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第二章

16 クリスマスの夜

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大騒ぎになりかけたところを高也が収めると、すかさず狼谷かみやさんの一族がうまく誘導してくれて、ホテルから脱出することができた。
助けてくれた狼谷さんのお父さんとお兄さんは怒ってはいたけど、大事なことを決める時は狼谷にまずは相談しなさいと高也は叱られていた。

「相談したところで反対するに決まっている」

高也が笑って車に乗った。
車にはお小言から逃げてきた狼谷さんもいた。

「狼谷さんは賛成なんですか?」

「高也がそうしたいというのなら。今はそれでいいと思うよ」

『今は』という狼谷さんは百パーセント賛成しているわけではなく、高也の意思に従ったというだけらしい。
確かに未来はわからない。
獣人である運転手さんも黙っていた。
きっと獣人達は高也の決定を許しはしない。

泉地いずち。俺は俺のやりたいようにやる。だから、お前も好きなように生きろ」

「じゅうぶん好きにさせてもらってるよ」

狼谷さんは悪い顔をして笑って答えた。
あんな顔するんだというくらい凶悪な笑みだった。

「それならいい」

「早く卒業したいけど、こればっかりはどうにもならないから」

助手席に座っている狼谷さんの顔がサイドミラーに映っていた。
それはどこか遠くを眺めていて誰かを想っている顔だった。
きっと狼谷さんには想う人がいる。
そんな気がした。
学園に着くと外にはうっすらと草木の葉の上に雪が積もっていた。

「わぁ! 雪!」

「雪だな」

「じゃあ、俺はここで。二人ともよいお年を」

そこはメリークリスマスじゃないんだと思っていると高也が狼谷さんに言った。

「俺達がその挨拶をするのは初めてだな」

白い息を吐きながら、狼谷さんはふっと微笑を浮かべた。

「死なないんだと思える休みは初めてだよ」

狼谷さんはひらひらと手を振って去って行った。
その言葉に高也は苦笑していたけど、高也は私の手をとった。

「寒いのは苦手だ。部屋に入るぞ」

獅央家での戦闘訓練のない、家に縛られることのない高也の時間を手に入れたんだと実感した。

「うん。高也。明日の朝、雪だるまを作っていい?」

「早起き出来るならな。昼前には家に帰るんだろ」

「高也も一緒に帰るんだからね」

「ああ」

高也はくしゃりとセットしてあった私の髪をなでた。
外は雪が降っていたけど、寮に入ると暖かくて部屋にはクリスマスケーキとノンアルコールのシャンパンが置いてあった。

「わぁ!クリスマスケーキ!」

「食べていいぞ。クリスマスだからな」

「はー。びっくりだよ」 

高也は部屋に入るなり、上着を脱いでタイをはずし、ソファーにドサッと身を投げ出した。
疲れたとは言わないけど、私を色っぽい目で見てくるのはやめてほしい。
まだケーキを食べてない。

「ケーキに?」

高也はわかってるくせにそんなことを言う。
でも、しっかりケーキはいただくよ。
熱い紅茶を入れて、高也のぶんと私のぶんをテーブルに並べた。

「違うよ。驚いたのはケーキじゃないよ(驚いたけど)。高也は本当に狩人補佐官になっちゃったの?」

「見せただろ?」

高也は狩人や狩人補佐官が所持する端末を内ポケットから取り出した。

「年明けには佳穂のパートナーとして正式に登録される。あと、特級試験を受けるぞ」

「も、もう!?」

「古柴より下とかありえないだろ。やるからにはトップに立つ」

そんな理由で!?
長年、特級狩人補佐官としてやってきた古柴君の立場はいったい……
がっくりと膝をついた。

「なんだ。嬉しくないのか」

自分のケーキにのっていたイチゴを高也は私の口に放り込んだ。

「イチゴは嬉しいけど……」

甘酢っぱいイチゴをもぐもぐと噛みしめながら、正直、複雑な気持ちだった。
狩人補佐官なんて王様である高也がやっていいのかどうか。
他の獣人達は納得しないと思う。

「高也が狩人の犬になるんだよ? 獣人のみんなに申し訳ない気持ちだよ!」

「俺は犬でもいい」

ひょいっと抱き上げて、高也は自分の横に座らせて言った。

「佳穂、俺を犬のように愛でろ」

「こんな挑発的な犬はいないよ!」

「佳穂」

キスをねだるように私の唇の横にキスをする。
こんなのまるで誘導だよ!
手を握ると、シャツのボタンに触れさせて私を煽る。
これって、脱がせろってことだよね……
顔を赤くしたまま、高也と目をあわせることができず、シャツのボタンに触れる指が震えた。
緊張するし、恥ずかしすぎる。
ちら、と高也を見ると、笑いをこらえていた。
どこが犬なの!?
こんなに飼い主を翻弄する犬なんていない。
涙目になりながら、シャツをなんとか脱がし、そして唇にキスをした。
私のキスを受け止めると、高也はもどかしくなったのか、自分から舌を絡め、大人のキスをした。

「た、高也! ま、待って!」

「この状況で待てるわけないだろ」

ソファーに押し倒され、何度も首と胸にマーキングされた。
高也の印は執拗で同じところに何度もするから、消えにくい。
独占欲の塊で私が泣き喘ぐまでやめてはくれない。

「ん、あ……」

高也の金色の髪を掴んで与えられる刺激に耐えながら、息を整えて耳元で囁いた。

「ありがとう……高也……」

頬に手をあて、高也は微笑む。
その微笑みは七年前と同じ。
私達はようやく七年前と同じ場所に帰る―――
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