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私が会社に復帰できたのは、おばさんが警察に連れていかれてから、一週間後のことだった。
驚くべきことに、新聞の記事は小さく、火事の概要が載ったくらいで、仁礼木の名前の一文字も出ていなかった。
社内でも気づいた人はおらず、あの黒ヒョウみたいな宮ノ入社長が、この裏にいるんだろうなと想像がつく。
そして、社内での話題は、扇田工業の事件に加え、私と要人の結婚について盛り上がり、出勤した私を待っていたのは、質問攻撃だった……
「結婚式の準備でもないし、休んでいたのは妊娠したからじゃないわよっ! だいたい病欠理由が、精神的に病んでって……!?」
本人が不在だったせいで、噂は一人歩きして、そのままダンスまで踊っちゃうような勢いだった。
誰が結婚式の仲人をするのか聞かれ、子供名前はなにかまで追求された時は、さすがの私も倒れそうになった。
「でも、志茉が精神を病んだことに関して、誰も疑っていなかったわよ。愛弓さんのパフォーマンスを見た後だったし、信ぴょう性が高かったのよ。可哀想にって、同情されたくらい」
私が要人との関係を隠していたのも、愛弓さんの嫉妬と嫌がらせから逃れるためだという噂が流れ、完全な憶測なのに、真実のように語られている。
嫌がらせを受けたのは本当だけど、心は病んでない。
全部、要人の策略に違いないとわかっていながら、その証拠はどこにもなく、なにも言えなかった。
「うー……。でも、人の噂も七十五日っていうから……」
噂話にさらされ、耐える私の前には、八重子さんが作ってくれた鮭と卵焼き、きんぴらごぼうという懐かしいお弁当がある。
お弁当を見たら、少し元気が出てきた。
「それ、八重子さんのお弁当?」
「そう。人からお弁当を作ってもらうのって、すごく久しぶり。八重子さんの卵焼きは、どっしりしていて美味しいの」
「へぇー。一個ちょうだい」
「いいわよ」
恵衣にひとつ卵焼きをわけてあげた。
一口食べた恵衣が、ふふっと笑う。
「志茉の卵焼きにそっくり」
「気づいた? 私のお母さんがね、八重子さんから聞いたレシピで、食事を作っていたらしいの。お母さんはお嬢様育ちで、料理ができなかったんだけど、八重子さんから聞いて少しずつ覚えていったんだって」
「そっか……。それじゃあ、仁礼木先輩と志茉が食べていた味は、同じ味だったのね。違う家に住んでいても家族みたい」
八重子さんが自分で言ったわけではなかった。
私が食べているうちに、もしかしてと思って聞いてみたら、八重子さんはいい生徒さんでしたよと教えてくれたのだ。
数年し、料理上手になったお母さんと八重子さんは、お互いにおすすめレシピを交換していたことを知った。
「私のことで、要人が知らないことってないのかも」
八重子さんがもう一度働いてくれたのは、きっと要人が頼んだから。
アパートから出たタイミングで、八重子さんの料理を口にしたのも偶然ではない気がする。
「なにを今さら」
恵衣はいつもの日替わり定食。
魚フライのオーロラソースがけに、キャベツの千切りが添えられている。
ソースをまんべんなく、フライの上にのばし、恵衣は言った。
「仁礼木先輩以上に、志茉を理解している人なんていないわよ」
「恵衣は?」
「悔しいけど、仁礼木先輩には敵いません! というより、嫉妬が怖くて、勝ちたくないわよ……。だいたい、志茉覚えてる?」
「え? なにを?」
「高校生の時に、付き合った男子のことよ」
十六歳の時、告白されて付き合った他校の男子。
スポーツをしていて、とても爽やかな男子高校生だった気がする。
生まれて初めて告白されたから、すごく嬉しくて、要人にも自慢した。
要人は告白されて当たり前の生活だったから、私の気持ちはわからなかったみたいで、自慢しても反応が薄かった。
「うん。覚えてるわよ」
「本当に?」
「もちろん」
青春の一ページ、淡い恋心と、すぐに駄目になった恋人関係――どうして、駄目になったんだっけ?
「……あれ?」
駄目になった理由が思い出せない。
でも、自然消滅だった気がする。
向こうが部活で忙しくて、会えなくなったのが原因で終わった。
「あの男子高校生、苗字は違うけど、湯瀬さんだからね」
「えっ!?」
驚くと、恵衣は冷たい目で私を見る。
「親が離婚して、苗字が変わったんだって。でも、向こうは志茉を覚えていたわよ」
「で、でも……。私、両親が亡くなったせいで、高校時代の記憶があいまいな部分があって……そ、それで……」
「それも湯瀬さんは知ってるわよ。湯瀬さんも会いに行こうとしたけど、仁礼木さんの妨害で会えなかったのよ」
「妨害!?」
「別れた後だったけどね。湯瀬さんのほうは、嫌いで別れたわけじゃなかったから、志茉の様子を見に行ったわけ」
思えば、あの頃の私は、とても不安定で、恵衣とでさえ、会話できない状態だった。
「会えないのは、仕方なかったとはいえ、湯瀬さんはどうなったか、ずっと気にしていたみたい。沖重グループに志茉が入社してきたのを知って、嬉しかったって言ってたわ」
「恵衣は気づいてたの?」
「うん。だって、あたしは湯瀬さんに憧れてたし。湯瀬さんは高校時代から人気があったもの。仁礼木先輩は別格で、もう殿堂入りみたいなものだけど」
今、恵衣から衝撃的なことを聞いた気がする。
要人のモテモテ殿堂入りは、どうでもいいけど、恵衣が湯瀬さんに憧れていたなんて、知らなかった。
「初耳なんだけど……」
「言ってなかったし。でも、志茉が結婚して、湯瀬さんもふっきれて、あたしと付き合ってますけどね?」
「えっー! それも初めて聞いたわよ!?」
「つい、昨日からですー」
「そっか……。うん。おめでとう」
恵衣はお祝いの言葉に微笑んだけど、周囲を見回し、小声で私に言った。
「言っておくけど、仁礼木先輩は湯瀬さんの事。すぐにわかったわよ」
要人がいないことを確かめたようだった。
本当にどれだけ、要人は危険人物なのだろうか。
「湯瀬さんは大丈夫だったの!?」
「うん。無言の圧をかけられたらしいけど、特に攻撃はしてこなかったって」
「攻撃って、要人は猛獣なの?」
「しっかり猛獣を繋いでおくのよ? 世間のためにね」
「はい……」
今になって知る要人の過去。
でも、私も要人を責められない。
この後、一番の被害者と思われる湯瀬さんに、平謝りしたのはいうまでもなかった――
◇◇◇◇◇
夏になって、ようやく噂も落ち着いた頃、私は経理課から秘書課へ正式に異動した。
経理課で引き継ぎを終えてからでないと、異動はしないと要人に言ったからだ。
要人も(一応)社長だから、そこは守ってくれた。
そして、要人は忙しかったけど、お盆休みはしっかり取ってくれて、私と一緒にお墓参りへ来ていた。
いつもは一人だったけれど、今回は二人で。
「ああ。暑いですねぇ」
そう声をかけてくれたのは、いつもこの霊園を掃除しているお寺の人だった。
お盆の時期だからか、数珠を手にしている。
そして、黒いスーツ姿――それで、この人がお寺の人ではなかったことを知った。
「お寺の方じゃなかったんですね。来るたび、掃除していらっしゃったから、てっきり……」
「朝の散歩がてらに、お墓の掃除に通っているんですよ」
ちょうど、私のおじいちゃんにあたるくらいの年齢だろうか。
きっとお墓に、どうしても忘れられない人が眠っているのだろう。
「今年は二人で来られたんですね」
水と花を持ち、後からやってくる要人を眩しそうに眺めて、その人は言った。
「はい。ようやく」
「そうですか。よかった」
私が答えると、笑ってうなずいた。
それで会話は終わり、私に会釈すると、霊園の出口へ向かって歩いていく。
その人は要人ともすれ違う時に、挨拶かなにか、一言だけ交わしていたようだ。
けれど、長話することはなく、やがて、その背中が見えなくなった。
「志茉、なにか話したか?」
「うん。今年のお盆は、私と要人が別々じゃなくて、一緒に来たことに気づいたみたい。もしかしたら、私を心配してくれていたのかも」
「そうだろうな」
多くを語らなかったけど、よく出会う私を気にかけてくれていたのだろう。
思えば、私が立ち直るまでに、要人だけでなく、たくさんの人が支えてくれていたと思う。
「要人はなにを話したの?」
「結婚おめでとうございますって言われただけだ」
「どうしてわかったのかしら」
「指輪だろ」
私と要人の指にある結婚指輪。
もう自分の身の一部のようになっていて、忘れてしまっていた。
「あ、そうよね……」
「ちゃんと、おじさんとおばさんに結婚報告しろよ?」
「わ、わかってるわよ。そこまで抜けてないんだから!」
お墓に花を添え、手を合わせ、目を閉じる。
相変わらず、言い争っている私たちを眺め、両親が笑っているような気がした。
「志茉……」
泣く私を見て、要人は心配そうにハンカチを差し出した。
「違うの、要人。これはね、悲しくて泣いてるんじゃなくて、懐かしくて泣いてるの。お父さんもお母さんも、私と要人が一緒にいるのを見て、喜んでるだろうってわかるから」
今までと違う気持ちで、私はここにいる。
「そっか。俺はおじさんとおばさんに、志茉を幸せにしますって言っておいた」
「そう。じゃあ、私も言わないとね」
私はもう一度、手を合わせた。
要人には、まだ教えてない秘密がある。
それを両親に報告する。
『私には、要人がいるから大丈夫。来年のお盆には、二人の孫を連れてくるからね』
お隣の要人が、この秘密を知るまで、あともう少し――
【了】
驚くべきことに、新聞の記事は小さく、火事の概要が載ったくらいで、仁礼木の名前の一文字も出ていなかった。
社内でも気づいた人はおらず、あの黒ヒョウみたいな宮ノ入社長が、この裏にいるんだろうなと想像がつく。
そして、社内での話題は、扇田工業の事件に加え、私と要人の結婚について盛り上がり、出勤した私を待っていたのは、質問攻撃だった……
「結婚式の準備でもないし、休んでいたのは妊娠したからじゃないわよっ! だいたい病欠理由が、精神的に病んでって……!?」
本人が不在だったせいで、噂は一人歩きして、そのままダンスまで踊っちゃうような勢いだった。
誰が結婚式の仲人をするのか聞かれ、子供名前はなにかまで追求された時は、さすがの私も倒れそうになった。
「でも、志茉が精神を病んだことに関して、誰も疑っていなかったわよ。愛弓さんのパフォーマンスを見た後だったし、信ぴょう性が高かったのよ。可哀想にって、同情されたくらい」
私が要人との関係を隠していたのも、愛弓さんの嫉妬と嫌がらせから逃れるためだという噂が流れ、完全な憶測なのに、真実のように語られている。
嫌がらせを受けたのは本当だけど、心は病んでない。
全部、要人の策略に違いないとわかっていながら、その証拠はどこにもなく、なにも言えなかった。
「うー……。でも、人の噂も七十五日っていうから……」
噂話にさらされ、耐える私の前には、八重子さんが作ってくれた鮭と卵焼き、きんぴらごぼうという懐かしいお弁当がある。
お弁当を見たら、少し元気が出てきた。
「それ、八重子さんのお弁当?」
「そう。人からお弁当を作ってもらうのって、すごく久しぶり。八重子さんの卵焼きは、どっしりしていて美味しいの」
「へぇー。一個ちょうだい」
「いいわよ」
恵衣にひとつ卵焼きをわけてあげた。
一口食べた恵衣が、ふふっと笑う。
「志茉の卵焼きにそっくり」
「気づいた? 私のお母さんがね、八重子さんから聞いたレシピで、食事を作っていたらしいの。お母さんはお嬢様育ちで、料理ができなかったんだけど、八重子さんから聞いて少しずつ覚えていったんだって」
「そっか……。それじゃあ、仁礼木先輩と志茉が食べていた味は、同じ味だったのね。違う家に住んでいても家族みたい」
八重子さんが自分で言ったわけではなかった。
私が食べているうちに、もしかしてと思って聞いてみたら、八重子さんはいい生徒さんでしたよと教えてくれたのだ。
数年し、料理上手になったお母さんと八重子さんは、お互いにおすすめレシピを交換していたことを知った。
「私のことで、要人が知らないことってないのかも」
八重子さんがもう一度働いてくれたのは、きっと要人が頼んだから。
アパートから出たタイミングで、八重子さんの料理を口にしたのも偶然ではない気がする。
「なにを今さら」
恵衣はいつもの日替わり定食。
魚フライのオーロラソースがけに、キャベツの千切りが添えられている。
ソースをまんべんなく、フライの上にのばし、恵衣は言った。
「仁礼木先輩以上に、志茉を理解している人なんていないわよ」
「恵衣は?」
「悔しいけど、仁礼木先輩には敵いません! というより、嫉妬が怖くて、勝ちたくないわよ……。だいたい、志茉覚えてる?」
「え? なにを?」
「高校生の時に、付き合った男子のことよ」
十六歳の時、告白されて付き合った他校の男子。
スポーツをしていて、とても爽やかな男子高校生だった気がする。
生まれて初めて告白されたから、すごく嬉しくて、要人にも自慢した。
要人は告白されて当たり前の生活だったから、私の気持ちはわからなかったみたいで、自慢しても反応が薄かった。
「うん。覚えてるわよ」
「本当に?」
「もちろん」
青春の一ページ、淡い恋心と、すぐに駄目になった恋人関係――どうして、駄目になったんだっけ?
「……あれ?」
駄目になった理由が思い出せない。
でも、自然消滅だった気がする。
向こうが部活で忙しくて、会えなくなったのが原因で終わった。
「あの男子高校生、苗字は違うけど、湯瀬さんだからね」
「えっ!?」
驚くと、恵衣は冷たい目で私を見る。
「親が離婚して、苗字が変わったんだって。でも、向こうは志茉を覚えていたわよ」
「で、でも……。私、両親が亡くなったせいで、高校時代の記憶があいまいな部分があって……そ、それで……」
「それも湯瀬さんは知ってるわよ。湯瀬さんも会いに行こうとしたけど、仁礼木さんの妨害で会えなかったのよ」
「妨害!?」
「別れた後だったけどね。湯瀬さんのほうは、嫌いで別れたわけじゃなかったから、志茉の様子を見に行ったわけ」
思えば、あの頃の私は、とても不安定で、恵衣とでさえ、会話できない状態だった。
「会えないのは、仕方なかったとはいえ、湯瀬さんはどうなったか、ずっと気にしていたみたい。沖重グループに志茉が入社してきたのを知って、嬉しかったって言ってたわ」
「恵衣は気づいてたの?」
「うん。だって、あたしは湯瀬さんに憧れてたし。湯瀬さんは高校時代から人気があったもの。仁礼木先輩は別格で、もう殿堂入りみたいなものだけど」
今、恵衣から衝撃的なことを聞いた気がする。
要人のモテモテ殿堂入りは、どうでもいいけど、恵衣が湯瀬さんに憧れていたなんて、知らなかった。
「初耳なんだけど……」
「言ってなかったし。でも、志茉が結婚して、湯瀬さんもふっきれて、あたしと付き合ってますけどね?」
「えっー! それも初めて聞いたわよ!?」
「つい、昨日からですー」
「そっか……。うん。おめでとう」
恵衣はお祝いの言葉に微笑んだけど、周囲を見回し、小声で私に言った。
「言っておくけど、仁礼木先輩は湯瀬さんの事。すぐにわかったわよ」
要人がいないことを確かめたようだった。
本当にどれだけ、要人は危険人物なのだろうか。
「湯瀬さんは大丈夫だったの!?」
「うん。無言の圧をかけられたらしいけど、特に攻撃はしてこなかったって」
「攻撃って、要人は猛獣なの?」
「しっかり猛獣を繋いでおくのよ? 世間のためにね」
「はい……」
今になって知る要人の過去。
でも、私も要人を責められない。
この後、一番の被害者と思われる湯瀬さんに、平謝りしたのはいうまでもなかった――
◇◇◇◇◇
夏になって、ようやく噂も落ち着いた頃、私は経理課から秘書課へ正式に異動した。
経理課で引き継ぎを終えてからでないと、異動はしないと要人に言ったからだ。
要人も(一応)社長だから、そこは守ってくれた。
そして、要人は忙しかったけど、お盆休みはしっかり取ってくれて、私と一緒にお墓参りへ来ていた。
いつもは一人だったけれど、今回は二人で。
「ああ。暑いですねぇ」
そう声をかけてくれたのは、いつもこの霊園を掃除しているお寺の人だった。
お盆の時期だからか、数珠を手にしている。
そして、黒いスーツ姿――それで、この人がお寺の人ではなかったことを知った。
「お寺の方じゃなかったんですね。来るたび、掃除していらっしゃったから、てっきり……」
「朝の散歩がてらに、お墓の掃除に通っているんですよ」
ちょうど、私のおじいちゃんにあたるくらいの年齢だろうか。
きっとお墓に、どうしても忘れられない人が眠っているのだろう。
「今年は二人で来られたんですね」
水と花を持ち、後からやってくる要人を眩しそうに眺めて、その人は言った。
「はい。ようやく」
「そうですか。よかった」
私が答えると、笑ってうなずいた。
それで会話は終わり、私に会釈すると、霊園の出口へ向かって歩いていく。
その人は要人ともすれ違う時に、挨拶かなにか、一言だけ交わしていたようだ。
けれど、長話することはなく、やがて、その背中が見えなくなった。
「志茉、なにか話したか?」
「うん。今年のお盆は、私と要人が別々じゃなくて、一緒に来たことに気づいたみたい。もしかしたら、私を心配してくれていたのかも」
「そうだろうな」
多くを語らなかったけど、よく出会う私を気にかけてくれていたのだろう。
思えば、私が立ち直るまでに、要人だけでなく、たくさんの人が支えてくれていたと思う。
「要人はなにを話したの?」
「結婚おめでとうございますって言われただけだ」
「どうしてわかったのかしら」
「指輪だろ」
私と要人の指にある結婚指輪。
もう自分の身の一部のようになっていて、忘れてしまっていた。
「あ、そうよね……」
「ちゃんと、おじさんとおばさんに結婚報告しろよ?」
「わ、わかってるわよ。そこまで抜けてないんだから!」
お墓に花を添え、手を合わせ、目を閉じる。
相変わらず、言い争っている私たちを眺め、両親が笑っているような気がした。
「志茉……」
泣く私を見て、要人は心配そうにハンカチを差し出した。
「違うの、要人。これはね、悲しくて泣いてるんじゃなくて、懐かしくて泣いてるの。お父さんもお母さんも、私と要人が一緒にいるのを見て、喜んでるだろうってわかるから」
今までと違う気持ちで、私はここにいる。
「そっか。俺はおじさんとおばさんに、志茉を幸せにしますって言っておいた」
「そう。じゃあ、私も言わないとね」
私はもう一度、手を合わせた。
要人には、まだ教えてない秘密がある。
それを両親に報告する。
『私には、要人がいるから大丈夫。来年のお盆には、二人の孫を連れてくるからね』
お隣の要人が、この秘密を知るまで、あともう少し――
【了】
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