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11 妹の妨害

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ずばらしい!
鷹影たかかげ龍空りく様のキャラデザ原案やサブキャラの設定まで『おまけ』で見れるなんて初回限定版や通常版にはなかった特典に感激よ!

「噂では隠れたスチルがあるらしいし、これは期待できるっ!」

天清たかきよさんから、もらった『ときラブ』特装版を朝からプレイしていた。
まだ朝の五時。
けど、朝の時間はこうやって有効に使うもの!!
私の朝活よ。

「なにしてんのー……月子…隣にいないから、びっくりして目が覚めたんだけど……」

眠そうに押し入れの戸を開けた天清さんは私が楽しそうに『ときラブ』をプレイする姿を見ても嫌そうな顔はしなかった。
むしろ、嬉しそうな顔をしていた。

「あ、気に入った?」

「は、はい。とても」

「よかった」

いい人だ。
でも―――
すすすっと押し入れの戸を閉めた。

「開けないでください」

「えっ!?月子っ!?」

「私の『ときラブ』タイムは一人で楽しみたいんです。ご理解ください」

「ご理解くださいって!?」

そんなーと押し入れの外から声がした。
私の『ときラブ』タイムは守られなければならない。
これは神聖なる時間なのだから。

「二度寝しよう……」

しょんぼりした声で天清さんが言ったのが聞こえてきた。
あと二時間は眠れますよ、と思いながら、第一章を難なくクリアした。

「とりあえず、全員のハートはいただきです!」

やっぱり『ときラブ』は私の活力!
セーブをして保存。
ここから分岐ルートに入っていくから、他キャラをクリアする時はここからスタートをするとしよう。
攻略ルートは全て頭の中にある!
ノリノリでプレイする私はまさか妹の響子きょうこが天清さんとの結婚を企んでいるとは知らずに『ときラブ』に耽っていたのだった。
のんきにも。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「天清さん、一緒に取引先に回りましょ?私から天清さんを皆さんに紹介します」

朝一番、響子が地下室にやってきて、天清さんを誘っていた。
どんな風の吹きまわし?
あんなに嫌っていたのに。
しかも、腕をからめて顔を近づけている。
私がいるにも関わらず、お構いなし。
でも、こんなアプローチこそ、ハートを増やすための正しい方法?
どうしていいかわからず、二人を交互に見ていると響子がじろりと私を睨んだ。

「また新しいスーツ?」

「う、うん。その、クローゼットに新しいスーツを用意してくれてあって」

それを着ただけ、ともごもごと消え入るような声で最後の方は言った。
なるべく怒りを買いたくなかった。

「新しいスーツも似合ってるよ」

天清さんはにこっと笑って、響子の手を振りほどいた。

「えーと、俺さ。今、仕事中だから邪魔しないでくれる?取引先は社長と回る約束をしているから、一緒には回れない」

「お父様と!?」

「スケジュールはもう詰まってる。遠堂。外に追い出してくれ」

「かしこまりました」」

遠堂さんはサッと横から響子の腕を掴み、ずるずると響子の体を引きずるように部屋の外に連れ出し、まるで仁王様のような怖い顔でドアの前に立ち、中に入れないように見張っている。
使命感に溢れていると言うか、天清さんに近寄るなオーラが尋常ではない。
『ちょっとどきなさいよっ!』と声を張り上げる響子の声がむなしく地下の廊下に響き渡っていた。

「それでさ、月子。昨日のお弁当の試作をしていこうと思うんだ」

「は、はい。そうですね」

何事もなかったかのように天清さんは言った。
ライバルの妨害イベントが失敗?
そんなことある?
イベントを起きてなかったことにするなんて……。
強すぎる。
じいっと天清さんを見つめると私と目が合った。

「説明でわからないところあった?」

「いっ、いいえっ!!!」

バッと目を逸らし、天清さんが作ったお弁当の企画書に目を通した。
あの響子の誘惑に動じない人がいるなんて―――!
しかも、追い出すって……。
私なんて、一度も自分から追い出せたことがないのに。
すごいなぁと思いながら、天清さんを見た。
自信?
それとも―――本当に私のことが好き?
ま、まさかっ!!まさかぁぁぁ!!
なんてだいそれたことをっ!
この愚か者っ!
バシバシバシバシッと書類で自分の頭を叩いた。

「月子?」

「なんでもありません。すばらしい企画書でした。わかりやすく要点を簡潔にまとめてあり、私が提出する企画書は子供の落書きレベルでした」

「そこまで褒めなくても。確認なんだけどさ」

「はい」

「これ、コピーしてきた今までの企画書なんだ」

ぱさっと並べられたのは私がフェアを考えて提出した企画書の数々だった。
そこに書かれていた名前は―――

「響子……」

私の名前はどこにもなく、全部、妹の名前になっていた。
新メニューもフェアも―――書類をばさばさとめくっていくけど、私の名前はない。

「こ、これ、なんで?」

「落ち着いて、月子。きっと月子が考えたんじゃないかなって俺は思ったんだ。だから、確認するためにコピーして持ってきた」

「私ですっ!」

「響子さんが仕事をしている姿はないし、おかしいなって思ったんだ」

「……そんな」

悲しい気持ちで今までの企画の数々を眺めた。

「これからは俺がいるから大丈夫だよ、月子」

にっこりと天清さんは微笑んでくれたけど、あまりのショックに返事すらできなかった。
そして、天清さんに手を握られていることに気づくのは五分後のことになる―――
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