してくれた。
薄いピンクのテーラードジャケットにデニム、白のシャツ、バッグはベージュにリボンとハートのチャームつき、パンプスまでご丁寧に揃えてある。
カジュアル系大人女子―――遠堂さん、あなたは何者?
サイズもぴったりだし、コーディネートも完璧。
私が服を選んでいたら、きっと今頃、心がくじけていたに違いない。
ありがとう、遠堂さん!
「いざっ!」
バンッと部屋から出陣し、玄関前に車を用意し、控えていた遠堂さんが頭から爪先までチェックしていた。
まるで、自分の仕事ぶりを確認するかのように。
満足そうにうなずいていたのを見ると、合格点だったようだ。
「あ、あの、ありがとうございます」
「お礼は結構。仕事ですので」
「いえ……ものすごく助かりました」
距離を置きつつ、お礼を言うと遠堂さんは私をじぃっと見つめた。
な、何?
なにか睨まれてる?
「あなたは天清さんと夫婦を続けるつもりですか?妻としてやっていく覚悟と自信はあるのでしょうか?」
「はい?」
「いえ、余計なことを言いました。お気になさらず」
なんだろう?覚悟と自信って?
よくわからない質問だったので、答えることができずにいると家の中から天清さんが明るい声で現れた。
「よし!行くか!月子、でかける準備はできたみたいだな!」
電話中だったのか、スマホを黒のテーパードパンツのピスポケットに入れた。
遠堂さんから渡されたネイビーのジャケットを白のVネックTシャツの上に着ると私に手を差し出した。
「行こう」
「は、はい」
王子キャラは難しいって言ってたけれど、私に手を差し出した天清さんは王子様に見えた。
迷うことなく手をとれた私もきっと少しは成長しているのかも―――なんて、思いながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――成長?
誰ですか?
そんなことを言ったのは。
私にそんなもの何もなかった。
人混みの中でそう確信した。
休日とあって人通りの多い道、ずらりと並んだブランド店は混み合って、レストランは行列。
慣れない人混みは私にはレベルが高すぎて、さっきからドンッと人にぶつかってばかりいた。
「ひえっ!」
またぶつかりそうになり、天清さんが手でかばってくれた。
パンプスのヒールが高く、よろよろしているのも悪いのかもしれない。
もたもたしている私に気づき、天清さんは足を止めた。
「月子。大丈夫?」
「は、はい」
本当は大丈夫なんかじゃなかった。
うまく歩けないし、足は痛いし、天清さんに迷惑かけるし―――今の心境としては押し入れに逃げ込んで泣きたい。
なんて情けないのだろう。
こんなんじゃダメ!
懸命にくじけかけた気持ちを奮い立たせた。
「へ、平気です!行きましょう!」
目指すは展望台!
ビルを一望し、その後は眺めのいいレストランで食事をする。
それが、このデートイベントを成功させるためのミッションなんだから。
うまくいかなかったら、バッドエンドでしょ?
そんなの絶対に嫌―――
「車に戻ろうか」
そのセリフはイベント失敗の流れだった。
どきりとして、額に汗がにじんだ。
「い、いえ。行きます!じゃないと、私―――」
「 無理させるつもりはなかったし、また来よう」
帰ろうとした天清さんにしがみついた。
「嫌です!せっかく、ここまで頑張ってきたのに!」
「月子が楽しくないとだめだ。頑張るんじゃなくてさ。そんな真っ青な顔で歩いていたら心配で仕方ないよ」
緊張していたせいで貧血気味なのかなと思っていたけど、そんなにひどい顔をしているのだとわかり、しがみついていた手を天清さんから離した。
正直言って、フラフラして気持ち悪いし、できたら横になりたい。
「人に酔ったのかもしれない。戻ろう」
私の初デートは始まったばかりなのに終わってしまった。
意地を張ってでも、残ればよかったのかもしれない。
けれど、悲しいことに人混みにこれ以上いられないくらい自分の体調は悪く、天清さんに支えられたまま、車に戻ったのだった―――
題して『ひきこもり解消作戦!デート編』がとうとう始まる。
すでに心臓はバクバクいっている。
落ち着くのよ、私。
これは人生初めてのデート。
乙女ゲームではデートイベントのエキスパートとは言え、本物のデートは素人。
とはいえ、攻略本もなければ、アドバイスしてくれる友達もいない(悲しい)
自力で乗り切るしかないのよ!
バンジージャンプに挑戦する前のような気分でいた。
このデートイベントを決行するにあたって、天清さんのサポートは万全だった。
第一関門であるデートに着る服は昨日、秘書の遠堂さんが『天清さんから頼まれました』と、デート用の服を渡してくれた。
薄いピンクのテーラードジャケットにデニム、白のシャツ、バッグはベージュにリボンとハートのチャームつき、パンプスまでご丁寧に揃えてある。
カジュアル系大人女子―――遠堂さん、あなたは何者?
サイズもぴったりだし、コーディネートも完璧。
私が服を選んでいたら、きっと今頃、心がくじけていたに違いない。
ありがとう、遠堂さん!
「いざっ!」
バンッと部屋から出陣し、玄関前に車を用意し、控えていた遠堂さんが頭から爪先までチェックしていた。
まるで、自分の仕事ぶりを確認するかのように。
満足そうにうなずいていたのを見ると、合格点だったようだ。
「あ、あの、ありがとうございます」
「お礼は結構。仕事ですので」
「いえ……ものすごく助かりました」
距離を置きつつ、お礼を言うと遠堂さんは私をじぃっと見つめた。
な、何?
なにか睨まれてる?
「あなたは天清さんと夫婦を続けるつもりですか?妻としてやっていく覚悟と自信はあるのでしょうか?」
「はい?」
「いえ、余計なことを言いました。お気になさらず」
なんだろう?覚悟と自信って?
よくわからない質問だったので、答えることができずにいると家の中から天清さんが明るい声で現れた。
「よし!行くか!月子、でかける準備はできたみたいだな!」
電話中だったのか、スマホを黒のテーパードパンツのピスポケットに入れた。
遠堂さんから渡されたネイビーのジャケットを白のVネックTシャツの上に着ると私に手を差し出した。
「行こう」
「は、はい」
王子キャラは難しいって言ってたけれど、私に手を差し出した天清さんは王子様に見えた。
迷うことなく手をとれた私もきっと少しは成長しているのかも―――なんて、思いながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――成長?
誰ですか?
そんなことを言ったのは。
私にそんなもの何もなかった。
人混みの中でそう確信した。
休日とあって人通りの多い道、ずらりと並んだブランド店は混み合って、レストランは行列。
慣れない人混みは私にはレベルが高すぎて、さっきからドンッと人にぶつかってばかりいた。
「ひえっ!」
またぶつかりそうになり、天清さんが手でかばってくれた。
パンプスのヒールが高く、よろよろしているのも悪いのかもしれない。
もたもたしている私に気づき、天清さんは足を止めた。
「月子。大丈夫?」
「は、はい」
本当は大丈夫なんかじゃなかった。
うまく歩けないし、足は痛いし、天清さんに迷惑かけるし―――今の心境としては押し入れに逃げ込んで泣きたい。
なんて情けないのだろう。
こんなんじゃダメ!
懸命にくじけかけた気持ちを奮い立たせた。
「へ、平気です!行きましょう!」
目指すは展望台!
ビルを一望し、その後は眺めのいいレストランで食事をする。
それが、このデートイベントを成功させるためのミッションなんだから。
うまくいかなかったら、バッドエンドでしょ?
そんなの絶対に嫌―――
「車に戻ろうか」
そのセリフはイベント失敗の流れだった。
どきりとして、額に汗がにじんだ。
「い、いえ。行きます!じゃないと、私―――」
「 無理させるつもりはなかったし、また来よう」
帰ろうとした天清さんにしがみついた。
「嫌です!せっかく、ここまで頑張ってきたのに!」
「月子が楽しくないとだめだ。頑張るんじゃなくてさ。そんな真っ青な顔で歩いていたら心配で仕方ないよ」
緊張していたせいで貧血気味なのかなと思っていたけど、そんなにひどい顔をしているのだとわかり、しがみついていた手を天清さんから離した。
正直言って、フラフラして気持ち悪いし、できたら横になりたい。
「人に酔ったのかもしれない。戻ろう」
私の初デートは始まったばかりなのに終わってしまった。
意地を張ってでも、残ればよかったのかもしれない。
けれど、悲しいことに人混みにこれ以上いられないくらい自分の体調は悪く、天清さんに支えられたまま、車に戻ったのだった―――
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