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第一章

23 テスト勉強

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外に出て以来、私と高也は自由に会えない日々が続いていた。
私は相変わらずのBクラスだし、お嬢様達が嫌味をちくちく言ってくるし(仕返しはするけど)―――それもランキング更新が行われるテストが終わるまでのこと。
そう思って、毎日頑張っていた。
でも、頑張っているのは私だけじゃない。
テストの日が近づくと、生徒全員が殺気立ち、必死に勉強し始めた。
休み時間ですら勉強している姿は鬼気迫るものがあった。

「ねえねえ、希和きわ。明日から、テスト休みだねっ!」

佳穂かほ。なにして遊ぶ?みたいな顔してるんじゃないわよ。あたし達はなんとしてもランキングで十位以内に入るわよ」
 
「わかってるよー」

希和が作ってくれたテストの傾向と予想問題のノートや模擬テストで対策はバッチリだった。
さすが中学校時代はトップを独走していただけあって、解説の部分まで完璧だった。

「テストは学力テストと体力テストのトータルランキングよ。女子一位になれば、カヴァリエじゃない適合者マリアでもSSクラスになれる。つまり、キング達と同じフロアに部屋を持てるし、屋上も使用できるんだから」

「さすがに一位は厳しくない?」

絶対防衛鉄壁の倒せそうにないトップが私の目の前にいるんですが……

「は? あたしを倒すくらいの勢いでかかってこい」

「……はい」

か、勝てる気がしないよおおお。
希和の上を行くには全教科満点狙い。
大きなプレッシャーが与えられた。
私の頭脳で満点か……思わず、死んだような目になった。

「佳穂は体力テストならいけるでしょ」

「私を体力馬鹿みたいに言わないで!?」

「事実でしょ。いいじゃない。取り柄がないより」

「ぐっ……そうだけどっ……」

「ほら!喋ってないで一問でも多く解きなさい!」

ううっ…親友はスパルタだよ。
遠慮どころか、血も涙もないよ。
しくしくとテストの予想問題を解いていく。
間違えると容赦ない希和のドSな解説がもれなくついてくる。

「終わった……解き終わりました!希和先生!」

スッと希和に模擬テスト用紙を渡した。

「ごくろうさま。当然、全問正解よね」

にっこりと希和は微笑んだ。
こ、こわぁ……
でも、とりあえず全問は解けたよ!
空白がなかっただけマシと思おう。
おじいちゃん、おばあちゃん、佳穂はがんばったよ……
力尽きてパタリと机に伏せ、窓の外を眺めた。
希和達の寮の部屋から見える外には誰の姿も見えない。
みんな、部屋にこもって必死に勉強しているんだと思う。
私の考えていることがわかるのか、希和は答え合わせをしながら言った。

「本当に獣が考えることは野蛮よね。より優秀な適合者マリアをあてがって交配させるためにあの手この手とよく思いつくわ」

学園生活の待遇がランクでかなり変わるから、そう思うのも仕方ない。
ちょっとでも快適に過ごしたいよね。
朝ごはんの牛乳をホットミルクにしたいとか、パンをトーストしたいなってあるもんね。
うんうんと希和の言葉にうなずいた。

「まあ、十位以内に入れば、Sクラスになれるから頑張りなさい」

獣人上位六名をSSクラス、Aクラス以外の選抜されたメンバー上位十名がSクラス。
SクラスはSSクラスに次ぐ権利を与えられるから、それを目指している人も多い。
特に獣人の上位六名は変わらないから、Sクラスの席は奪い合いらしいし。
女子はSSクラスはトップ一名のみで上位十名をSクラスとしている。
つまり、キングからポーンまでの上位六名が使う屋上へ自由に出入りができるのは一人だけ。
女子は女子で大変なのだ。

「古柴も頑張ってるわよ」

「そう思うよ……」

古柴君も獣人クラスの授業が終わり次第、私と同じで希和の問題を解くことになっている。
希和は最低でも古柴君にSクラスを命じている。
古柴君も必死だよ……
ああ見えて、古柴君は体力テストのため毎朝走り込みしてるのを知っている。

「テストが楽しみね。コネでSクラスになったお嬢様達が何人消えるかしら。今からわくわくするわ。二年三年のお姉様方もあのグループを嫌っていたから安心でしょ」 

綾子さん達グループはなぜかSクラスと同等の扱いを受けていた。
入学テストで希和がSクラスになったのに対して、綾子さん達は明らかにコネだったから、適合者マリア側の先輩達は綾子さん達を嫌っているという噂だった。
先輩達は努力でしか上に行けないことを知っている。
そして、希和の中では綾子さん達が消えること決定しているようだった。

「うん、佳穂。模擬テストは満点よ。後はあたしがまとめた出題予想ノート、全ての教科を頭に叩き込め!」

「わ、わかった」

命拾いしたぁー!
ほっとして額の汗をぬぐった。

「あたしはこれから古柴の勉強をみるから、後は一人でやるのよ。私が見張ってないとすぐにサボるのよ。あの駄犬は」

「うん」

多分、希和に構って欲しいからだと思うけどね―――と思ったけれど、黙っておいた。
古柴君がぼこぼこにされてしまう。
私は図書館に行こう。
希和が模擬テストや出題予想ノートまで作ってくれたんだし上位を目指して頑張らないとね!
静かな場所で勉強しようと向かった図書館は人の気配がなかった。
寮には一人ずつ部屋を与えられているから、自室の方が集中できるのか、生徒の姿はほとんどない。

「ふー」

人の少ない図書館はひんやりした空気で心地いい。
とりあえず、数学からとノートを開く―――図書館の静かさよりも静かになった私。
まず一問目からのパンチがすごかった。
模擬テストよりも難しくなっている。
つまり、アレですか?
さっきのテストは基礎テストかなにかだったと……
希和のノートはよくまとめれていたけど、数学の説明が私には不十分だよぉー!
バタッと倒れた。
倒れ伏した私の背後から、誰かが公式を書いてくれた。

「この公式を使うんですよ」

振り返ると黒緑色の髪をしたビショップの羽竜うりゅうさんがいた。
長いまつげに細身の体、さらさらした髪は女の人みたいで中性的で不思議な空気を纏わせている。
本当に獣人達は綺麗だ。
特に力が強ければ、強いほど人間から離れていくような気がする。

「理解できそうですか?」

「はい。大丈夫です。ありがとうございます」

礼儀正しい羽竜さんに合わせてお礼をキチンと言った。
風紀委員をしていて、キリッとしたイメージで怖く感じていたけれど、今日は穏やかだなあ。

「へぇ。頑張っているな」

ルークの大熊おおくまさんもいた。
すごい体ががっちりしていて、首が痛くなるんじゃないかってくらい見上げた。
たぶん、高也より身長は高い。
軍人みたいにがっしりとしていて鍛えられ、見るからに強そうで短い黒髪がさわやかだった。
羽竜さんと並んでいると対照的だ。

「勉強頑張ってくださいね。上位十名に入れば正々堂々キングに近寄れますから」

「そうだな。キングと一緒にいられるようになる」

二人が意外と好意的で驚いた。
そして、二人は高也が獅央しおうの家から何を言われたかも知っているようだった。

「私達はどちらの味方でもありませんが、キングはあなたが来てから精神的に落ち着いています」

「俺達は学内が静かで平和なら、それでいい」

二人はこっちの心の中を見透かしたように言った。

「夕方までは図書館にいますから、なにかわからないところがあれば教えますよ」

「助かります」

ペコッと頭を下げると羽竜さんは黙って会釈し、大熊さんと一緒に勉強し始めた。
最初のイメージとずいぶん違う。
穏やかでいい人達だった。
風紀委員の時は二人とも警察みたいだったのに。
きっと真面目なんだなー。
―――って、ぼんやりしている場合じゃない。
希和のくれたノートの続きに取りかかった。
正々堂々、高也の隣に立つために負けられない。
自分の力で隣に立つと決めている。
七年前のあの日から。
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