8 / 53
8 わかってる
しおりを挟む
「よーし!俺のハンコは終わり―」
ぽいぽいっと書類を押し終えると、手元残った案件をぱらぱらとめくっていた。
「それはどうなさるつもりですか?」
秘書らしく遠堂さんが終わった書類を手に持ち、ハンコを押さなかった分について尋ねた。
「これはやめたほうがいいっていう企画だな。誰が考えたのか知らないけどさ。メニューの表紙に社長の娘の響子を出すとか、響子おすすめメニューを載せるとか……需要あるか?あの響子とかいう女にカリスマ性があるとは思えない」
そんな企画があったんだ……。
誰が企画をだしたんだろう。
「わかりました。その企画は却下とお伝えしましょう」
「そうしてくれ」
仕事をしている天清さんは少し雰囲気が違う。
無邪気さが減って、少し冷たく見えるのは気のせいだろうか。
「それでは、天清さんはゆっくりお昼を楽しまれてください」
遠堂さんからスッと差し出されたお弁当は重箱だった。
それも黒い漆塗りの重箱で竹梅菊蘭の四君子のデザインが美しい。
中身はだし巻き卵や魚の照り焼き、きんぴらごぼうや煮しめなど、違う段には黄色の卵と三つ葉の結び目が美しい茶巾寿司が入っている本格的な和食弁当。
「うわぁ……豪華ですね」
「あー、これか?遠堂が今日は初日だからって言って、特別に料亭に頼んだらしい」
「そうなんですか」
重箱には意味があって、幸せが重なるようにという意味が込められている。
それを遠堂さんが知っているか、どうか知らないけれど、怖い顔をしていても根はいい人なのかもしれない。
これはっ―――!
「テイクアウト用のお弁当にいいかもしれませんね!小さな重箱にして小さな仕切りをいくつも作って、一品ずついれていくんです。重箱だと特別感があって、素敵じゃないですか?」
色鉛筆を手にして、さらさらと紙に書き始めると天清さんが笑った。
「まずは食べようよ」
「いいえ!先に食べて下さい!」
値段は千円を切る価格。
できたら、ワンコインに近づける。
ターゲットは働く女子!
見た目は色鮮やかにして、一品一品が洋菓子のような華やかさを出す。
そう、例えるならジュエリーボックスみたいなお弁当。
インスタ映えも狙って―――
「で、できた」
「へぇー、かわいいね。その風呂敷は和紙?」
「そうです。エコにも力を入れている『楠野屋』はプラスチックを減らすようにしてますから」
「季節によって、この風呂敷の模様や色を変えたらいいかもな。春は桜やチューリップ柄、夏は花火、朝顔、金魚ってかんじにすれば、飽きがこない」
「いいですね!」
おしゃれな人じゃないと思いつかない発想だった。
さすが、天清さん。
―――って、私、何を馴染んでいるんだろう。
まだそんなに知らない相手なのにぺらぺらと喋ってしまったような気がする。
「試作品を作りたいな。明日から、作ってみようか」
「は、はい」
天清さんには壁がない。
それと、私を見下したように見てないし、対等でいてくれる。
頭の回転も速いし、話しやすくて、ついついなんでも話してしまう。
なんて不思議な人だろう。
「ほら、月子。あーん」
箸で卵焼きをつまんで私の口にいれようとしたのを手で制した。
きっぱりと。
「それはしません」
「えー!!しようよ!!」
「お断りします」
どさくさに紛れて、なにをさせようとしているのだろうか。
この人は。
上品な味の煮しめやだし巻き卵にうっとりしながら、いそいそと食べていると、食べ終わった天清さんが私の企画書を眺めていた。
「月子。ちゃんと名前いれよう、ここに」
そういうと天清さんは『楠野月子』と発案者の所に名前を入れた。
名前を書かないといけないことを初めて知った。
「あの」
「うん、これでよし!」
ソファーにごろんと寝転がり、にこっと天清さんは微笑んだ。
まさか、このためにソファーを?
「いえ、全然よくありません」
「夫婦なんだから、これくらい当り前だよ!」
世にいう膝枕といいうのをしていた。
私が。
こんなのゲーム内でしかしたことないよおおお!!!
信じられないことに天清さんは書類を眺めがら、私の膝に頭を置いている。
イベントスチル【彼に膝枕】と、頭に浮かんだ。
いやいやいやいや!?そうじゃなく!
現実に戻って、私!
別々のソファーに座ろうとしたのに隣においでと言われて座ったのは罠だったのだと今、気がついた。
こっ、この人、策士じゃ!?
人畜無害な顔をして危険すぎるっ!!!
「あー、最高だねー!」
寝転んだ天清さんの手が私の頬にふれたその時、バンッとドアが開いた。
「地下に荷物を運んでいるってきいていたから、まさかとは思ったけれど」
私が天清さんに膝枕をしているのを見て、響子はさっと顔色を変えた。
それだけじゃない。
私の服装とアクセサリーを見て悔しそうに睨みつけたのを見逃さなかった。
「ふうん、本当に月子のことが好きみたいね。私へのあてつけかと思っていたわ」
「あてつけ?なんのために?」
天清さんは不思議そうな顔で響子を見た。
私の膝に頭をのせたままで。
まるで王様のようだった。
それが響子には余計気に障ったのか、顔を歪めた。
「そう。わかったわ!」
響子は天清さんの返事に怖い顔をして、バンッと資料室のドアを閉めていった。
絶対に仕返しされる……。
怯える私とは裏腹に天清さんはまったく動じず、響子が去ったドアを余裕たっぷりに見ていた。
「心配しなくていいよ。わかっているから。水をかけたのはあいつだろう?」
「ち、違います」
嘘をついたけど、下手くそな嘘は天清さんは通用せず、笑われてしまった。
「月子は嘘が下手だなー」
そう言った天清さんの顔はドアの方を見ていて、表情がわからなかったけれど、なぜかその低い声が怖く感じた……。
ぽいぽいっと書類を押し終えると、手元残った案件をぱらぱらとめくっていた。
「それはどうなさるつもりですか?」
秘書らしく遠堂さんが終わった書類を手に持ち、ハンコを押さなかった分について尋ねた。
「これはやめたほうがいいっていう企画だな。誰が考えたのか知らないけどさ。メニューの表紙に社長の娘の響子を出すとか、響子おすすめメニューを載せるとか……需要あるか?あの響子とかいう女にカリスマ性があるとは思えない」
そんな企画があったんだ……。
誰が企画をだしたんだろう。
「わかりました。その企画は却下とお伝えしましょう」
「そうしてくれ」
仕事をしている天清さんは少し雰囲気が違う。
無邪気さが減って、少し冷たく見えるのは気のせいだろうか。
「それでは、天清さんはゆっくりお昼を楽しまれてください」
遠堂さんからスッと差し出されたお弁当は重箱だった。
それも黒い漆塗りの重箱で竹梅菊蘭の四君子のデザインが美しい。
中身はだし巻き卵や魚の照り焼き、きんぴらごぼうや煮しめなど、違う段には黄色の卵と三つ葉の結び目が美しい茶巾寿司が入っている本格的な和食弁当。
「うわぁ……豪華ですね」
「あー、これか?遠堂が今日は初日だからって言って、特別に料亭に頼んだらしい」
「そうなんですか」
重箱には意味があって、幸せが重なるようにという意味が込められている。
それを遠堂さんが知っているか、どうか知らないけれど、怖い顔をしていても根はいい人なのかもしれない。
これはっ―――!
「テイクアウト用のお弁当にいいかもしれませんね!小さな重箱にして小さな仕切りをいくつも作って、一品ずついれていくんです。重箱だと特別感があって、素敵じゃないですか?」
色鉛筆を手にして、さらさらと紙に書き始めると天清さんが笑った。
「まずは食べようよ」
「いいえ!先に食べて下さい!」
値段は千円を切る価格。
できたら、ワンコインに近づける。
ターゲットは働く女子!
見た目は色鮮やかにして、一品一品が洋菓子のような華やかさを出す。
そう、例えるならジュエリーボックスみたいなお弁当。
インスタ映えも狙って―――
「で、できた」
「へぇー、かわいいね。その風呂敷は和紙?」
「そうです。エコにも力を入れている『楠野屋』はプラスチックを減らすようにしてますから」
「季節によって、この風呂敷の模様や色を変えたらいいかもな。春は桜やチューリップ柄、夏は花火、朝顔、金魚ってかんじにすれば、飽きがこない」
「いいですね!」
おしゃれな人じゃないと思いつかない発想だった。
さすが、天清さん。
―――って、私、何を馴染んでいるんだろう。
まだそんなに知らない相手なのにぺらぺらと喋ってしまったような気がする。
「試作品を作りたいな。明日から、作ってみようか」
「は、はい」
天清さんには壁がない。
それと、私を見下したように見てないし、対等でいてくれる。
頭の回転も速いし、話しやすくて、ついついなんでも話してしまう。
なんて不思議な人だろう。
「ほら、月子。あーん」
箸で卵焼きをつまんで私の口にいれようとしたのを手で制した。
きっぱりと。
「それはしません」
「えー!!しようよ!!」
「お断りします」
どさくさに紛れて、なにをさせようとしているのだろうか。
この人は。
上品な味の煮しめやだし巻き卵にうっとりしながら、いそいそと食べていると、食べ終わった天清さんが私の企画書を眺めていた。
「月子。ちゃんと名前いれよう、ここに」
そういうと天清さんは『楠野月子』と発案者の所に名前を入れた。
名前を書かないといけないことを初めて知った。
「あの」
「うん、これでよし!」
ソファーにごろんと寝転がり、にこっと天清さんは微笑んだ。
まさか、このためにソファーを?
「いえ、全然よくありません」
「夫婦なんだから、これくらい当り前だよ!」
世にいう膝枕といいうのをしていた。
私が。
こんなのゲーム内でしかしたことないよおおお!!!
信じられないことに天清さんは書類を眺めがら、私の膝に頭を置いている。
イベントスチル【彼に膝枕】と、頭に浮かんだ。
いやいやいやいや!?そうじゃなく!
現実に戻って、私!
別々のソファーに座ろうとしたのに隣においでと言われて座ったのは罠だったのだと今、気がついた。
こっ、この人、策士じゃ!?
人畜無害な顔をして危険すぎるっ!!!
「あー、最高だねー!」
寝転んだ天清さんの手が私の頬にふれたその時、バンッとドアが開いた。
「地下に荷物を運んでいるってきいていたから、まさかとは思ったけれど」
私が天清さんに膝枕をしているのを見て、響子はさっと顔色を変えた。
それだけじゃない。
私の服装とアクセサリーを見て悔しそうに睨みつけたのを見逃さなかった。
「ふうん、本当に月子のことが好きみたいね。私へのあてつけかと思っていたわ」
「あてつけ?なんのために?」
天清さんは不思議そうな顔で響子を見た。
私の膝に頭をのせたままで。
まるで王様のようだった。
それが響子には余計気に障ったのか、顔を歪めた。
「そう。わかったわ!」
響子は天清さんの返事に怖い顔をして、バンッと資料室のドアを閉めていった。
絶対に仕返しされる……。
怯える私とは裏腹に天清さんはまったく動じず、響子が去ったドアを余裕たっぷりに見ていた。
「心配しなくていいよ。わかっているから。水をかけたのはあいつだろう?」
「ち、違います」
嘘をついたけど、下手くそな嘘は天清さんは通用せず、笑われてしまった。
「月子は嘘が下手だなー」
そう言った天清さんの顔はドアの方を見ていて、表情がわからなかったけれど、なぜかその低い声が怖く感じた……。
20
お気に入りに追加
1,554
あなたにおすすめの小説
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
冷徹御曹司と極上の一夜に溺れたら愛を孕みました
せいとも
恋愛
旧題:運命の一夜と愛の結晶〜裏切られた絶望がもたらす奇跡〜
神楽坂グループ傘下『田崎ホールディングス』の創業50周年パーティーが開催された。
舞台で挨拶するのは、専務の田崎悠太だ。
専務の秘書で彼女の月島さくらは、会場で挨拶を聞いていた。
そこで、今の瞬間まで彼氏だと思っていた悠太の口から、別の女性との婚約が発表された。
さくらは、訳が分からずショックを受け会場を後にする。
その様子を見ていたのが、神楽坂グループの御曹司で、社長の怜だった。
海外出張から一時帰国して、パーティーに出席していたのだ。
会場から出たさくらを追いかけ、忘れさせてやると一夜の関係をもつ。
一生をさくらと共にしようと考えていた怜と、怜とは一夜の関係だと割り切り前に進むさくらとの、長い長いすれ違いが始まる。
再会の日は……。
二十歳の同人女子と十七歳の女装男子
クナリ
恋愛
同人誌でマンガを描いている三織は、二十歳の大学生。
ある日、一人の男子高校生と出会い、危ないところを助けられる。
後日、友人と一緒にある女装コンカフェに行ってみると、そこにはあの男子高校生、壮弥が女装して働いていた。
しかも彼は、三織のマンガのファンだという。
思わぬ出会いをした同人作家と読者だったが、三織を大切にしながら世話を焼いてくれる壮弥に、「女装していても男は男。安全のため、警戒を緩めてはいけません」と忠告されつつも、だんだんと三織は心を惹かれていく。
自己評価の低い三織は、壮弥の迷惑になるからと具体的な行動まではなかなか起こせずにいたが、やがて二人の関係はただの作家と読者のものとは変わっていった。
【完結】やさしい嘘のその先に
鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。
妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。
※30,000字程度で完結します。
(執筆期間:2022/05/03〜05/24)
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます!
✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼
---------------------
○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。
(作品シェア以外での無断転載など固くお断りします)
○雪さま
(Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21
(pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274
---------------------
悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~
一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、
快楽漬けの日々を過ごすことになる!
そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!?
※この物語はフィクションです。
R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。
優しい微笑をください~上司の誤解をとく方法
栗原さとみ
恋愛
仕事のできる上司に、誤解され嫌われている私。どうやら会長の愛人でコネ入社だと思われているらしい…。その上浮気っぽいと思われているようで。上司はイケメンだし、仕事ぶりは素敵過ぎて、片想いを拗らせていくばかり。甘々オフィスラブ、王道のほっこり系恋愛話。
ヤクザと私と。~養子じゃなく嫁でした
瀬名。
恋愛
大学1年生の冬。母子家庭の私は、母に逃げられました。
家も取り押さえられ、帰る場所もない。
まず、借金返済をしてないから、私も逃げないとやばい。
…そんな時、借金取りにきた私を買ってくれたのは。
ヤクザの若頭でした。
*この話はフィクションです
現実ではあり得ませんが、物語の過程としてむちゃくちゃしてます
ツッコミたくてイラつく人はお帰りください
またこの話を鵜呑みにする読者がいたとしても私は一切の責任を負いませんのでご了承ください*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる