39 / 43
39 喜ぶもの?
しおりを挟む
倉永のおばあさんはなかなか愉快な人だった。
それが私の感想なんだけど、夏向は違っていたみたいで、リビングでイモムシ状態になり、夏用のタオルケットにくるまって『めんどくさい』とか『家を継ぎたくない』とか言いながらコロコロと転がっていた。
「もうっ!夏向!そんなこと言ってないで、ポジティブにおばあさんが喜ぶものを考えるわよ!」
ほら、と焼き菓子の店で買ったブラウニーとマドレーヌを紅茶と一緒にローテーブルに置いた。
「そんなの簡単だよ」
「なに?」
「ひ孫」
はあ、とため息をついた。
言うと思った。
私がわかるくらいだから、倉永のおばあさんもわかるはず。
「夏向。おばあさんはそういう短絡的なことを望むようなタイプじゃないわよ」
「そうかなー」
「そうよ!」
半年後に『ひ孫でしょ?』みたいな態度で行ったら、おばあさんの軽蔑しきった顔が目に浮かぶ。
もぐもぐと夏向はブラウニーを食べ、紅茶に砂糖を五杯も入れた。
私は砂糖はいれない。太るから。
「桜帆はなんだと思う?」
「わからないけど、先生達が喜ぶ時って、成長した子供が元気でやってる時なのよ。だから、夏向がおばあさんにちゃんとやってますよってなにか見せるのはどう?」
「目の前でハッキング?」
「それはやっちゃだめ」
「わかった」
夏向のちゃんとやってますって、それ!?
どういう基準なのよ。
だいたい得意技の披露大会じゃないんだから。
おやつを食べ終わってもいい案はうかばなかった。
「困ったわね」
「なんなら、もっと手っ取り早い方法を考えようか?」
「待って!もう少し考えるから!」
面倒になった夏向が物騒なことを言い出し始め、焦って止めた。
下手にGOサインを出すとなにをしでかすか、わからない。
とりあえず、夕飯のお米を研ごうとたちあがり、炊飯器からお釜を取り出した。
「うん?」
「どうかした?桜帆」
「夏向!これよ!私と夏向が開発した炊飯器が完成したら、それをプレゼントするのよ」
「いいと思うけど」
「けど?」
「ひ孫の方がよかったなーーーって冗談だよ」
私の冷ややかな視線に気づいた夏向は慌てて、否定したけれど、冗談を言っているようには聞こえなかった。
「がんばろうね!夏向!」
「炊飯器になると、やる気だすね」
「なによ、悪い?」
「別にいいけど」
ちょっと不満そうな夏向はこの際無視よ!
完成に向けて頑張るわよ!
カモメの家のためにも!
気合いを入れてぐっと拳をにぎりしめたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「木目調がいい」
夏向は出来上がってきたサンプルを見て言った。
「デザインはともかく、夏向のほうはプログラミング終わったの?」
「いやあ、倉永君は流石だね!」
社長が上機嫌で現れた。
「我が社の家電プログラムのチームも誉めていたよ。勉強になったと言ってたけど、時任に行かなくていいのかい?」
「これが終わらないと桜帆が構ってくれないから」
「ほー!そりゃ、大変だね」
社長の相づちに気を良くした夏向はボールペンをカチカチしながら言った。
「結婚式も落ち着かないうちはしないって言い出して」
「まじめだねぇ」
「楽しみにしてたのに」
「倉永君。夫婦円満の秘訣はなんだと思う?」
「なんですか?」
真面目な顔で夏向は社長に聞いた。
「嫁さんをたてることだよ」
「なるほど」
なにをあの二人は真剣に話しているんだろう。
社長と夏向は気が合うのか、意外と仲がいいのよね。
「デザインは決まったし、後は試作品ができたら、製品テストね」
炊飯器の完成が目前にまで迫っていたーーー
それが私の感想なんだけど、夏向は違っていたみたいで、リビングでイモムシ状態になり、夏用のタオルケットにくるまって『めんどくさい』とか『家を継ぎたくない』とか言いながらコロコロと転がっていた。
「もうっ!夏向!そんなこと言ってないで、ポジティブにおばあさんが喜ぶものを考えるわよ!」
ほら、と焼き菓子の店で買ったブラウニーとマドレーヌを紅茶と一緒にローテーブルに置いた。
「そんなの簡単だよ」
「なに?」
「ひ孫」
はあ、とため息をついた。
言うと思った。
私がわかるくらいだから、倉永のおばあさんもわかるはず。
「夏向。おばあさんはそういう短絡的なことを望むようなタイプじゃないわよ」
「そうかなー」
「そうよ!」
半年後に『ひ孫でしょ?』みたいな態度で行ったら、おばあさんの軽蔑しきった顔が目に浮かぶ。
もぐもぐと夏向はブラウニーを食べ、紅茶に砂糖を五杯も入れた。
私は砂糖はいれない。太るから。
「桜帆はなんだと思う?」
「わからないけど、先生達が喜ぶ時って、成長した子供が元気でやってる時なのよ。だから、夏向がおばあさんにちゃんとやってますよってなにか見せるのはどう?」
「目の前でハッキング?」
「それはやっちゃだめ」
「わかった」
夏向のちゃんとやってますって、それ!?
どういう基準なのよ。
だいたい得意技の披露大会じゃないんだから。
おやつを食べ終わってもいい案はうかばなかった。
「困ったわね」
「なんなら、もっと手っ取り早い方法を考えようか?」
「待って!もう少し考えるから!」
面倒になった夏向が物騒なことを言い出し始め、焦って止めた。
下手にGOサインを出すとなにをしでかすか、わからない。
とりあえず、夕飯のお米を研ごうとたちあがり、炊飯器からお釜を取り出した。
「うん?」
「どうかした?桜帆」
「夏向!これよ!私と夏向が開発した炊飯器が完成したら、それをプレゼントするのよ」
「いいと思うけど」
「けど?」
「ひ孫の方がよかったなーーーって冗談だよ」
私の冷ややかな視線に気づいた夏向は慌てて、否定したけれど、冗談を言っているようには聞こえなかった。
「がんばろうね!夏向!」
「炊飯器になると、やる気だすね」
「なによ、悪い?」
「別にいいけど」
ちょっと不満そうな夏向はこの際無視よ!
完成に向けて頑張るわよ!
カモメの家のためにも!
気合いを入れてぐっと拳をにぎりしめたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「木目調がいい」
夏向は出来上がってきたサンプルを見て言った。
「デザインはともかく、夏向のほうはプログラミング終わったの?」
「いやあ、倉永君は流石だね!」
社長が上機嫌で現れた。
「我が社の家電プログラムのチームも誉めていたよ。勉強になったと言ってたけど、時任に行かなくていいのかい?」
「これが終わらないと桜帆が構ってくれないから」
「ほー!そりゃ、大変だね」
社長の相づちに気を良くした夏向はボールペンをカチカチしながら言った。
「結婚式も落ち着かないうちはしないって言い出して」
「まじめだねぇ」
「楽しみにしてたのに」
「倉永君。夫婦円満の秘訣はなんだと思う?」
「なんですか?」
真面目な顔で夏向は社長に聞いた。
「嫁さんをたてることだよ」
「なるほど」
なにをあの二人は真剣に話しているんだろう。
社長と夏向は気が合うのか、意外と仲がいいのよね。
「デザインは決まったし、後は試作品ができたら、製品テストね」
炊飯器の完成が目前にまで迫っていたーーー
22
お気に入りに追加
3,931
あなたにおすすめの小説
社長はお隣の幼馴染を溺愛している
椿蛍
恋愛
【改稿】2023.5.13
【初出】2020.9.17
倉地志茉(くらちしま)は両親を交通事故で亡くし、天涯孤独の身の上だった。
そのせいか、厭世的で静かな田舎暮らしに憧れている。
大企業沖重グループの経理課に務め、平和な日々を送っていたのだが、4月から新しい社長が来ると言う。
その社長というのはお隣のお屋敷に住む仁礼木要人(にれきかなめ)だった。
要人の家は大病院を経営しており、要人の両親は貧乏で身寄りのない志茉のことをよく思っていない。
志茉も気づいており、距離を置かなくてはならないと考え、何度か要人の申し出を断っている。
けれど、要人はそう思っておらず、志茉に冷たくされても離れる気はない。
社長となった要人は親会社の宮ノ入グループ会長から、婚約者の女性、扇田愛弓(おおぎだあゆみ)を紹介され―――
★宮ノ入シリーズ第4弾
一夜の過ちで懐妊したら、溺愛が始まりました。
青花美来
恋愛
あの日、バーで出会ったのは勤務先の会社の副社長だった。
その肩書きに恐れをなして逃げた朝。
もう関わらない。そう決めたのに。
それから一ヶ月後。
「鮎原さん、ですよね?」
「……鮎原さん。お腹の赤ちゃん、産んでくれませんか」
「僕と、結婚してくれませんか」
あの一夜から、溺愛が始まりました。
年上幼馴染の一途な執着愛
青花美来
恋愛
二股をかけられた挙句フラれた夕姫は、ある年の大晦日に兄の親友であり幼馴染の日向と再会した。
一途すぎるほどに一途な日向との、身体の関係から始まる溺愛ラブストーリー。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
勘違いで別れを告げた日から豹変した婚約者が毎晩迫ってきて困っています
Adria
恋愛
詩音は怪我をして実家の病院に診察に行った時に、婚約者のある噂を耳にした。その噂を聞いて、今まで彼が自分に触れなかった理由に気づく。
意を決して彼を解放してあげるつもりで別れを告げると、その日から穏やかだった彼はいなくなり、執着を剥き出しにしたSな彼になってしまった。
戸惑う反面、毎日激愛を注がれ次第に溺れていく――
イラスト:らぎ様
《エブリスタとムーンにも投稿しています》
練習なのに、とろけてしまいました
あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。
「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく
※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる