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10 夫【響子 視点】
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「なんなのよっ!月子のくせに生意気なのよ!」
バシッとクッションを叩きつけた。
今日一日、最悪だった。
あの新崎天清はただ者じゃなかった。
跡目争いで負けたとはいえ、さすが新崎グループの長男。
父は彼が出す案に『いいね、すばらしい』なんて、わざとらしく誉め称え、私が関わる企画を全部白紙にされた。
私が自分を捨てたからって、仕返ししてるのよ!絶対!
でも、一番困るのは私の父よ。
まだ初日だっていうのにあの男の傀儡状態。
私の言葉なんて一切耳に入ってない。
父だけじゃない。
初めは彼を警戒していた社員も少し話をしただけで、心を開いて親し気に会話をしているし、書類は一目見ただけで全て記憶してしまう。
「噂通り、優秀みたいね」
ぎりっと爪を噛んだ。
スーツも上等の物でオーダーメイドだと社員達が騒いでいた。
その上、月子にシャネルのアクセサリーとバッグを買い与えて!
ネイビーのタイトワンピースのスーツは月子によく似合っていて、出社した時と雰囲気が変わり、帰る頃には他の社員の注目を集めていた。
『月子さん、すごく綺麗な方だったんですね』
『髪型や服装で印象が変わりました』
なんて、この私が月子の褒め言葉を私が延々と聞くハメになるなんてね。
もちろん、笑顔で聞いてあげた。
でないと、明日には『響子さんが嫉妬していた』と社内に広まっては面白くない。
「それに地下室まで改装するなんて信じられない!あんな金払いのいい男なら、結婚しておくんだったわ」
お見合いの席で現れた彼は海外から帰ってきたばかりで貧乏臭いバックパッカー姿だった。
リネンのタイパンツをはき、タンクトップ、頭にはターバンのようにスカーフを巻き、足元はサンダル。
父親は『さすが豪快な方だ』と気に入っていたけど、私は隣に立つのも嫌だった。
そんな人と私が結婚するわけないでしょ!
私が結婚したのは私に忠実な男。
お願いはなんでも聞いてくれるし、私を手に入れるのに必死になってくれたから。
「今日はあいつが残業でいないから、不便だわ」
お弁当屋でお弁当を買って、ビールを飲みながらテレビを見ていた。
楠野家を出るんじゃなかったわ。
お手伝いさんがいない生活ってこんなに大変だとは思わなかった。
それも私がイライラする理由の一つなのよ。
楠野にいれば、家事は一切やらなくていいし、豪邸に住むことができたのに。
あの男に恥をかかせるためとはいえ、家から出たのは大失敗だったわ。
月子が優雅にお手伝いさんになんでもやってもらっていると思うと腹が立つ。
「見てなさいよ、月子。調子に乗っていられるのも今の内よ!」
ビールの缶をテーブルに叩きつけた。
面白くない。
「ただいまぁ」
「公康さん、おかえりなさーい」
帰ってきたのは私の夫になった新堀 公康さん。
食品会社の営業でうちの会社に出入りしていて、その会社の営業が主催する飲み会に行ったのがきっかけだった。
優しいだけが取り柄の平凡な男。
「響子ちゃん、お弁当食べたんだ?」
「そうよ」
「これ、お土産のケーキ。前に食べたいって言ってたから」
「うわぁ、ありがとっ」
「あのさ、言いにくいんだけど。今、僕の仕事が忙しくて、家事をやる時間があまりとれないんだ。朝の食事の後片付けだけでもやってもらえないかな?」
おどおどしながら、言われてイラッとした。
私が後片付け?
なんでもやるっていうから、結婚してあげたのに。
「私に水仕事をしろってこと!?」
「そうじゃなく、散らかしたら散らかしたままだろう?仕事で疲れて帰ってきて、散らかった部屋を見るのが嫌なんだ」
「家政婦にやらせなさいよ」
「僕の給料じゃ家政婦さんを雇うのは無理だよ」
わざとらしく、公康さんはため息をついた。
結婚したら、家政婦扱いって本当ね。
こんな男はお断りよ!
いっそ天清さんを次の旦那にしようかしら?
親が建ててくれた家も手に入るし、お手伝いさんもいるだろうし。
天清さんが望んで私を選んだなら、それは仕方ないことよね?
「響子ちゃん。作っておいたサラダ食べなかった?お菓子ばかりじゃ体に悪いよ」
冷蔵庫を開け、口うるさく公康さんは言ってきたのを無視した。
肩を落として公康さんがキッチンで片付けているのが目に入ったけど、知らん顔してテレビの画面を見た。
頭の中にはテレビの内容なんて、全然入ってこない。
あのひきこもりの月子が住む場所も旦那も奪われたら、どうなると思う?
ボロボロになるでしょうね。
何もかも奪われた月子がどんな顔をするか楽しみだわ。
冷蔵庫から新しいビールを取り出して、一口飲んだ。
そうね。月子。
今は幸せを味わっておくといいわ。
その方が奪う楽しみがあるもの。ね。月子?
バシッとクッションを叩きつけた。
今日一日、最悪だった。
あの新崎天清はただ者じゃなかった。
跡目争いで負けたとはいえ、さすが新崎グループの長男。
父は彼が出す案に『いいね、すばらしい』なんて、わざとらしく誉め称え、私が関わる企画を全部白紙にされた。
私が自分を捨てたからって、仕返ししてるのよ!絶対!
でも、一番困るのは私の父よ。
まだ初日だっていうのにあの男の傀儡状態。
私の言葉なんて一切耳に入ってない。
父だけじゃない。
初めは彼を警戒していた社員も少し話をしただけで、心を開いて親し気に会話をしているし、書類は一目見ただけで全て記憶してしまう。
「噂通り、優秀みたいね」
ぎりっと爪を噛んだ。
スーツも上等の物でオーダーメイドだと社員達が騒いでいた。
その上、月子にシャネルのアクセサリーとバッグを買い与えて!
ネイビーのタイトワンピースのスーツは月子によく似合っていて、出社した時と雰囲気が変わり、帰る頃には他の社員の注目を集めていた。
『月子さん、すごく綺麗な方だったんですね』
『髪型や服装で印象が変わりました』
なんて、この私が月子の褒め言葉を私が延々と聞くハメになるなんてね。
もちろん、笑顔で聞いてあげた。
でないと、明日には『響子さんが嫉妬していた』と社内に広まっては面白くない。
「それに地下室まで改装するなんて信じられない!あんな金払いのいい男なら、結婚しておくんだったわ」
お見合いの席で現れた彼は海外から帰ってきたばかりで貧乏臭いバックパッカー姿だった。
リネンのタイパンツをはき、タンクトップ、頭にはターバンのようにスカーフを巻き、足元はサンダル。
父親は『さすが豪快な方だ』と気に入っていたけど、私は隣に立つのも嫌だった。
そんな人と私が結婚するわけないでしょ!
私が結婚したのは私に忠実な男。
お願いはなんでも聞いてくれるし、私を手に入れるのに必死になってくれたから。
「今日はあいつが残業でいないから、不便だわ」
お弁当屋でお弁当を買って、ビールを飲みながらテレビを見ていた。
楠野家を出るんじゃなかったわ。
お手伝いさんがいない生活ってこんなに大変だとは思わなかった。
それも私がイライラする理由の一つなのよ。
楠野にいれば、家事は一切やらなくていいし、豪邸に住むことができたのに。
あの男に恥をかかせるためとはいえ、家から出たのは大失敗だったわ。
月子が優雅にお手伝いさんになんでもやってもらっていると思うと腹が立つ。
「見てなさいよ、月子。調子に乗っていられるのも今の内よ!」
ビールの缶をテーブルに叩きつけた。
面白くない。
「ただいまぁ」
「公康さん、おかえりなさーい」
帰ってきたのは私の夫になった新堀 公康さん。
食品会社の営業でうちの会社に出入りしていて、その会社の営業が主催する飲み会に行ったのがきっかけだった。
優しいだけが取り柄の平凡な男。
「響子ちゃん、お弁当食べたんだ?」
「そうよ」
「これ、お土産のケーキ。前に食べたいって言ってたから」
「うわぁ、ありがとっ」
「あのさ、言いにくいんだけど。今、僕の仕事が忙しくて、家事をやる時間があまりとれないんだ。朝の食事の後片付けだけでもやってもらえないかな?」
おどおどしながら、言われてイラッとした。
私が後片付け?
なんでもやるっていうから、結婚してあげたのに。
「私に水仕事をしろってこと!?」
「そうじゃなく、散らかしたら散らかしたままだろう?仕事で疲れて帰ってきて、散らかった部屋を見るのが嫌なんだ」
「家政婦にやらせなさいよ」
「僕の給料じゃ家政婦さんを雇うのは無理だよ」
わざとらしく、公康さんはため息をついた。
結婚したら、家政婦扱いって本当ね。
こんな男はお断りよ!
いっそ天清さんを次の旦那にしようかしら?
親が建ててくれた家も手に入るし、お手伝いさんもいるだろうし。
天清さんが望んで私を選んだなら、それは仕方ないことよね?
「響子ちゃん。作っておいたサラダ食べなかった?お菓子ばかりじゃ体に悪いよ」
冷蔵庫を開け、口うるさく公康さんは言ってきたのを無視した。
肩を落として公康さんがキッチンで片付けているのが目に入ったけど、知らん顔してテレビの画面を見た。
頭の中にはテレビの内容なんて、全然入ってこない。
あのひきこもりの月子が住む場所も旦那も奪われたら、どうなると思う?
ボロボロになるでしょうね。
何もかも奪われた月子がどんな顔をするか楽しみだわ。
冷蔵庫から新しいビールを取り出して、一口飲んだ。
そうね。月子。
今は幸せを味わっておくといいわ。
その方が奪う楽しみがあるもの。ね。月子?
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